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なけなしザッハトルテ
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いきなりの爆弾発言。そんなことある?
いや、まぁ……ゲイだってことを期待して俺は今この車に乗り込んでいるわけだけど、妻子がいますって告白されてからのゲイですってカミングアウトは、さすがの俺だって情緒が追い付かないぜ? 混乱、困惑ってやつだ。
大体、なんでなんの躊躇いもなくこの人ゲイだって俺にカミングアウトしたわけ? 俺がノンケだって可能性を微塵も疑ってないよね? まじどういうこと? 俺は、どういうリアクションを取るのが正解なんだよ。
っていうかさ、これから俺、人生相談とかされちゃうわけ? ゲイ一筋で生きてきた独身貴族のこの俺が? おいおい、どう考えても無理だろ。既婚者の相談なんか受けられるわけないじゃん。よく考えろって、まじで。俺じゃ全然何の役にも立たないってば。
「それでまぁ……妻がヒステリックを起こしているので、避難しているわけですが……」
「そりゃそうでしょうよ。え……てか、なんでバレたんですか?」
聞きたいことは、正直言うと腐るほどある。
なんで女と結婚したんだとか、どうやって女を抱いたんだとか、子供は何人いて、いくつなんだとか、もうなんか聞きたいことは山のように出てくるけど、とりあえずバレた原因から聞くことにしよう。これは相談に乗るってわけじゃなくて、単純に俺の野次馬精神だ。
「……男性と歩いているところを……見られてしまいまして」
「お相手がいるんじゃないですか!」
だったらなんで俺なんか誘ったし!?
けど、そうではなかった。
「違うんです! 恋人とか、浮気相手ってわけではなくて!」
木崎さんは誰に言い訳をしているのか、必死の形相で首を振った。
聞くと、どうやら二年くらいずっとネット上でやり取りをしていたゲイ仲間と、その日初めて顔を合わせたのだという。
エッチをしたいとか、恋人同士になりたいとか、そういう理由で知り合ったわけではなく、お互いゲイだという悩みを打ち明けられる相手として、長らく交流を続けていたのだという。相手には想い人がいたし、木崎さんとしても彼とどうこうなりたいとは思っていなかったのだという。何せ相手は高校生だったのだ。
「好きな相手がいて、あまつさえ高校生の男の子に不貞を働くほど、私だってバカではないです。あの日は彼が、友達数名と一緒に東京へ旅行に来た日で、その合間の数時間を、私との時間に宛がってくれただけでした」
けど、そうだとしても、その現場を押さえただけじゃ、木崎さんがゲイバレするには原因が弱すぎるだろ。
そう思った俺の考えを、木崎さんもすぐに察したようで、気まずそうに俯いた。
「一緒に……お茶を飲みました。彼はすでに食事を済ませていたようなので、お茶だけご馳走して、二時間くらい……話し込んで。その後、今夜泊まるというホテルまで送り届けてあげました。何も……何もしてないのですが、最後に、「ありがとう」と彼が私の手を握って、「想像してた通りの人だった」と言ってくれて……、それで……」
そこまで言った木崎さんだけど、その日の悪夢が蘇るのか、疲れたようなため息を一つ吐き、小さな声で続けた。
「抱きしめてくれと……頼まれたので、最後に、一度だけハグを……ホテルの前で」
それを見られたってことか?
いや、まぁ……ゲイだってことを期待して俺は今この車に乗り込んでいるわけだけど、妻子がいますって告白されてからのゲイですってカミングアウトは、さすがの俺だって情緒が追い付かないぜ? 混乱、困惑ってやつだ。
大体、なんでなんの躊躇いもなくこの人ゲイだって俺にカミングアウトしたわけ? 俺がノンケだって可能性を微塵も疑ってないよね? まじどういうこと? 俺は、どういうリアクションを取るのが正解なんだよ。
っていうかさ、これから俺、人生相談とかされちゃうわけ? ゲイ一筋で生きてきた独身貴族のこの俺が? おいおい、どう考えても無理だろ。既婚者の相談なんか受けられるわけないじゃん。よく考えろって、まじで。俺じゃ全然何の役にも立たないってば。
「それでまぁ……妻がヒステリックを起こしているので、避難しているわけですが……」
「そりゃそうでしょうよ。え……てか、なんでバレたんですか?」
聞きたいことは、正直言うと腐るほどある。
なんで女と結婚したんだとか、どうやって女を抱いたんだとか、子供は何人いて、いくつなんだとか、もうなんか聞きたいことは山のように出てくるけど、とりあえずバレた原因から聞くことにしよう。これは相談に乗るってわけじゃなくて、単純に俺の野次馬精神だ。
「……男性と歩いているところを……見られてしまいまして」
「お相手がいるんじゃないですか!」
だったらなんで俺なんか誘ったし!?
けど、そうではなかった。
「違うんです! 恋人とか、浮気相手ってわけではなくて!」
木崎さんは誰に言い訳をしているのか、必死の形相で首を振った。
聞くと、どうやら二年くらいずっとネット上でやり取りをしていたゲイ仲間と、その日初めて顔を合わせたのだという。
エッチをしたいとか、恋人同士になりたいとか、そういう理由で知り合ったわけではなく、お互いゲイだという悩みを打ち明けられる相手として、長らく交流を続けていたのだという。相手には想い人がいたし、木崎さんとしても彼とどうこうなりたいとは思っていなかったのだという。何せ相手は高校生だったのだ。
「好きな相手がいて、あまつさえ高校生の男の子に不貞を働くほど、私だってバカではないです。あの日は彼が、友達数名と一緒に東京へ旅行に来た日で、その合間の数時間を、私との時間に宛がってくれただけでした」
けど、そうだとしても、その現場を押さえただけじゃ、木崎さんがゲイバレするには原因が弱すぎるだろ。
そう思った俺の考えを、木崎さんもすぐに察したようで、気まずそうに俯いた。
「一緒に……お茶を飲みました。彼はすでに食事を済ませていたようなので、お茶だけご馳走して、二時間くらい……話し込んで。その後、今夜泊まるというホテルまで送り届けてあげました。何も……何もしてないのですが、最後に、「ありがとう」と彼が私の手を握って、「想像してた通りの人だった」と言ってくれて……、それで……」
そこまで言った木崎さんだけど、その日の悪夢が蘇るのか、疲れたようなため息を一つ吐き、小さな声で続けた。
「抱きしめてくれと……頼まれたので、最後に、一度だけハグを……ホテルの前で」
それを見られたってことか?
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