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なけなしザッハトルテ
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そんなこと言ったら……俺だってないよ。
ふと蘇るのは、中学生の頃の記憶。同じ部活の仲間がいじめられてた。ゲイだってことがバレて、いじめにあってたんだ。
俺は何も出来なかった。助けてあげることも、話を聞いてやることも出来ず、なんなら「もっとうまくやれよ、馬鹿」って思った。そいつの好きだった男が俺の好きな男と一緒だったから、余計に「ば~か」って思ったのかもしれない。
でも……虚しさを知ったのも、この頃だ。
「何をもって “きちんとした恋愛” なのかは分かりませんけど、そんなこと言ったら、俺だって今まで本気で付き合った相手なんて……、もしかして居ないのかもしれない」
「え……?」
俯かせていた顔を上げた木崎さんが、俺の横顔を見つめる。
「体だけの関係を何人も作って、恋愛したふりして、ごっこ遊びみたいなチープな恋人ばっかり。今日だって、俺は別に木崎さんと恋愛したくてこの車に乗り込んだわけじゃない。甘い言葉と甘い夜を……ただ楽しみたかっただけ。嘘でも、たった一夜だけでも、恋愛ごっこに酔って楽しみたいだけなんだよ」
ぱっと木崎さんを振り返って、極力明るい笑顔を作る。
「木崎さんが俺に何を期待して今夜誘ってきたのか、何故そんな……身の上話をしてくれたのか、正直わかんないけど、俺は木崎さんの思うような “きちんとした恋愛” を教授できるような人間じゃないですよ。エッチがしたいなら、いくらでも付き合いますけど、木崎さんは俺に何をして欲しいんです?」
俺の質問に、木崎さんは瞳を泳がせた。そして、最終的にしょんぼりと俯いてしまう。
今まで話し相手になってくれていたネット仲間を失った木崎さんは、きっと俺をそこに充てるつもりだったのだろう。少しでいいから話を聞いて欲しいとか、慰めて欲しいとか。
でもごめん。俺じゃ無理だ。「もっとうまくやれよ、馬鹿」って思ってしまうから。
木崎さんは俺の質問に長らく沈黙を続けた。もう帰ってもいいかな、と本気で切り出そうとした時、まるでそのリミットを知っていたかのように彼は口を開いた、
「……私は……、きっと……笑い飛ばして欲しかったのだと思います」
そう言って泣きそうな笑顔を見せた木崎さんに、俺は衝撃を受けた。
笑い……飛ばす?
「 “こんなに不幸だ” 、 “こんなに不運だ” と、自分を哀れんでは、 “大丈夫、大丈夫” と慰めて……。でも、明智さんなら “もっとうまくやれよバカ” って、面白おかしく笑い飛ばしてくれるのではないかと……、そう……期待していました」
そこまで言うと、木崎さんは俺に見えないように涙を拭い、すみません、と謝ると、すぐに無理やりの笑顔を作り「家まで送らせてください」と車のライトをつけ、シフトレバーをドライブに入れた。
待ってくれ……、なんだよ、それ。なんで……そんなこと言うんだよ!
「木崎さん!」
まだシフトレバーを握ったままの彼の手を慌てて掴む。
涙の滲んだ瞳が俺を捉え、一秒……──。
俺は木崎さんと今夜一緒に過ごすことを決めていた。
「ホテルに行きましょう。お望みならば、俺が……いくらでも笑い飛ばしてあげます」
ふと蘇るのは、中学生の頃の記憶。同じ部活の仲間がいじめられてた。ゲイだってことがバレて、いじめにあってたんだ。
俺は何も出来なかった。助けてあげることも、話を聞いてやることも出来ず、なんなら「もっとうまくやれよ、馬鹿」って思った。そいつの好きだった男が俺の好きな男と一緒だったから、余計に「ば~か」って思ったのかもしれない。
でも……虚しさを知ったのも、この頃だ。
「何をもって “きちんとした恋愛” なのかは分かりませんけど、そんなこと言ったら、俺だって今まで本気で付き合った相手なんて……、もしかして居ないのかもしれない」
「え……?」
俯かせていた顔を上げた木崎さんが、俺の横顔を見つめる。
「体だけの関係を何人も作って、恋愛したふりして、ごっこ遊びみたいなチープな恋人ばっかり。今日だって、俺は別に木崎さんと恋愛したくてこの車に乗り込んだわけじゃない。甘い言葉と甘い夜を……ただ楽しみたかっただけ。嘘でも、たった一夜だけでも、恋愛ごっこに酔って楽しみたいだけなんだよ」
ぱっと木崎さんを振り返って、極力明るい笑顔を作る。
「木崎さんが俺に何を期待して今夜誘ってきたのか、何故そんな……身の上話をしてくれたのか、正直わかんないけど、俺は木崎さんの思うような “きちんとした恋愛” を教授できるような人間じゃないですよ。エッチがしたいなら、いくらでも付き合いますけど、木崎さんは俺に何をして欲しいんです?」
俺の質問に、木崎さんは瞳を泳がせた。そして、最終的にしょんぼりと俯いてしまう。
今まで話し相手になってくれていたネット仲間を失った木崎さんは、きっと俺をそこに充てるつもりだったのだろう。少しでいいから話を聞いて欲しいとか、慰めて欲しいとか。
でもごめん。俺じゃ無理だ。「もっとうまくやれよ、馬鹿」って思ってしまうから。
木崎さんは俺の質問に長らく沈黙を続けた。もう帰ってもいいかな、と本気で切り出そうとした時、まるでそのリミットを知っていたかのように彼は口を開いた、
「……私は……、きっと……笑い飛ばして欲しかったのだと思います」
そう言って泣きそうな笑顔を見せた木崎さんに、俺は衝撃を受けた。
笑い……飛ばす?
「 “こんなに不幸だ” 、 “こんなに不運だ” と、自分を哀れんでは、 “大丈夫、大丈夫” と慰めて……。でも、明智さんなら “もっとうまくやれよバカ” って、面白おかしく笑い飛ばしてくれるのではないかと……、そう……期待していました」
そこまで言うと、木崎さんは俺に見えないように涙を拭い、すみません、と謝ると、すぐに無理やりの笑顔を作り「家まで送らせてください」と車のライトをつけ、シフトレバーをドライブに入れた。
待ってくれ……、なんだよ、それ。なんで……そんなこと言うんだよ!
「木崎さん!」
まだシフトレバーを握ったままの彼の手を慌てて掴む。
涙の滲んだ瞳が俺を捉え、一秒……──。
俺は木崎さんと今夜一緒に過ごすことを決めていた。
「ホテルに行きましょう。お望みならば、俺が……いくらでも笑い飛ばしてあげます」
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