ジェントルマンズショコラ〜大人だって突然恋をする〜

2wei

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なけなしザッハトルテ7

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 その夜、木崎さんから初めて電話がかかってきて、改めて昼間の事を謝られた。そんなに謝ってもらわなくてもいいのに。結果として俺は楓の想いをちゃんと知ることが出来たんだし、わだかまりも解けた。第一俺は、あの時木崎さんが楓に言い返してくれたこと、本当に嬉しく思ってるんだから。

「謝んないでよ。救世主かと思ったんだから……」
「救世主?」
「うん。まさかトイレ直してる業者の人が木崎さんだなんて思うわけないじゃん」

 そう言った俺に木崎さんは一拍置いて、可笑しそうに笑い出した。

「あはは! 確かにそうですよね。私もビックリしましたもん。トイレの外から “士浪” なんていう呼び声が聞こえてきたので」

 士浪。
 木崎さんにそう呼ばれたのは初めてかもしれない。

「そういえば……、き……木崎さんって下の名前、なんていうんですか?」

 ドキドキしながら尋ねると電話の向こうで何かごそごそ音が聞こえた後、落ち着いた声がそっと教えてくれた。

一誠いっせい

 一誠。うわ……カッコイイ。もうそれだけでカッコイイ。俺なんか “士浪” なのに。

「木崎一誠です。まぁ……離婚が成立すれば、木崎ではなくなりますけど」

 そうか、婿養子なんだった。

「じゃあ、離婚後の名前も教えてくださいよ」

 言うと彼はふふっと笑い、小さな声で答えてくれた。

「竹内、です」
「竹内……一誠、さん?」
「はい」

 ご丁寧に返事をされ、電話口で二人、照れ笑いする。

 あぁ……会いたいな。

 昼間に会ったばかりだけど、そんな風に思ってしまう。口に出して言ってしまいそうで、少しの沈黙が下りる。でも、木崎さんが先に口を開いた。

「今……、家に帰ってきてるんです」

 その言葉に、ふわふわしていた気持ちが急に現実に引き戻されたような気がして、きゅと口を閉じた。

「あ、今は車の中なんですけどね。ホテルを出て、先日から家に戻ってきてるんです」

 そっか……。もしかしてそうかな、とは思っていたけど……やっぱりそうなんだ。

 奥さんは……木崎さんとのこれからをどう考えてるんだろうか。離婚するんだろうか。そんなにすんなりいくものとも思えないけど。

「木崎さんは……最終的に、どうするおつもりなんですか?」

 勇気出して尋ねると、それはあまりにあっさり返事を頂いた。

「離婚するつもりでいます」

 この前とは違う。それがはっきりと分かる口調だった。
 離婚……。

 きっぱりと言い切った彼の言葉に、じわっと嬉しさが込み上がる。一つの家庭が壊れてしまう事を喜ぶなんて、とんでもなく不謹慎だとは思うけど、仕方ないよな。だって俺……この人の事好きなんだから。
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