ジェントルマンズショコラ〜大人だって突然恋をする〜

2wei

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なけなしザッハトルテ5

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 俺達は学校帰りや部活帰り、ファミレスに立ち寄って、安い晩御飯と、食後のデザートを食べた。

『士浪は絶対にデザート食うよな。食わない日に出くわしたことないし』

 そう言って俺の目の前で、今みたいに笑ってた。楓も一緒にデザートを頼んで、必ず毎回一口俺にくれたんだ。……知ってたよ。俺のために楓がいつも自分の分のデザートを注文していたこと。お腹がいっぱいの時でも無理して注文して、「半分やる」って、「食べてくれ」ってそう言ってさ……。

 思い出さなくていいこと、楓のたった一言で蘇る。

 俺、ほんとに……本当に楓を愛してたんだよ。これ以上ないってくらい……大好きだったのに。

 そんなこと思ってしまったら、突然悲しくなって……、俺は席を立った。

「明智?」
「……トイレ」

 平然を装ってトイレに立ったけど、涙は我慢できずトイレに到着するまでに零れて落ちた。

 愛されないことが悲しかった。寂しかった。虚しくて、馬鹿みたいで……、惨めだった。

「……クソっ」

 男子トイレ前。
 修理なのか点検なのか、業者の道具が置かれている。扉の前には『使用できます』の札が掛かっているけど……、こんな顔のまま業者の人と顔を合わせられない。

「ふざけんなよ……」

 逃げ場無しじゃんか。買ったばかりの洋服で、ごしごしと涙を拭い、トイレ前に設置されている手洗い場の鏡を覗きこむ。少し鼻が赤い。赤みが引くまで席には戻れない。落ち着け俺。これ以上思い出しちゃダメだ。

 一分、二分……三分。

 深呼吸しながら赤い鼻を冷やすように顔を洗ったりして時間が経過するのを待つ。
 けど、あまりに帰りの遅い俺に、楓が様子を見に来てしまった。

「士浪?」

 トイレ前の手洗い場で項垂れている俺の名を呼ぶ。

 反射的にそちらを見てしまって、慌てて顔を背けるけど、楓は足早に俺との距離を詰め、男子トイレのドアまで俺を追い込んだ。
 そして、勢い任せのように、俺の手を取った。

「なぁ士浪。俺、ずっと言いたいことあってさ……」

 切羽詰まったようなその声に、俺はふるふると首を振った。
 絶対に聞きたくないやつだ。どうせ……、「ごめん」って謝るんだろ? 「あの時はごめん」って、どうせ……っ。

 謝罪して欲しいわけじゃないんだよ。今更どうこうして欲しいとも思ってないんだ。思い出したくないんだよ。好きだった時の感情も、虚しさに打ちのめされた時のことも、何も……、何ひとつ、思い出したくないんだ。

 なのに。

「お前、俺と別れたあと……誰と付き合ってたんだ?」

 聞き間違いかと思うほど、突拍子もない質問を投げかけられた。


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