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なけなしザッハトルテ5
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次の休み、明るかった髪色を染め直した。髪も切った。大人っぽい服を買った。そしたら気分が少し前向きになって、どこかワクワクし始めて、新しい自分にちょっと期待もした。
次はいつ木崎さんに会えるだろう。奥さんと今どういう状況か分からないから、俺からは下手に連絡が出来ない。もしかして家に帰っている可能性だってある。携帯を調べられている可能性だってゼロではないだろう。もちろん、GPSの可能性だって捨てきれないわけで。
危険日を狙って木崎さんの子供を孕むような女だ。きっと、すごく彼の事を愛しているんだろうなって……そう思うから。
携帯電話のメモリーをただじっと眺めながら、ため息を一つ。
「もっと服買おう。バリエーション増やさなきゃ」
色んな店を巡って、店員さんと着せ替えごっこのように服を選びながら、女の買い物ばりにショッピングバックを抱えた。不思議とその数が増えるたびに気持ちは晴れやかになっていき、十五時過ぎ。お茶でも飲もうとカフェに立ち寄ることにした。
だけどそこで、俺は──。
「士浪?」
聞き取れないくらいの小さな声が俺を呼んだ気がして、ふと立ち止まった。そして声の主を探し、俺はありえない男と目が合った。
スーツを着たサラリーマン。未だしっかりとした逆三角形の肉体美。
……嘘だろ?
「……士浪? 士浪……だよな!?」
「……かえ……で」
高校時代の……元恋人。和泉楓。
踵を返して逃げ出しそうになり、ぐっと瞬間踏ん張る。逃げないように。
「信じられない……また会えるなんて! 元気にしてたか?」
変わらない柔和な笑顔が向けられる。スーツを着ているその姿は、惚れ直しそうなほどカッコイイ。
だけどなんで今……俺の前の現れるんだよ。
「お茶でも飲むのか? 俺もいいかな?」
カフェのドアを握ったままの自分が憎らしい。
ダメだと言ってやりたくなる。待ち合わせだと嘘でもついて追い払いたい。けど……、でも。
「士浪、変わってないな。全然老けてないじゃん。俺なんかもう完全におっさんなのに」
そんな風に無邪気に笑い、俺の代わりに店のドアを開け、そっと背中に手を添えられた。
……逃げられない。今すぐにでも振り払って逃げ出したいのに。
だけど、今ここで楓と会ったのは、いい機会なのかもしれない。過去の全部を今日で終らせるため、そのために巡り合ったのかもしれない。
だとしたら、やっぱり逃げちゃいけないよな。
「あ。待ち合わせとかじゃない? 大丈夫?」
「……あぁ、大丈夫。一人だよ」
うん、って言ってしまいたいところを堪える。
店員に案内されるまま窓際の席へと向かう。よくこんな良席がこの時間帯に空いていたな、と少し恨めしく思う。もっと奥の、陰気臭い席で良かったのだが。
「結構荷物、多くない? ほんとに一人? 彼女の荷物持ちしてたとかじゃないよね?」
彼女の荷物持ち?
思わず睨むように和泉を見ると一瞬身を引き、苦笑を漏らしながら言い直した
「ごめん……、彼氏、だったかな?」
次はいつ木崎さんに会えるだろう。奥さんと今どういう状況か分からないから、俺からは下手に連絡が出来ない。もしかして家に帰っている可能性だってある。携帯を調べられている可能性だってゼロではないだろう。もちろん、GPSの可能性だって捨てきれないわけで。
危険日を狙って木崎さんの子供を孕むような女だ。きっと、すごく彼の事を愛しているんだろうなって……そう思うから。
携帯電話のメモリーをただじっと眺めながら、ため息を一つ。
「もっと服買おう。バリエーション増やさなきゃ」
色んな店を巡って、店員さんと着せ替えごっこのように服を選びながら、女の買い物ばりにショッピングバックを抱えた。不思議とその数が増えるたびに気持ちは晴れやかになっていき、十五時過ぎ。お茶でも飲もうとカフェに立ち寄ることにした。
だけどそこで、俺は──。
「士浪?」
聞き取れないくらいの小さな声が俺を呼んだ気がして、ふと立ち止まった。そして声の主を探し、俺はありえない男と目が合った。
スーツを着たサラリーマン。未だしっかりとした逆三角形の肉体美。
……嘘だろ?
「……士浪? 士浪……だよな!?」
「……かえ……で」
高校時代の……元恋人。和泉楓。
踵を返して逃げ出しそうになり、ぐっと瞬間踏ん張る。逃げないように。
「信じられない……また会えるなんて! 元気にしてたか?」
変わらない柔和な笑顔が向けられる。スーツを着ているその姿は、惚れ直しそうなほどカッコイイ。
だけどなんで今……俺の前の現れるんだよ。
「お茶でも飲むのか? 俺もいいかな?」
カフェのドアを握ったままの自分が憎らしい。
ダメだと言ってやりたくなる。待ち合わせだと嘘でもついて追い払いたい。けど……、でも。
「士浪、変わってないな。全然老けてないじゃん。俺なんかもう完全におっさんなのに」
そんな風に無邪気に笑い、俺の代わりに店のドアを開け、そっと背中に手を添えられた。
……逃げられない。今すぐにでも振り払って逃げ出したいのに。
だけど、今ここで楓と会ったのは、いい機会なのかもしれない。過去の全部を今日で終らせるため、そのために巡り合ったのかもしれない。
だとしたら、やっぱり逃げちゃいけないよな。
「あ。待ち合わせとかじゃない? 大丈夫?」
「……あぁ、大丈夫。一人だよ」
うん、って言ってしまいたいところを堪える。
店員に案内されるまま窓際の席へと向かう。よくこんな良席がこの時間帯に空いていたな、と少し恨めしく思う。もっと奥の、陰気臭い席で良かったのだが。
「結構荷物、多くない? ほんとに一人? 彼女の荷物持ちしてたとかじゃないよね?」
彼女の荷物持ち?
思わず睨むように和泉を見ると一瞬身を引き、苦笑を漏らしながら言い直した
「ごめん……、彼氏、だったかな?」
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