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なけなしザッハトルテ3
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「いや、大丈夫です。別に、どっちかを狙ってたなんてわけでもないし、スーツの男は俺の親友で、まぁちょっと今喧嘩してるんですけど……、背の高い男は、見た目通りチャラい男ですよ。俺が言うのもなんですけど」
そう答える俺に木崎さんは「ははっ」と可笑しそうに笑うと、大きな通りへ出てタクシーを拾ってくれた。
二人一緒にタクシーへ乗り込み、俺は自宅の場所を運転手へ告げた。
「今夜、うちに……泊って行ってください」
改めてそう言うと、木崎さんは静かに頷き、「ありがとうございます」と礼を言った。そして、そっと俺の手に手を重ねてきた。優しい……手。
バカみたいにドキドキしている自分がいる。こんな風に誰かと手を繋ぐことなんて今まで何回として来てるのに。
「私は、明智さんをチャラいとは思いませんよ」
静かにそう話し出した木崎さんに、俺はひゅっと息を飲み込んだ。
「お仕事ぶりを見ていると言うのもあるのでしょうけど、昨日だって、私のどうしようもない話を、文句ひとつ言わずに全部聞いてくださいました。チャラい、の定義がどういうものか……良くは知りませんが、私はそういう人達は、物事を簡単に捉えすぎている人達かな、と思うんです。だとしたら、明智さんはそこには含まれません」
隣に座る木崎さんの横顔へ、自然と視線が向く。
「……はっきりとは言いきれませんけど、明智さんは色んな事、ちょっと難しく考えてらっしゃるような気がするんですよね。そして多分、私の方が簡単に考えすぎている。そんな風に思うんです」
なんでだろう、と困ったように笑いながら木崎さんは首を傾げた。
でも……、あぁ、そうか……だから、木崎さんは俺に「笑って飛ばして欲しかった」なんて言ったんだ。俺をきっと“チャラい”と思っていたからこそ、この苦しい状況を少しでも楽にしたくて、笑い飛ばして欲しい……なんて。
そうか……、そういうこと……か。
「ごめんなさい。もっと俺が、軽い男だったら良かったですね」
「え?」
「見た目こんなんだから、チャラい男を期待してたんでしょ? でも思ってるほどじゃなかった、って感じですかね? けどまぁ、俺もこれで三十超えたいい大人なんでね」
思わず嘲笑が漏れる。
重なっていた手を振りほどいて、俺は腕を組んだ。
「チャラいは一般的に、軽薄で安っぽい感じの事を言うんですよ。まぁ、物事を簡単に考えている、ってのも間違いではないんでしょうけど、俺は誰がどう見ても軽薄で安っぽい男です。ただ、要らぬことをごちゃごちゃと考えてはいますけど」
ややこしい男だと自分でも思うよ。
何か言われるたびに、いちいちイライラして。三十超えたいい大人なら、こんなことくらいで怒るなよって自分でもそう思うけどさ。
でも俺は……、木崎さんに……少しでも……。
少しでも木崎さんの力になれたら……って、そう思ったんだよ。
そっぽ向いてしまった俺に木崎さんは、ふっと笑い、可笑しそうにつぶやいた。
「だとしたら、私は当たりくじを引き当てましたね」
木崎さんは……俺の想像の斜め上に居る──。
思ってもみなかった言葉が弾丸みたいに俺の体を貫いた。
胸の奥から……体の内側から、ぶわって何かが俺に襲ったような感覚。今、自分がどういう感情なのか、全然わからなかった。
でもただ、撃ち抜かれた胸の内側から、ナニカが俺の呼吸を乱して、ナニカが俺の涙腺を刺激して、ナニカが俺の体を震わせた。
「明智さんが、軽薄で安っぽく見せるのが得意な、大人の男性で良かったです」
震えだしてしまう唇をぎゅっと噛みしめて、俺は……組んでいた手をそっと解き……、窓の外を睨みつけながら、木崎さんの手をもう一度握った。
きゅっと優しく握り返してくる温かい手が、俺の心を全部……ふんわりと包んでくれるような気がした。
そう答える俺に木崎さんは「ははっ」と可笑しそうに笑うと、大きな通りへ出てタクシーを拾ってくれた。
二人一緒にタクシーへ乗り込み、俺は自宅の場所を運転手へ告げた。
「今夜、うちに……泊って行ってください」
改めてそう言うと、木崎さんは静かに頷き、「ありがとうございます」と礼を言った。そして、そっと俺の手に手を重ねてきた。優しい……手。
バカみたいにドキドキしている自分がいる。こんな風に誰かと手を繋ぐことなんて今まで何回として来てるのに。
「私は、明智さんをチャラいとは思いませんよ」
静かにそう話し出した木崎さんに、俺はひゅっと息を飲み込んだ。
「お仕事ぶりを見ていると言うのもあるのでしょうけど、昨日だって、私のどうしようもない話を、文句ひとつ言わずに全部聞いてくださいました。チャラい、の定義がどういうものか……良くは知りませんが、私はそういう人達は、物事を簡単に捉えすぎている人達かな、と思うんです。だとしたら、明智さんはそこには含まれません」
隣に座る木崎さんの横顔へ、自然と視線が向く。
「……はっきりとは言いきれませんけど、明智さんは色んな事、ちょっと難しく考えてらっしゃるような気がするんですよね。そして多分、私の方が簡単に考えすぎている。そんな風に思うんです」
なんでだろう、と困ったように笑いながら木崎さんは首を傾げた。
でも……、あぁ、そうか……だから、木崎さんは俺に「笑って飛ばして欲しかった」なんて言ったんだ。俺をきっと“チャラい”と思っていたからこそ、この苦しい状況を少しでも楽にしたくて、笑い飛ばして欲しい……なんて。
そうか……、そういうこと……か。
「ごめんなさい。もっと俺が、軽い男だったら良かったですね」
「え?」
「見た目こんなんだから、チャラい男を期待してたんでしょ? でも思ってるほどじゃなかった、って感じですかね? けどまぁ、俺もこれで三十超えたいい大人なんでね」
思わず嘲笑が漏れる。
重なっていた手を振りほどいて、俺は腕を組んだ。
「チャラいは一般的に、軽薄で安っぽい感じの事を言うんですよ。まぁ、物事を簡単に考えている、ってのも間違いではないんでしょうけど、俺は誰がどう見ても軽薄で安っぽい男です。ただ、要らぬことをごちゃごちゃと考えてはいますけど」
ややこしい男だと自分でも思うよ。
何か言われるたびに、いちいちイライラして。三十超えたいい大人なら、こんなことくらいで怒るなよって自分でもそう思うけどさ。
でも俺は……、木崎さんに……少しでも……。
少しでも木崎さんの力になれたら……って、そう思ったんだよ。
そっぽ向いてしまった俺に木崎さんは、ふっと笑い、可笑しそうにつぶやいた。
「だとしたら、私は当たりくじを引き当てましたね」
木崎さんは……俺の想像の斜め上に居る──。
思ってもみなかった言葉が弾丸みたいに俺の体を貫いた。
胸の奥から……体の内側から、ぶわって何かが俺に襲ったような感覚。今、自分がどういう感情なのか、全然わからなかった。
でもただ、撃ち抜かれた胸の内側から、ナニカが俺の呼吸を乱して、ナニカが俺の涙腺を刺激して、ナニカが俺の体を震わせた。
「明智さんが、軽薄で安っぽく見せるのが得意な、大人の男性で良かったです」
震えだしてしまう唇をぎゅっと噛みしめて、俺は……組んでいた手をそっと解き……、窓の外を睨みつけながら、木崎さんの手をもう一度握った。
きゅっと優しく握り返してくる温かい手が、俺の心を全部……ふんわりと包んでくれるような気がした。
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