ジェントルマンズショコラ〜大人だって突然恋をする〜

2wei

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なけなしザッハトルテ5

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 翌日、ディナーミーティング。木崎さんがいた。
 ホールスタッフと厨房スタッフとの合同ミーティング。予約状況や日替わりメニューの確認、食材在庫の報告だ。これで一応、このレストランにはコースメニューが存在している。日替わりメニューというのはまさにこのコース料理のことで、メインディッシュはもちろん、デザートも日替わりとなる。そのため、朝と夜にこうしてミーティングが行われ、スタッフ間で情報を共有しなければいけない。この一週間、見事に俺達はすれ違い、今日、本当に久々にこのミーティングで彼の姿を見た。

 指輪は外されていない。痩せても太ってもやつれてもいない。いつも通りの木崎さんだ。
 ミーティング内容もそこそこに、俺の意識はずっと木崎さんに向いている。厨房に入ってきた時に一度目が合っただけで、彼は真面目にメモを取っていた。店長の後ろに立ち、隣にいる女子大生の新人アルバイトとメニューの内容をひそひそと話している。きっと教えてあげているのだろう。

「じゃあ、明智。今日のドルチェを」
「はい」

 シェフに言われ、俺は今日のデザートを報告する。

「本日のプチコースはいちごのムースです。グランメニューAとBはショーケース内のケーキ一つ、もしくはベリーのクレープ・バニラアイス添えになります。オレンジに変更可能なので、お客様に都度確認してください。スペチアーレの三種盛りサーブデザートはチョコケーキ、いちごのムース、オレンジジュレ、シフォンケーキ二種、いつも通りプレーンと紅茶を用意しています。生クリームの有無を確認の上サーブしてください。それからベリーのミルクレープと杏仁豆腐。以上です」

 別に意地悪をしたわけではないが、新人のアルバイトはメモを取り切れなかったのか、慌てふためきながら木崎さんにヘルプしている。これでもキミのためにいつも以上に丁寧に説明したつもりなのだが。

「ミーティングは以上でよろしいでしょうか」

 店長が締めると全員が「si」と頷いた。

「ではディナータイムもよろしくお願いします」
「お願いしま~す」

 そのままホールスタッフ達は厨房を出ていき、こちらもこちらで持ち場へと戻ってゆく。木崎さんは新人の女の子に自分のメモを見せてあげながら、「サーブデザートは店長達が動いてくれるから、今はそんなに必死に覚えなくても大丈夫だよ」なんて適当なことを教えている。自称・物事を簡単に考えている、というのは本当らしいな。

「あ、キミ!」

 厨房を最後に出ていく木崎さんと新人の女の子を、俺は呼び止めた。
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