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なけなしザッハトルテ6
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「なん……だと? あんたさっきから……っ」
「修也さんと言いましたっけ?」
冷静な木崎さんの声が怒りに震える楓に投げつけられる。
「結局、あなたは彼との友情を取ったのでしょう? だから明智さんに告白し直さなかった。修也さんと友達で居たいから。だけど、本心は明智さんを取り戻したい。だから本人に直接何も言わず、周りから攻め固めようとした。違いますか?」
俺の肩を抱く木崎さんの手に、ぎゅっと力を込められたのを感じた。
「明智さんは結果として戻ってはこなかったけど、例えばもう一度やり直せていたら、あなたは修也さんにどんなお言葉を掛けるおつもりだったんです? 最後まで秘密にしていたのでしょうか。それとも、“明智さんから告白されたから”、を貫き通して薄汚れた身の潔白を主張するおつもりだったのでしょうか」
俺がさっき言おうと思ったこと……、驚くほどそのまま木崎さんが口にした。
そうだよな、やっぱそう思うよな? 修也に気を遣って俺に何も言ってこなかったのなら、俺はやっぱり「その程度」だったんだよ。恋愛と友情を天秤に掛けて、楓は友情を取った。でもそれはきっと、修也が大事だったわけじゃなくて、自分の立場を守りたかったんじゃないのかって思うよ。
いい友人で居たいとか、今自分に向けられている信頼を維持したいとか、楓は優しくて皆から慕われていたから、その立場を崩したくなかったんだろ? 裏切り者のレッテルを貼られることを恐れていただけなんじゃないのか?
木崎さんはまっすぐ楓を睨みつけたまま、今の俺の心の中全部見ているかのような言葉を、乱暴に楓へ吐きつけた。
「いい顔すんなよ」
聞いたこともないような喋り口調。
けど、あぁ……。この人は、俺の気持ちをわかってくれている。
胸の中でもやもやしていたものが、気持ちいいほどさぁっと晴れて、俺達の前に立つ楓だけが顔面を蒼白とさせていた。
感動した。すごく嬉しく思った。そしてやっぱり俺は木崎さんを好きだと思った。
だけど、目の前に立つ楓を見ていると、なんか少し……違うような気がした。だって、俺が好きだった和泉楓という人間は……果たして本当にそんな男だっただろうか。
別れてから十六年。好きだった楓を思い出そうとする。どんな男だっただろうか。
楓は確かにいいヤツだったよ。優しくて、信頼出来て、人の気持ちを良く理解している男だった。だけど本当に、 “誰にでもいいヤツでいよう” としていただけなのだろうか。修也と “友達” だったわけじゃなくて、 “修也にとってのいい友達でいよう” としていただけだったのか? なんだか……違う気がする。
案の定、楓は唇を噛みしめ、小刻みに震え、小さく首を振った。
「……ちがう」
やはり見当違いか?
蚊の鳴くような細い声。楓は瞳いっぱいに涙をため込み、「そんなんじゃない」と否定した。そして──……。
「俺はただ……もう……、誰も……傷つけた……なか、った……」
そう言って、口元を隠して必死に涙をこらえた楓に、俺はようやくすべてを理解した気がした。
そうか……、そういうことかよ。
「修也さんと言いましたっけ?」
冷静な木崎さんの声が怒りに震える楓に投げつけられる。
「結局、あなたは彼との友情を取ったのでしょう? だから明智さんに告白し直さなかった。修也さんと友達で居たいから。だけど、本心は明智さんを取り戻したい。だから本人に直接何も言わず、周りから攻め固めようとした。違いますか?」
俺の肩を抱く木崎さんの手に、ぎゅっと力を込められたのを感じた。
「明智さんは結果として戻ってはこなかったけど、例えばもう一度やり直せていたら、あなたは修也さんにどんなお言葉を掛けるおつもりだったんです? 最後まで秘密にしていたのでしょうか。それとも、“明智さんから告白されたから”、を貫き通して薄汚れた身の潔白を主張するおつもりだったのでしょうか」
俺がさっき言おうと思ったこと……、驚くほどそのまま木崎さんが口にした。
そうだよな、やっぱそう思うよな? 修也に気を遣って俺に何も言ってこなかったのなら、俺はやっぱり「その程度」だったんだよ。恋愛と友情を天秤に掛けて、楓は友情を取った。でもそれはきっと、修也が大事だったわけじゃなくて、自分の立場を守りたかったんじゃないのかって思うよ。
いい友人で居たいとか、今自分に向けられている信頼を維持したいとか、楓は優しくて皆から慕われていたから、その立場を崩したくなかったんだろ? 裏切り者のレッテルを貼られることを恐れていただけなんじゃないのか?
木崎さんはまっすぐ楓を睨みつけたまま、今の俺の心の中全部見ているかのような言葉を、乱暴に楓へ吐きつけた。
「いい顔すんなよ」
聞いたこともないような喋り口調。
けど、あぁ……。この人は、俺の気持ちをわかってくれている。
胸の中でもやもやしていたものが、気持ちいいほどさぁっと晴れて、俺達の前に立つ楓だけが顔面を蒼白とさせていた。
感動した。すごく嬉しく思った。そしてやっぱり俺は木崎さんを好きだと思った。
だけど、目の前に立つ楓を見ていると、なんか少し……違うような気がした。だって、俺が好きだった和泉楓という人間は……果たして本当にそんな男だっただろうか。
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楓は確かにいいヤツだったよ。優しくて、信頼出来て、人の気持ちを良く理解している男だった。だけど本当に、 “誰にでもいいヤツでいよう” としていただけなのだろうか。修也と “友達” だったわけじゃなくて、 “修也にとってのいい友達でいよう” としていただけだったのか? なんだか……違う気がする。
案の定、楓は唇を噛みしめ、小刻みに震え、小さく首を振った。
「……ちがう」
やはり見当違いか?
蚊の鳴くような細い声。楓は瞳いっぱいに涙をため込み、「そんなんじゃない」と否定した。そして──……。
「俺はただ……もう……、誰も……傷つけた……なか、った……」
そう言って、口元を隠して必死に涙をこらえた楓に、俺はようやくすべてを理解した気がした。
そうか……、そういうことかよ。
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