ジェントルマンズショコラ〜大人だって突然恋をする〜

2wei

文字の大きさ
上 下
33 / 54
なけなしザッハトルテ5

しおりを挟む
 次の休み、明るかった髪色を染め直した。髪も切った。大人っぽい服を買った。そしたら気分が少し前向きになって、どこかワクワクし始めて、新しい自分にちょっと期待もした。

 次はいつ木崎さんに会えるだろう。奥さんと今どういう状況か分からないから、俺からは下手に連絡が出来ない。もしかして家に帰っている可能性だってある。携帯を調べられている可能性だってゼロではないだろう。もちろん、GPSの可能性だって捨てきれないわけで。
 危険日を狙って木崎さんの子供を孕むような女だ。きっと、すごく彼の事を愛しているんだろうなって……そう思うから。

 携帯電話のメモリーをただじっと眺めながら、ため息を一つ。

「もっと服買おう。バリエーション増やさなきゃ」

 色んな店を巡って、店員さんと着せ替えごっこのように服を選びながら、女の買い物ばりにショッピングバックを抱えた。不思議とその数が増えるたびに気持ちは晴れやかになっていき、十五時過ぎ。お茶でも飲もうとカフェに立ち寄ることにした。

 だけどそこで、俺は──。

「士浪?」

 聞き取れないくらいの小さな声が俺を呼んだ気がして、ふと立ち止まった。そして声の主を探し、俺はありえない男と目が合った。

 スーツを着たサラリーマン。未だしっかりとした逆三角形の肉体美。
 ……嘘だろ?

「……士浪? 士浪……だよな!?」
「……かえ……で」

 高校時代の……元恋人。和泉楓。

 踵を返して逃げ出しそうになり、ぐっと瞬間踏ん張る。逃げないように。

「信じられない……また会えるなんて! 元気にしてたか?」

 変わらない柔和な笑顔が向けられる。スーツを着ているその姿は、惚れ直しそうなほどカッコイイ。
 だけどなんで今……俺の前の現れるんだよ。

「お茶でも飲むのか? 俺もいいかな?」

 カフェのドアを握ったままの自分が憎らしい。

 ダメだと言ってやりたくなる。待ち合わせだと嘘でもついて追い払いたい。けど……、でも。

「士浪、変わってないな。全然老けてないじゃん。俺なんかもう完全におっさんなのに」

 そんな風に無邪気に笑い、俺の代わりに店のドアを開け、そっと背中に手を添えられた。
 ……逃げられない。今すぐにでも振り払って逃げ出したいのに。

 だけど、今ここで楓と会ったのは、いい機会なのかもしれない。過去の全部を今日で終らせるため、そのために巡り合ったのかもしれない。

 だとしたら、やっぱり逃げちゃいけないよな。

「あ。待ち合わせとかじゃない? 大丈夫?」
「……あぁ、大丈夫。一人だよ」

 うん、って言ってしまいたいところを堪える。

 店員に案内されるまま窓際の席へと向かう。よくこんな良席がこの時間帯に空いていたな、と少し恨めしく思う。もっと奥の、陰気臭い席で良かったのだが。

「結構荷物、多くない? ほんとに一人? 彼女の荷物持ちしてたとかじゃないよね?」

 彼女の荷物持ち?

 思わず睨むように和泉を見ると一瞬身を引き、苦笑を漏らしながら言い直した

「ごめん……、彼氏、だったかな?」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

処理中です...