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なけなしザッハトルテ
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「後をつけられていたんです。その日は、たまたま私の家族も同じ店で夕食を摂っていたみたいで。私を見つけて、怪しがり……後をつけてきたみたいで」
……そんなこと、ある? 本日二度目だわ。
「帰宅するなり、あの男の子は誰だと問い詰められて、狼狽えてしまって……。上手く……誤魔化すことも出来なくて」
最悪の状況だな。
「じゃあ……その後、その男の子とは?」
木崎さんは俺の言葉にゆるゆると力なく首を振る。
「全部話して、謝罪して、連絡を絶っています」
そう……か。
「妻は、 “男で、しかも若い子が好きなのね” とヒステリックを起こして、 “だから私のこともなかなか抱いてくれなかったのね” と子供たちの前で……泣き出したりして。まぁ、私が全面的に悪いのですが、子供たちの手前、こちらとしてもかなり始末が悪いというか」
そりゃ……そうだわな。親の夜の営みの話など、聞きたかないだろうよ、子供としても。しかも父親がゲイだったとか。普通にトラウマだわ。
「それで、離婚……ですか?」
ほろ酔い気分はどこへやら。車の中で長々と木崎さんの話を聞いていたら、すっかり頭は冴え渡った。
「離婚……だと思います。妻からはまだ、そのような話は出てきていませんが、私としてはもう……、バレてしまった限り一緒にはいられません。弁護士をつけてでも、離婚の方向で話を進めようと思っています」
その決意は固そうだ。
何年連れ添った仲かは知らないけど、ゲイであることを隠してよくぞ今まで生きて来たな。話によると一度も不貞を働いた事が無いらしいし。
「木崎さんって、男との経験はあるんですか?」
何気ない質問だった。
けど、その質問に木崎さんはぐっと身を引き、表情を強張らせると、気まずそうに俺から目を逸らして答えた。
「……ない……です」
ないの!?
目ん玉が飛び出るかと思った。
絶句する俺に木崎さんは頬を赤らめて言い訳を始めた。
「いや、私……っ、二十歳で今の妻と結婚しています。男性を好きだと思いながらも、妻からアプローチを掛けられ、たった一夜一緒に過ごしたら……その、子供が……出来てしまって。そのまま今に至っています」
でき婚! しかも一発で! 女っ! 絶対に狙ってただろ!! なんだ、この不運を目いっぱい使いこんでる人! 見たことないわ! 不憫の域を超えている!
「好きな人とか居なかったの?」
たまらず聞いてしまう。
彼は苦笑いを浮かべ、「まぁ」と小さく頷いた。
「当時は大学生でしたし、気になる相手がいたことにはいましたが、望みは薄かったですよ」
ノンケだったってわけね。
「じゃあ、結婚するまでも、誰とも付き合ったことなかったってことですか?」
「はい。だから……恋愛を、きちんとしたことが……ないんです」
そう呟いた木崎さんの言葉は、なんだかずしっと俺の肩にのしかかった。
……そんなこと、ある? 本日二度目だわ。
「帰宅するなり、あの男の子は誰だと問い詰められて、狼狽えてしまって……。上手く……誤魔化すことも出来なくて」
最悪の状況だな。
「じゃあ……その後、その男の子とは?」
木崎さんは俺の言葉にゆるゆると力なく首を振る。
「全部話して、謝罪して、連絡を絶っています」
そう……か。
「妻は、 “男で、しかも若い子が好きなのね” とヒステリックを起こして、 “だから私のこともなかなか抱いてくれなかったのね” と子供たちの前で……泣き出したりして。まぁ、私が全面的に悪いのですが、子供たちの手前、こちらとしてもかなり始末が悪いというか」
そりゃ……そうだわな。親の夜の営みの話など、聞きたかないだろうよ、子供としても。しかも父親がゲイだったとか。普通にトラウマだわ。
「それで、離婚……ですか?」
ほろ酔い気分はどこへやら。車の中で長々と木崎さんの話を聞いていたら、すっかり頭は冴え渡った。
「離婚……だと思います。妻からはまだ、そのような話は出てきていませんが、私としてはもう……、バレてしまった限り一緒にはいられません。弁護士をつけてでも、離婚の方向で話を進めようと思っています」
その決意は固そうだ。
何年連れ添った仲かは知らないけど、ゲイであることを隠してよくぞ今まで生きて来たな。話によると一度も不貞を働いた事が無いらしいし。
「木崎さんって、男との経験はあるんですか?」
何気ない質問だった。
けど、その質問に木崎さんはぐっと身を引き、表情を強張らせると、気まずそうに俺から目を逸らして答えた。
「……ない……です」
ないの!?
目ん玉が飛び出るかと思った。
絶句する俺に木崎さんは頬を赤らめて言い訳を始めた。
「いや、私……っ、二十歳で今の妻と結婚しています。男性を好きだと思いながらも、妻からアプローチを掛けられ、たった一夜一緒に過ごしたら……その、子供が……出来てしまって。そのまま今に至っています」
でき婚! しかも一発で! 女っ! 絶対に狙ってただろ!! なんだ、この不運を目いっぱい使いこんでる人! 見たことないわ! 不憫の域を超えている!
「好きな人とか居なかったの?」
たまらず聞いてしまう。
彼は苦笑いを浮かべ、「まぁ」と小さく頷いた。
「当時は大学生でしたし、気になる相手がいたことにはいましたが、望みは薄かったですよ」
ノンケだったってわけね。
「じゃあ、結婚するまでも、誰とも付き合ったことなかったってことですか?」
「はい。だから……恋愛を、きちんとしたことが……ないんです」
そう呟いた木崎さんの言葉は、なんだかずしっと俺の肩にのしかかった。
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