ジェントルマンズショコラ〜大人だって突然恋をする〜

2wei

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なけなしザッハトルテ5

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 持っていた荷物をバサバサと空いてる椅子に下ろし、俺はドカッと先に着席した。

「彼氏じゃない。彼女でもない。全部自分の買い物」
「へぇ……そう。今日はじゃあ、仕事休みなのかな?」

 そう言って俺の前の席に腰を下ろした楓はメニュー表を開いて俺へ差し出した。

「そうだよ。和泉は仕事だろ? こんなところで油売ってていいのか?」
「……ふふ、大丈夫だよ」
「今何の仕事してんの」

 尋ねると楓は「製薬会社」と答えた。

「病院に薬どうだ~って営業に行ってた。今はその帰り。しろ……、明智は何してんの?」

 呼び名を言い変えた。俺が、「楓」と呼ばなかったからだろう。

「俺はパティシエしてる」
「パティシエ!? 嘘! お前パティシエになったのか!? すげぇじゃん!」
「すごかないよ……別に」
「いや、すごいよ! 手に職持ってるってカッコイイじゃん!」

 苦笑いで首を傾げ、俺はメニュー表を楓へ渡した。
 素直で純粋な反応……、そういうとこ、昔から少しも変わってない。憎らしいほど……好きになった男のままだ。

「やっぱり明智はスゴイな~。昔からしっかりしてたもんな。真面目で、優しくて、頭良くてさ。俺、いっつも明智に勉強教えてもらってた記憶だ」

 お前それ……死んでも今の俺の周りの人間に言うんじゃねぇぞ。

「パティシエか~。なんか夢叶えたんだなって感じ」
「……お前、俺の夢なんか知らなかっただろ」
「いやでもそういう職業じゃん。夢だったんじゃないの?」

 別に……、そういう……。やめろよ、そういうこと恥ずかしげもなく聞いてくるの。「夢でした」なんて三十過ぎたおっさんに言わせて何が面白いんだよ。

「どこのケーキ屋さん? 食べてみたいなぁ、明智の作ったケーキ」

 屈託ない笑顔でそんなことを言う。

「……ケーキ屋さんじゃないし、食わせないし」
「え~! なんだよそれ! 意地悪言うなよ~!」

 意地悪じゃない。本気で言ってるんだよ。お前はそういう人懐こい顔で笑って、優しいこといっぱい言って、……どうせ酷いことするんだろ。

 もっとも……「もっとうまくやれよ、バカ」と思った自分を棚に上げるつもりは毛頭ないんだけどさ。

「死んでも食わせない」

 真面目なトーンで言ってしまった俺に、楓は笑っていた顔をきゅと引き締め直し、寂しそうに視線を落とした。

「……メニュー……、決めた?」

 話題を変えるように聞いてきた和泉に頷き、俺達は注文を済ませた。
 去って行く店員を見つめ、楓は困ったように微笑みながら開いたままのメニュー表を指す。そして──。

「ケーキ、頼まなくて良かったの?」

 優しい声で尋ねられた。
 その言葉に、和泉と繰り返したデートの記憶が一気に蘇る。

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