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なけなしザッハトルテ
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ほろ酔い状態で閉店作業を手伝った。
店長たちは見るからにラブラブ状態で俺らに手を振り、加藤さんの車が停められている駐車場へと向かう。その後ろ姿をほんの少し恨めし気に睨んでいると、「行きましょう」と静かに木崎さんに声を掛けられた。
店から歩いて三分ほどの駐車場に停められている彼の車に乗り込み、さぁて俺もお持ち帰りされますかと思いながらシートベルトをすると、「おうちはどちら方面ですか」と尋ねられた。
「……はい?」
思わず聞き返してしまう。
何言ってんだよ。これから木崎さんちに泊めてくれるんじゃないのか?
え? 待て待て。俺だけ真に受けてウキウキしてたってこと? ちょ、やめろってそういうの。
「いや……、え? 泊めてくれるんじゃないんですか?」
はっきり問いただす。だってこの人、俺の事誘ったんじゃないのか? 俺の勘違いだったってこと? 嘘でしょ?
じっと木崎さんを見ると、困ったように眉を垂れるから、俺はシートベルトを外した。
「じゃいいです。終電まだ間に合うし、俺一人で帰ります」
その気がないなら送ってもらう理由がない。それに、木崎さんがノンケの可能性だって浮上してくるわけだ。
「ではまた。お疲れさまでした」
ドアを開けてさっさと車を下りようとしたのだが、ガシっと慌てた様子で腕を掴まれる。
……なんだよ、引き止めるなよ。
「お、送って行きます」
「大丈夫です、気にしないでください」
にっこり笑顔を張り付けて断ったのだが、木崎さんは困った顔をしながらも俺の腕を離さなかった。そして──。
「……あの……、私、妻子が……おりまして」
俺の腕を掴んでいた手には結婚指輪が光っている。
……あぁ……、そういうこと?
……いやいや、何、どういうこと? 妻子がいるのに、俺を誘ったってこと? 何のために? ノンケなんだよね? 興味本位? 怖いもの見たさ? 殴るよ?
いやでも、どうもそういう感じではなさそう。
困ったような瞳で狼狽えている木崎さんは、とても俺を揶揄うために誘ったわけではなさそうだ。どういうことだ?
困惑したのは俺も一緒だった。だけど。
「……分かりました。明智さんさえいいのであれば……、……うちに」
何の決心だよ!!
「いいですいいです! ご家庭があることを知らなかった俺が悪いんです! 気にしないでください! ほんと、ちゃんと帰れるし、一人で起きられますので!」
子供じゃないんだからそれくらい出来るし、そこまで責任を感じてもらう必要なんかない!
だけど、首を振る俺に木崎さんも首を振った。
「違うんです。私今……、ホテルで寝泊まりしてまして」
これは、予想外の展開だ。ホテ……ル?
目を丸める俺の腕を離し、木崎さんは情けない笑みを零した。
「まぁ……その、世に言う……別居中、というやつです」
別居……中。
「なんで?」
不躾に尋ねてしまい、はっと口を噤む。だけどそんな俺に気分を害すわけでもない木崎さんは、左手の指輪をそっと外してスピードメーターの前に置いた。
「バレたんです……私が、本当はゲイだということが」
店長たちは見るからにラブラブ状態で俺らに手を振り、加藤さんの車が停められている駐車場へと向かう。その後ろ姿をほんの少し恨めし気に睨んでいると、「行きましょう」と静かに木崎さんに声を掛けられた。
店から歩いて三分ほどの駐車場に停められている彼の車に乗り込み、さぁて俺もお持ち帰りされますかと思いながらシートベルトをすると、「おうちはどちら方面ですか」と尋ねられた。
「……はい?」
思わず聞き返してしまう。
何言ってんだよ。これから木崎さんちに泊めてくれるんじゃないのか?
え? 待て待て。俺だけ真に受けてウキウキしてたってこと? ちょ、やめろってそういうの。
「いや……、え? 泊めてくれるんじゃないんですか?」
はっきり問いただす。だってこの人、俺の事誘ったんじゃないのか? 俺の勘違いだったってこと? 嘘でしょ?
じっと木崎さんを見ると、困ったように眉を垂れるから、俺はシートベルトを外した。
「じゃいいです。終電まだ間に合うし、俺一人で帰ります」
その気がないなら送ってもらう理由がない。それに、木崎さんがノンケの可能性だって浮上してくるわけだ。
「ではまた。お疲れさまでした」
ドアを開けてさっさと車を下りようとしたのだが、ガシっと慌てた様子で腕を掴まれる。
……なんだよ、引き止めるなよ。
「お、送って行きます」
「大丈夫です、気にしないでください」
にっこり笑顔を張り付けて断ったのだが、木崎さんは困った顔をしながらも俺の腕を離さなかった。そして──。
「……あの……、私、妻子が……おりまして」
俺の腕を掴んでいた手には結婚指輪が光っている。
……あぁ……、そういうこと?
……いやいや、何、どういうこと? 妻子がいるのに、俺を誘ったってこと? 何のために? ノンケなんだよね? 興味本位? 怖いもの見たさ? 殴るよ?
いやでも、どうもそういう感じではなさそう。
困ったような瞳で狼狽えている木崎さんは、とても俺を揶揄うために誘ったわけではなさそうだ。どういうことだ?
困惑したのは俺も一緒だった。だけど。
「……分かりました。明智さんさえいいのであれば……、……うちに」
何の決心だよ!!
「いいですいいです! ご家庭があることを知らなかった俺が悪いんです! 気にしないでください! ほんと、ちゃんと帰れるし、一人で起きられますので!」
子供じゃないんだからそれくらい出来るし、そこまで責任を感じてもらう必要なんかない!
だけど、首を振る俺に木崎さんも首を振った。
「違うんです。私今……、ホテルで寝泊まりしてまして」
これは、予想外の展開だ。ホテ……ル?
目を丸める俺の腕を離し、木崎さんは情けない笑みを零した。
「まぁ……その、世に言う……別居中、というやつです」
別居……中。
「なんで?」
不躾に尋ねてしまい、はっと口を噤む。だけどそんな俺に気分を害すわけでもない木崎さんは、左手の指輪をそっと外してスピードメーターの前に置いた。
「バレたんです……私が、本当はゲイだということが」
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