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ジェントルマンズショコラ

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 店長は恋人がいるくせに何故かこの人と同居している。すごく仲良しだ。もう随分前から一緒に暮らしている。俺も一度だけ一緒に食事をしたことがあるけど……、覚えているだろうか。

「加藤さん……ですよね?」

 そっと声を掛けると、すぐにこちらを振り向き、「はい」と爽やかな返事をくれた。

「こんばんは」

 ぺこりと頭を下げられ、俺も慌てて頭を下げる。前も思ったけど、すごく好印象な人だ。

「覚えてらっしゃらないかもしれませんが、明智と申します。ここでパティシエしてます」

 改めて自己紹介すると、加藤さんは「あぁ!」と声を出し、「モンブランの明智さんだ!」と初めてのキャッチコピーを頂いた。

「モンブラン?」

 俺も木崎さんもかくんと首を傾げると、加藤さんは楽しそうに笑った。

「日下さんが、いっつも言うんだよ。"明智くんのモンブランが美味しいんだ" って」

 そう……だったのか。店長は俺のモンブランが好きだったのか。そういえば、いつもそれを食べているかもしれない。
 けど、もっと意外なことを言われた。

「店長はモンブラン派なんですね。私は明智さんの作るザッハトルテが好きですよ」

 木崎さんがさらりとそんなことを言う。この人甘いの食べるのか! そっちの方が驚いた。

「チョコレートですか」

 加藤さんも意外だと言わんばかりだ。見た目そういうの食べなさそうだもんな。

 まだ残ってるかな?とカウンター内側からは絶対に見えないだろうショーケースを覗き見る木崎さん。俺が仰け反ってショーケースを確認したが、残念ながら残っていなかった。

「ないっすね」
「残念。加藤さんに一度食べて欲しかった」

 にっこりと優しい笑顔の木崎さんに、加藤さんも「今度必ず」と約束してくれる。

「加藤さんも甘いの食べられるんですか?」

 甘いのが嫌いな男性は多いが、加藤さんは「もちろん食べます」と笑った。

「では、早めに使い切りたいリキュールがあるので、私からお二人にチョコレートのカクテルをご馳走しますよ」

 木崎さんはにっこり微笑むと、綺麗に整頓されている棚からコーヒーリキュールとウイスキーを取った。その後、作業台で何かを削り出し始めると、バー横の通路から料理を持った店長が現れ、加藤さんを発見してムッと眉を寄せた。

「見つかった!」

 いたずらっ子みたいな顔で加藤さんはカウンターに突っ伏したが、俺達の後ろを通過する時、店長は加藤さんの背中にボスっとグーパンを食らわした。

 本当に仲がいい。

「はっは! 比呂人! あとでメニュー持ってきて。腹減ったから」

 後ろ背のまま「はいはい」と返事した店長はそのまま姿を消し、一分足らずでメニューを持って現れた。
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