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なけなしザッハトルテ3
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深夜0時。
洋服を着込んで乱れている髪を整えた。
「ご休憩なの? いいじゃん、一泊しようぜ」
「しない」
「明日も仕事?」
「休み」
「じゃあいいだろ~」
「お前だけ泊ってけよ。俺は帰る」
「今日士浪、ほんとイラッちじゃ~ん」
「最初からそう言ってるだろ」
ハンガーにかけている上着の袖を最後に通すと、俺は財布からお金を取り出した。
「じゃ、またなミク」
「待って待って。俺も出るよ」
「あっそ。じゃ、お先に」
「待ってってば~! なんでそんなにつれないんだよぉ!」
ミクは慌ててベッドを下りると超特急で服を着た。仕方がないので待っててやり、二人一緒にホテルを出た。
「どっか飲みに行く? それともほんとに帰んの?」
「帰るよ」
「だったら俺んち来る?」
「……いや、い……、え?」
断ろうとして、一瞬思考回路が停止した。
だって、ミクにお持ち帰りされた連中の中で、家まで行ったなんて話はかつて一度も聞いた事が無い。これなに? 超レア体験になるんじゃね?
「ふふふ……、驚いてる。士浪は口堅そうだしな。いいよ、うちおいでよ」
びっくりしてしばらく返事すらできなかった俺だけど、「行こうかな」と言ってしまいそうになるその寸前。
「士浪!?」
俺たちの間に突然割り込んできた声。はっとしてそちらを見ると、そこにはかっちゃんが立っていた。
「か……っちゃ」
「おぁ、勝司くんじゃん。やっほ~」
「あらやだ、ミクと一緒だったの?」
「そうなの~ぉ。それよりちょっと~、キミんとこの士浪くん、今日超絶ご機嫌斜めなんですけど~? なんか知ってる、勝司くん? 俺今ご機嫌取り中なの。拗ねてる士浪くん可愛すぎて俺の性癖に刺さる~ぅ」
どエムか、ばか。
「あら、ごめんなさいね。ご機嫌斜めなのは……、私のせいね」
「うぉ、まじ? 士浪、勝司くんと喧嘩してたの? めっずらしい! いっつもベタベタしてるくせに!」
「ベタベタなんてしてねぇよ」
「喧嘩だって、特別珍しくもないわね」
かっちゃんもそう付け加える。
「あんた、それより。こんなところで何してたんだよ」
口きかない、と自分で言ったけど、俺はかっちゃんにそれを尋ねた。すると少し気まずげに隣のホテルを見上げる。
「……エッチ……してたわよ」
信じられねぇ!
「あんたさぁ! 俺の事ここまで怒らせておいて、よく人抱く根性あるな! まじで幻滅なんだけど!」
「な、なによ! 士浪だってミクと寝てんじゃないのよ! クラブ一のイケメン引っ掛けて、私にあてつけてるつもり!? どうせ私は中肉中背の普通の男よ! イケメンでもなければお洒落でもないわ! 有り余ってるお金で美容整形でもしてやろうかしら!! 悔しい!!」
そうヒステリックに叫んだかっちゃんに、ミクが失礼にも吹き出すと、「どうどう」と言いながら肩を叩いた。
「勝司くんはそのままで十分魅力的だよ。弄る必要なんてないから」
「ミク……っ! あんたには分かんないわよって言いたいところだけど、すごく胸キュンしちゃったから許してあげる……っ」
「ぶはっ! ありがとう、勝司くん。安心したよ。じゃあ、士浪は俺が貰って帰ってもいいかな?」
さらっとそんなことを言ったミクに、かっちゃんは真面目な顔できっぱりと言い切った。
「誰がやるか。お前にだけは死んでもやんねぇよ」
かっちゃんと知り合って四年。初めて「男」の声を出したかっちゃんを見た。
洋服を着込んで乱れている髪を整えた。
「ご休憩なの? いいじゃん、一泊しようぜ」
「しない」
「明日も仕事?」
「休み」
「じゃあいいだろ~」
「お前だけ泊ってけよ。俺は帰る」
「今日士浪、ほんとイラッちじゃ~ん」
「最初からそう言ってるだろ」
ハンガーにかけている上着の袖を最後に通すと、俺は財布からお金を取り出した。
「じゃ、またなミク」
「待って待って。俺も出るよ」
「あっそ。じゃ、お先に」
「待ってってば~! なんでそんなにつれないんだよぉ!」
ミクは慌ててベッドを下りると超特急で服を着た。仕方がないので待っててやり、二人一緒にホテルを出た。
「どっか飲みに行く? それともほんとに帰んの?」
「帰るよ」
「だったら俺んち来る?」
「……いや、い……、え?」
断ろうとして、一瞬思考回路が停止した。
だって、ミクにお持ち帰りされた連中の中で、家まで行ったなんて話はかつて一度も聞いた事が無い。これなに? 超レア体験になるんじゃね?
「ふふふ……、驚いてる。士浪は口堅そうだしな。いいよ、うちおいでよ」
びっくりしてしばらく返事すらできなかった俺だけど、「行こうかな」と言ってしまいそうになるその寸前。
「士浪!?」
俺たちの間に突然割り込んできた声。はっとしてそちらを見ると、そこにはかっちゃんが立っていた。
「か……っちゃ」
「おぁ、勝司くんじゃん。やっほ~」
「あらやだ、ミクと一緒だったの?」
「そうなの~ぉ。それよりちょっと~、キミんとこの士浪くん、今日超絶ご機嫌斜めなんですけど~? なんか知ってる、勝司くん? 俺今ご機嫌取り中なの。拗ねてる士浪くん可愛すぎて俺の性癖に刺さる~ぅ」
どエムか、ばか。
「あら、ごめんなさいね。ご機嫌斜めなのは……、私のせいね」
「うぉ、まじ? 士浪、勝司くんと喧嘩してたの? めっずらしい! いっつもベタベタしてるくせに!」
「ベタベタなんてしてねぇよ」
「喧嘩だって、特別珍しくもないわね」
かっちゃんもそう付け加える。
「あんた、それより。こんなところで何してたんだよ」
口きかない、と自分で言ったけど、俺はかっちゃんにそれを尋ねた。すると少し気まずげに隣のホテルを見上げる。
「……エッチ……してたわよ」
信じられねぇ!
「あんたさぁ! 俺の事ここまで怒らせておいて、よく人抱く根性あるな! まじで幻滅なんだけど!」
「な、なによ! 士浪だってミクと寝てんじゃないのよ! クラブ一のイケメン引っ掛けて、私にあてつけてるつもり!? どうせ私は中肉中背の普通の男よ! イケメンでもなければお洒落でもないわ! 有り余ってるお金で美容整形でもしてやろうかしら!! 悔しい!!」
そうヒステリックに叫んだかっちゃんに、ミクが失礼にも吹き出すと、「どうどう」と言いながら肩を叩いた。
「勝司くんはそのままで十分魅力的だよ。弄る必要なんてないから」
「ミク……っ! あんたには分かんないわよって言いたいところだけど、すごく胸キュンしちゃったから許してあげる……っ」
「ぶはっ! ありがとう、勝司くん。安心したよ。じゃあ、士浪は俺が貰って帰ってもいいかな?」
さらっとそんなことを言ったミクに、かっちゃんは真面目な顔できっぱりと言い切った。
「誰がやるか。お前にだけは死んでもやんねぇよ」
かっちゃんと知り合って四年。初めて「男」の声を出したかっちゃんを見た。
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