ジェントルマンズショコラ〜大人だって突然恋をする〜

2wei

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なけなしザッハトルテ2

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「その人、戸建て? マンション?」

 引き続き質問されて首を傾げる。

「いやごめん。そこまでは知らないな」
「そう。まぁ、上手くいかなかったらもう一度来て頂戴。士浪のお願いだから、仕方ないし聞いてあげる」
「ありがと」

 頼りになる。
 やっぱり俺じゃダメなんだよ、木崎さん。頼るべき相手はちゃんと選ばなきゃいけない。けど、俺に相談したからこそかっちゃんに辿り着けるわけでもあるんだけどな。同性愛者だという事実を他人にカミングアウトするのは、例え弁護士相手であろうと躊躇うのが当たり前だ。その点、かっちゃんは彼自身がゲイだ。相談だってしやすいに違いない。

「かっちゃん、もしかして好みかもよ?」
「あらやだ! 本当!? カッコイイの?」

 これで結構な面食いだ。

「まぁ、そこそこ。大人の雰囲気纏ってて、落ち着いてて、穏やかって感じ」
「へぇ、私に大人しく食われてくれるかしら?」
「大丈夫じゃないか? 勉強熱心だから」
「やだ、もう! なに、その可愛い感じ」

 木崎さんに妄想を巡らせるかっちゃんに笑いながら、出て来た酒を一口飲み込んだ。

「男の経験ほぼないから、自分好みにできちゃうかもな」
「やだ~! そんな上玉、私にくれるの!?」

 かっちゃんが嬉しそうに椅子の上で腰を跳ねさせる。

 かっちゃんに……あげてもいいよ。だって、俺じゃダメなんだ。

「きちんとした恋愛、したことないんだってさ。好きでもない女とエッチして、そのたった一回で子供が出来て、責任負わされて結婚して、十七年経ったって言ってたよ。一度も不倫したことはなくて、不貞を働いたこともない。一生懸命家族のために働いて……。でも、たまにこの辺をふらふら歩くのが好きだったんだって。声を掛けられなくても、店に入る勇気がなくても、ただこの街をほっつき歩くだけで、少しだけ気持ちが軽くなるんだって、……ふふ。そう言ってた」

 俺の話にかっちゃんは黙った。

「俺じゃ無理なんだよ。俺じゃあの人を助けてあげられない。俺の役目はあの人の不幸を笑い飛ばしてやることだけ。穴を埋められるのは別の人間だ」

 認めて貰えた気がした。「もっと上手くやれよ、バカ」と思ったあの頃の俺を、「最低な人間じゃない」と認めて貰えた気がした。けどいざ、その言葉を望まれて、口にして感じたことは、やっぱり…… “虚しさ” だった。

 中学生のあの頃。初めて好きになった男……和泉は、笹森という男に告白されて、それを部活仲間に相談した。和泉も和泉でバカだと思う。だけど、まだ俺達は中学生で、同性から告白されたなんて一大事は、和泉には到底抱えきれない問題だったんだろう。
 けど、相談した相手が間違ってた。俺を頼ってくれていれば……きっともっと未来は違ってた。でもそうじゃなかった。

 だから、一気に噂は広がって……勇気を出して告白した笹森は酷いいじめにあった。
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