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なけなしザッハトルテ4
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今までのこと、全部話した。木崎さんが家庭に戻るかもしれないこと、仕事がすれ違ってばかりで少しも会話が出来ていないこと、怖くて連絡を取れていないこと。
かっちゃんは話の腰を折ることもなく、うんうんと頷きながら全部を聞いてくれて、優しく俺の肩を撫でた。
「間違ってないわ、士浪。よくやってる。よく我慢してるわ。それでいい。全然間違ってない」
これでいいなんて、俺には分からなかった。俺は木崎さんの決断を聞くのが怖くて逃げてるだけ。きっと本当は、ちゃんと話を聞いてやるべきなんじゃないのか?
けど、かっちゃんは言った。
「彼からの連絡を待ちましょう。デリケートな問題だから、あまり色々口出ししない方がいいわ。士浪の言葉選びは間違ってない。ちゃんと彼の力に変わってるはずよ」
木崎さんの力に……?
例え、それが「家庭に戻る」という決断だったとしても、俺の言葉は間違いじゃないってことなのか?
でも、俺にはやっぱり分からない。木崎さんにとって ”後悔のない選択“ が何かなんて。彼にとっての後悔のない選択は、俺にとっての後悔になるかもしれない。そう思と……、また怖い。
あの時……高校生のあの時……、和泉に告白して、きっとあいつは後悔しないように俺の告白を受け入れたんだろう。でも結果的に俺は告白したことを後悔してる。しなきゃ良かったと、今尚……思うよ。
「大丈夫よ、士浪。十七年間浮気一つしなかった真面目な男が、あなたを抱いているんですもの。私とミクに見せつけるように、あなたを連れ去ったんですもの!」
そう言ってくれたかっちゃんだけど、それは違う。
「あれは、俺が困ってるのを察して連れ出してくれただけで、そういうんじゃないんだよ」
否定した俺だったが、かっちゃんは眉を顰めて言った。
「あらやだ。あなた気付いてなかったの? 彼、あの時、私たちの目の前で結婚指輪を外して挑発してきていたのよ? 奪えるものなら奪って見ろとでもいう風にね」
驚いた。
「彼、いい性格してると思うわ。あの後、ミクったら地団駄踏んでたもの。いい気味って思っちゃった! だから私は大賛成! 彼、すごくいい男よ!」
結婚指輪……を?
いつもちゃんと外してくれる。ミクやかっちゃんの前でも……そんなことしてくれたのか。
「だったら……俺はどうしたらいい? ホントに、待ってるだけでいいのか?」
かっちゃんはにっこり微笑み、小さく首を振った。
「一つだけ」
そう言ってかっちゃんが教えてくれたことは、今の俺にも出来そうなことだった。すれ違いの毎日でも、わずかな時間さえあれば簡単に出来ること。
明日、木崎さんは出勤だろうか。俺はうまく……やれるだろうか。
かっちゃんは話の腰を折ることもなく、うんうんと頷きながら全部を聞いてくれて、優しく俺の肩を撫でた。
「間違ってないわ、士浪。よくやってる。よく我慢してるわ。それでいい。全然間違ってない」
これでいいなんて、俺には分からなかった。俺は木崎さんの決断を聞くのが怖くて逃げてるだけ。きっと本当は、ちゃんと話を聞いてやるべきなんじゃないのか?
けど、かっちゃんは言った。
「彼からの連絡を待ちましょう。デリケートな問題だから、あまり色々口出ししない方がいいわ。士浪の言葉選びは間違ってない。ちゃんと彼の力に変わってるはずよ」
木崎さんの力に……?
例え、それが「家庭に戻る」という決断だったとしても、俺の言葉は間違いじゃないってことなのか?
でも、俺にはやっぱり分からない。木崎さんにとって ”後悔のない選択“ が何かなんて。彼にとっての後悔のない選択は、俺にとっての後悔になるかもしれない。そう思と……、また怖い。
あの時……高校生のあの時……、和泉に告白して、きっとあいつは後悔しないように俺の告白を受け入れたんだろう。でも結果的に俺は告白したことを後悔してる。しなきゃ良かったと、今尚……思うよ。
「大丈夫よ、士浪。十七年間浮気一つしなかった真面目な男が、あなたを抱いているんですもの。私とミクに見せつけるように、あなたを連れ去ったんですもの!」
そう言ってくれたかっちゃんだけど、それは違う。
「あれは、俺が困ってるのを察して連れ出してくれただけで、そういうんじゃないんだよ」
否定した俺だったが、かっちゃんは眉を顰めて言った。
「あらやだ。あなた気付いてなかったの? 彼、あの時、私たちの目の前で結婚指輪を外して挑発してきていたのよ? 奪えるものなら奪って見ろとでもいう風にね」
驚いた。
「彼、いい性格してると思うわ。あの後、ミクったら地団駄踏んでたもの。いい気味って思っちゃった! だから私は大賛成! 彼、すごくいい男よ!」
結婚指輪……を?
いつもちゃんと外してくれる。ミクやかっちゃんの前でも……そんなことしてくれたのか。
「だったら……俺はどうしたらいい? ホントに、待ってるだけでいいのか?」
かっちゃんはにっこり微笑み、小さく首を振った。
「一つだけ」
そう言ってかっちゃんが教えてくれたことは、今の俺にも出来そうなことだった。すれ違いの毎日でも、わずかな時間さえあれば簡単に出来ること。
明日、木崎さんは出勤だろうか。俺はうまく……やれるだろうか。
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