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なけなしザッハトルテ2
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俺はその日、仕事終わりでいつものクラブへ顔を出した。
「士浪」
事前に呼び出しておいた親友がカウンターで俺に手を振る。
「悪い、かっちゃん」
「いいのよ。珍しいわね、 “相談したいことがある” なんて。いい男でもいた?」
親友の勝司くん。ゲイ仲間。と言っても、セフレの仲でもある。かれこれ四年以上一緒に居る。それこそ色気もくそもない関係なんだけど、お互い本当に本命が見つからなかったら、仕方がないから一生一緒に居よう、なんてガキ臭い約束を交わしていたりもする。分かりやすいおねぇ言葉を話すかっちゃんだけど、これで一応バリタチだ。特別顔がいいわけでも、引きしまったボディを持っているわけでもない彼だが、唯一凄いのは、何を隠そう、弁護士先生ってことだ。
「職場の人が……、離婚を考えてる」
「あらやだ、穏やかじゃないわね」
「万が一、揉めるようなことになれば、助けてあげて欲しい」
「出会っていきなり何の話? まさかそれが今日の本題じゃないでしょうね?」
「本題だよ」
「出会ってまだ一分経ってないわよ!? 不躾な人ね~」
「だから最初に ”悪い“ って謝っただろ?」
「あれ、そういう意味なの⁉」
カウンターの中にいるスタッフが俺たちの会話に口元を緩める。
「なによ~。私はてっきり士浪に好きな人でも出来たのかと思……、え、待って?」
「なに?」
突然目を見開いたかっちゃんが俺をまじまじ見つめ、「そういうこと?」と口の中で呟いた。
「既婚者に恋しちゃったってこと!?」
いや違う、やめてくれ。
「そういうんじゃない。相談されただけだよ」
「士浪ちゃんに相談!? 家庭のもつれを独身貴族の士浪ちゃんに相談!? バカおっしゃい! その人お友達いないの!?」
「おい、酷い言われようだな」
その通りだけどさ。俺だって、まさか離婚の相談をしてくるバカがいるなんて微塵も思っちゃいなかったよ。でも、居たんだよ。そういうバカが。
「既婚者ねぇ……、まぁ、そういう恋の方が熱く燃えちゃう傾向にあるけどぉ」
「だから違うってば」
「離婚をしたいっていうその理由は何なの?」
すでに酒を煽っているかっちゃんがグラスを傾けながら聞いてくる。
「ゲイバレ。嫁と子供に見られたんだってよ」
「あらやだ。女も抱けちゃうゲイなのね。……まさか貴方、その “現場を押さえられた” っていう相手じゃないでしょうね」
「やめてくれよ! 俺がそんなヘマすると思うか?」
「ふふ、そうよね。士浪はそんな馬鹿じゃないわよね。安心した」
とはいえ、俺がゲイだってことを木崎さんに暴かれていた事実はあるわけだけど。
「まぁ、でも。配偶者が同性愛者だったって場合は、大体勝てるわ。もっとも、彼が何を望んでいるのかは知らないけど」
「離婚を望んでる。バレた限りは結婚生活なんて続けられないって言ってた」
「そう。でもそう思ってるのは、よほど奥さんの方だとは思うけど。……、え? まさか奥さんは別れないって言ってるのかしら?」
「まだそこまでの話し合いは出来てないみたいだ。今はヒステリック起こしてて家を追い出されてる状態らしい」
「まぁ、悲惨。修羅場ってやつね。女のヒステリックなんて犬も食わないわ」
かっちゃんの物言いに笑いを零し、バーテンダーに簡単にドリンクを注文した。
「士浪」
事前に呼び出しておいた親友がカウンターで俺に手を振る。
「悪い、かっちゃん」
「いいのよ。珍しいわね、 “相談したいことがある” なんて。いい男でもいた?」
親友の勝司くん。ゲイ仲間。と言っても、セフレの仲でもある。かれこれ四年以上一緒に居る。それこそ色気もくそもない関係なんだけど、お互い本当に本命が見つからなかったら、仕方がないから一生一緒に居よう、なんてガキ臭い約束を交わしていたりもする。分かりやすいおねぇ言葉を話すかっちゃんだけど、これで一応バリタチだ。特別顔がいいわけでも、引きしまったボディを持っているわけでもない彼だが、唯一凄いのは、何を隠そう、弁護士先生ってことだ。
「職場の人が……、離婚を考えてる」
「あらやだ、穏やかじゃないわね」
「万が一、揉めるようなことになれば、助けてあげて欲しい」
「出会っていきなり何の話? まさかそれが今日の本題じゃないでしょうね?」
「本題だよ」
「出会ってまだ一分経ってないわよ!? 不躾な人ね~」
「だから最初に ”悪い“ って謝っただろ?」
「あれ、そういう意味なの⁉」
カウンターの中にいるスタッフが俺たちの会話に口元を緩める。
「なによ~。私はてっきり士浪に好きな人でも出来たのかと思……、え、待って?」
「なに?」
突然目を見開いたかっちゃんが俺をまじまじ見つめ、「そういうこと?」と口の中で呟いた。
「既婚者に恋しちゃったってこと!?」
いや違う、やめてくれ。
「そういうんじゃない。相談されただけだよ」
「士浪ちゃんに相談!? 家庭のもつれを独身貴族の士浪ちゃんに相談!? バカおっしゃい! その人お友達いないの!?」
「おい、酷い言われようだな」
その通りだけどさ。俺だって、まさか離婚の相談をしてくるバカがいるなんて微塵も思っちゃいなかったよ。でも、居たんだよ。そういうバカが。
「既婚者ねぇ……、まぁ、そういう恋の方が熱く燃えちゃう傾向にあるけどぉ」
「だから違うってば」
「離婚をしたいっていうその理由は何なの?」
すでに酒を煽っているかっちゃんがグラスを傾けながら聞いてくる。
「ゲイバレ。嫁と子供に見られたんだってよ」
「あらやだ。女も抱けちゃうゲイなのね。……まさか貴方、その “現場を押さえられた” っていう相手じゃないでしょうね」
「やめてくれよ! 俺がそんなヘマすると思うか?」
「ふふ、そうよね。士浪はそんな馬鹿じゃないわよね。安心した」
とはいえ、俺がゲイだってことを木崎さんに暴かれていた事実はあるわけだけど。
「まぁ、でも。配偶者が同性愛者だったって場合は、大体勝てるわ。もっとも、彼が何を望んでいるのかは知らないけど」
「離婚を望んでる。バレた限りは結婚生活なんて続けられないって言ってた」
「そう。でもそう思ってるのは、よほど奥さんの方だとは思うけど。……、え? まさか奥さんは別れないって言ってるのかしら?」
「まだそこまでの話し合いは出来てないみたいだ。今はヒステリック起こしてて家を追い出されてる状態らしい」
「まぁ、悲惨。修羅場ってやつね。女のヒステリックなんて犬も食わないわ」
かっちゃんの物言いに笑いを零し、バーテンダーに簡単にドリンクを注文した。
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