15 / 54
なけなしザッハトルテ2
4
しおりを挟む
「その人、戸建て? マンション?」
引き続き質問されて首を傾げる。
「いやごめん。そこまでは知らないな」
「そう。まぁ、上手くいかなかったらもう一度来て頂戴。士浪のお願いだから、仕方ないし聞いてあげる」
「ありがと」
頼りになる。
やっぱり俺じゃダメなんだよ、木崎さん。頼るべき相手はちゃんと選ばなきゃいけない。けど、俺に相談したからこそかっちゃんに辿り着けるわけでもあるんだけどな。同性愛者だという事実を他人にカミングアウトするのは、例え弁護士相手であろうと躊躇うのが当たり前だ。その点、かっちゃんは彼自身がゲイだ。相談だってしやすいに違いない。
「かっちゃん、もしかして好みかもよ?」
「あらやだ! 本当!? カッコイイの?」
これで結構な面食いだ。
「まぁ、そこそこ。大人の雰囲気纏ってて、落ち着いてて、穏やかって感じ」
「へぇ、私に大人しく食われてくれるかしら?」
「大丈夫じゃないか? 勉強熱心だから」
「やだ、もう! なに、その可愛い感じ」
木崎さんに妄想を巡らせるかっちゃんに笑いながら、出て来た酒を一口飲み込んだ。
「男の経験ほぼないから、自分好みにできちゃうかもな」
「やだ~! そんな上玉、私にくれるの!?」
かっちゃんが嬉しそうに椅子の上で腰を跳ねさせる。
かっちゃんに……あげてもいいよ。だって、俺じゃダメなんだ。
「きちんとした恋愛、したことないんだってさ。好きでもない女とエッチして、そのたった一回で子供が出来て、責任負わされて結婚して、十七年経ったって言ってたよ。一度も不倫したことはなくて、不貞を働いたこともない。一生懸命家族のために働いて……。でも、たまにこの辺をふらふら歩くのが好きだったんだって。声を掛けられなくても、店に入る勇気がなくても、ただこの街をほっつき歩くだけで、少しだけ気持ちが軽くなるんだって、……ふふ。そう言ってた」
俺の話にかっちゃんは黙った。
「俺じゃ無理なんだよ。俺じゃあの人を助けてあげられない。俺の役目はあの人の不幸を笑い飛ばしてやることだけ。穴を埋められるのは別の人間だ」
認めて貰えた気がした。「もっと上手くやれよ、バカ」と思ったあの頃の俺を、「最低な人間じゃない」と認めて貰えた気がした。けどいざ、その言葉を望まれて、口にして感じたことは、やっぱり…… “虚しさ” だった。
中学生のあの頃。初めて好きになった男……和泉は、笹森という男に告白されて、それを部活仲間に相談した。和泉も和泉でバカだと思う。だけど、まだ俺達は中学生で、同性から告白されたなんて一大事は、和泉には到底抱えきれない問題だったんだろう。
けど、相談した相手が間違ってた。俺を頼ってくれていれば……きっともっと未来は違ってた。でもそうじゃなかった。
だから、一気に噂は広がって……勇気を出して告白した笹森は酷いいじめにあった。
引き続き質問されて首を傾げる。
「いやごめん。そこまでは知らないな」
「そう。まぁ、上手くいかなかったらもう一度来て頂戴。士浪のお願いだから、仕方ないし聞いてあげる」
「ありがと」
頼りになる。
やっぱり俺じゃダメなんだよ、木崎さん。頼るべき相手はちゃんと選ばなきゃいけない。けど、俺に相談したからこそかっちゃんに辿り着けるわけでもあるんだけどな。同性愛者だという事実を他人にカミングアウトするのは、例え弁護士相手であろうと躊躇うのが当たり前だ。その点、かっちゃんは彼自身がゲイだ。相談だってしやすいに違いない。
「かっちゃん、もしかして好みかもよ?」
「あらやだ! 本当!? カッコイイの?」
これで結構な面食いだ。
「まぁ、そこそこ。大人の雰囲気纏ってて、落ち着いてて、穏やかって感じ」
「へぇ、私に大人しく食われてくれるかしら?」
「大丈夫じゃないか? 勉強熱心だから」
「やだ、もう! なに、その可愛い感じ」
木崎さんに妄想を巡らせるかっちゃんに笑いながら、出て来た酒を一口飲み込んだ。
「男の経験ほぼないから、自分好みにできちゃうかもな」
「やだ~! そんな上玉、私にくれるの!?」
かっちゃんが嬉しそうに椅子の上で腰を跳ねさせる。
かっちゃんに……あげてもいいよ。だって、俺じゃダメなんだ。
「きちんとした恋愛、したことないんだってさ。好きでもない女とエッチして、そのたった一回で子供が出来て、責任負わされて結婚して、十七年経ったって言ってたよ。一度も不倫したことはなくて、不貞を働いたこともない。一生懸命家族のために働いて……。でも、たまにこの辺をふらふら歩くのが好きだったんだって。声を掛けられなくても、店に入る勇気がなくても、ただこの街をほっつき歩くだけで、少しだけ気持ちが軽くなるんだって、……ふふ。そう言ってた」
俺の話にかっちゃんは黙った。
「俺じゃ無理なんだよ。俺じゃあの人を助けてあげられない。俺の役目はあの人の不幸を笑い飛ばしてやることだけ。穴を埋められるのは別の人間だ」
認めて貰えた気がした。「もっと上手くやれよ、バカ」と思ったあの頃の俺を、「最低な人間じゃない」と認めて貰えた気がした。けどいざ、その言葉を望まれて、口にして感じたことは、やっぱり…… “虚しさ” だった。
中学生のあの頃。初めて好きになった男……和泉は、笹森という男に告白されて、それを部活仲間に相談した。和泉も和泉でバカだと思う。だけど、まだ俺達は中学生で、同性から告白されたなんて一大事は、和泉には到底抱えきれない問題だったんだろう。
けど、相談した相手が間違ってた。俺を頼ってくれていれば……きっともっと未来は違ってた。でもそうじゃなかった。
だから、一気に噂は広がって……勇気を出して告白した笹森は酷いいじめにあった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる