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なけなしザッハトルテ6
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楓は怖かったんだ。自分から何かアクションを起こすことで、誰かが傷つくかもしれないことが、怖くて仕方なかったんだ。
修也の背中を押さなかったのは、俺を奪われること以上に、修也の性癖が誰かにバレて、笹森の時のようになるのを恐れたからだ。かといって俺に告白し直してこなかったのは、修也が「裏切り者」として俺たちの事を周囲に言いふらしかねないからで、また虐められるかもしれないことに……怯えたんだろう。
いや、楓の事だ。自分じゃなく、『俺がいじめられるかもしれないこと』に怯えて、恐れて、何も出来なかったのかもしれない。
楓……お前……。
“俺がまだお前の事好きなの知ってて見せつけてたんだろ!”
これはもしかすると本心なのかもしれない。けどきっと言いたかったのはこんなことじゃなくて……。そうだよな、楓?
こいつのこと、全部理解した途端、俺の涙は堰を切って溢れ出し、俺の肩を抱く木崎さんの胸をそっと押し退けた。
「違う……、木崎さん。多分そうじゃない」
俺の言葉に、木崎さんはじっと俺を見つめた。
「楓は……そんな男じゃなくて」
けど、それ以上伝える言葉が出て来なくて……、俺は楓を振り返り、その手を取った。
「守ってくれてたのか? 俺が、笹森のように虐められないか、ずっと……見ててくれたのか?」
聞いた俺に、楓はついに泣き崩れて、俺の手を固く握ったまま、「ごめん」と謝った。
やっぱり間違っていない。……そうだったんだな。
「士浪は賢いから……そんなヘマしないって……分かってたけど、ずっと怖くて」
震える手が俺の手を必死に握り込む。
「泣いてないかなって、酷いめに遭ってないかなって、次の相手は、本当に……、本当に士浪を幸せにしてくれるのかな……って、俺じゃ……なんでダメだったのかな……て」
そっか……そうか……。
ダメだったんじゃないんだよ。俺だって楓が良かったんだよ。楓しか好きじゃなかった。由利も高杉も、修也も槇原も、ひろきや晴斗だって、いいヤツだったけど、俺はずっと楓を愛してた。別れてからも……近くに居るだけでドキドキした。話すたびに触れたいと思った。もう一度、って何度となく願ったよ。
そんなに優しくするなら、「好きだ」ってもう一度言ってくれないかな、って……、高校を卒業する最後の最後の日まで、ずっと……ずっと期待してた。
でも叶わなかった。楓が……こんなに苦しんでたなんて……全然知らないまま。
そりゃ……、こんな俺じゃ誰も頼ってなんてこないよな。好きな人ひとり、支えてやれないんだから。
修也の背中を押さなかったのは、俺を奪われること以上に、修也の性癖が誰かにバレて、笹森の時のようになるのを恐れたからだ。かといって俺に告白し直してこなかったのは、修也が「裏切り者」として俺たちの事を周囲に言いふらしかねないからで、また虐められるかもしれないことに……怯えたんだろう。
いや、楓の事だ。自分じゃなく、『俺がいじめられるかもしれないこと』に怯えて、恐れて、何も出来なかったのかもしれない。
楓……お前……。
“俺がまだお前の事好きなの知ってて見せつけてたんだろ!”
これはもしかすると本心なのかもしれない。けどきっと言いたかったのはこんなことじゃなくて……。そうだよな、楓?
こいつのこと、全部理解した途端、俺の涙は堰を切って溢れ出し、俺の肩を抱く木崎さんの胸をそっと押し退けた。
「違う……、木崎さん。多分そうじゃない」
俺の言葉に、木崎さんはじっと俺を見つめた。
「楓は……そんな男じゃなくて」
けど、それ以上伝える言葉が出て来なくて……、俺は楓を振り返り、その手を取った。
「守ってくれてたのか? 俺が、笹森のように虐められないか、ずっと……見ててくれたのか?」
聞いた俺に、楓はついに泣き崩れて、俺の手を固く握ったまま、「ごめん」と謝った。
やっぱり間違っていない。……そうだったんだな。
「士浪は賢いから……そんなヘマしないって……分かってたけど、ずっと怖くて」
震える手が俺の手を必死に握り込む。
「泣いてないかなって、酷いめに遭ってないかなって、次の相手は、本当に……、本当に士浪を幸せにしてくれるのかな……って、俺じゃ……なんでダメだったのかな……て」
そっか……そうか……。
ダメだったんじゃないんだよ。俺だって楓が良かったんだよ。楓しか好きじゃなかった。由利も高杉も、修也も槇原も、ひろきや晴斗だって、いいヤツだったけど、俺はずっと楓を愛してた。別れてからも……近くに居るだけでドキドキした。話すたびに触れたいと思った。もう一度、って何度となく願ったよ。
そんなに優しくするなら、「好きだ」ってもう一度言ってくれないかな、って……、高校を卒業する最後の最後の日まで、ずっと……ずっと期待してた。
でも叶わなかった。楓が……こんなに苦しんでたなんて……全然知らないまま。
そりゃ……、こんな俺じゃ誰も頼ってなんてこないよな。好きな人ひとり、支えてやれないんだから。
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