ジェントルマンズショコラ〜大人だって突然恋をする〜

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なけなしザッハトルテ7

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「きさ……きさん」

 涙が我慢できず、一粒零れ落ちると、電話の向こうで木崎さんは慌てふためいた。

「あ、その、いや……明智さん。ご、ごめんなさい! 変なことを頼んでしまいましたね。き、気にしないでください! ごめんなさい」

 見当外れに謝られる。違う、違うよ木崎さん。嬉しいんだ俺。すごく……嬉しいんだ。木崎さんは俺の欲求を全部満たしてくれる。こんな奇跡みたいな人……居ると思わなかった。俺は……、この人と一緒に居たい。どれだけ時間がかかってもいい。俺……、貴方を待つよ。

「……言う」

 情けない涙声で俺は言った

「言うよ……、何度でも言う。頑張って木崎さん……っ! 俺が……そばに居るから。離婚の後も寂しくないように、俺が……」

 笑い飛ばして励まして欲しいと言われたはずなのに、俺はまるで告白みたいな言葉を並べてしまって、途中で言葉を詰まらせた。重いかもしれないと思ったからだ。とはいえ、このまま告白してしまおうかとも考えた。でも、思いとどまって黙り込む。今は離婚の事で手一杯のはずだ。俺のことまで考えさせない方がいい。

「大丈夫だよ……、絶対大丈夫。ゆっくりでいいから、納得する形で……」
「明智さん」

 言い直す俺の言葉を最後まで聞かず、木崎さんは俺の名を呼んだ。そして──。

「離婚が成立したら、お祝いしてください」

 突拍子もないことを言われた。いや……、というか、離婚が成立したら言われずともお祝いをしたとは思うけど。

「お、祝い……ですか?」

 それでもそう聞き返すと、彼は電話口でくすぐったそうな笑みを漏らした。

「はい。私、明智さんのザッハトルテが好きなんです。私のために、作ってはいただけませんか?」

 先日食べ損ねましたし、と付け加える。
 ザッハトルテ。ほんとに好きなんだな。

「ふふ……、はい。分かりました。じゃあザッハトルテでお祝いしましょう」
「ありがとうございます。そしたら、私、その時……、人生で初めての告白をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 それはあまりに唐突な申し出で、一瞬頭の中が真っ白になった。

 斜め上。本当に……斜め上に居る。

 人生で、……初めての告白?

「ま……ま……っ」
「ま?」
「負けたぁぁぁ!」

 思わず叫んでしまう俺に、木崎さんは「えぇ? どういうことですか?」と焦った声で問いかけてくる。
 いやだって! 俺……っ、人生で二度目の告白をするって決めてたのに! さすがにには勝てないじゃんか!!

「うぅ……、ずるいなぁ。木崎さん」
「え、え? どういうことですか? だ、ダメでしたか?」
「いいよ。いいんだけど……」

 それなら……。

「じゃあ、せーので告白することにしましょうよ。俺だって……、告白したいから」

 不貞腐れた声で提案した俺に、木崎さんは「はは……」と小さく笑うと、そのまま一人でクスクスと笑い続けた。
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