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第四章:愛

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「笑うなよ。似合わないなんて悲観するなよ。貴方には花が似合う! よく喋って、よく笑って、軽やかに踊るんだ! 綺麗な声で歌を歌って、俺に甘えて……っ、これは花冠じゃないけど、貴方は誰よりも花が似合う、世界で一番きれいな女性だった!」

 そう言って、俺は仕上がったばかりのフラワーリースを彼の頭に乗せた。

「俺はもう花冠は作れない。だけど俺は貴方に花を贈るよっ! 貴方に似合う花を俺が選ぶ! ウエディングドレスが着れなくても、貴方は綺麗だ! 俺はそのことを一番よく知ってる!」

 そうだろ、リリー? だからそんな風に言わないでくれよ。

「俺はもう、あの頃と違う。二本の足でちゃんと立ってる。俺だって人一人くらいなら担げるよ! 愛する人を抱きしめ、抱き上げることだって出来る!」

 俺も“覚えて”生まれて来ているのなら、そういうことなんだよ! 結婚式場を仕事に選んだことも、今二本の足で立っていることだって、全部貴方リリーの為なんだ!!

 俺の本気の訴えに華頂さんは目を見開き、困惑したように瞳を彷徨わせると、もう一度俺を見つめ、頭の上のリースをきゅっと握った。

 大丈夫だよ、華頂さん。あなたは今でも十分……綺麗だ。

 彼は潤んだ瞳で俺を見上げ、泣き出すより先に柔らかく微笑んでこう言った。

「約束……思い出しました。俺は……、これを待ってたんだ。これが欲しくて仕方なかった……っ」

 そう言って、もう片方の手もリースに添える。

「世界でたった一つの、花冠……っ! 貴方エドから貰う、永遠の契りを……っ」

 二人、涙が溢れた。

 思い出せる記憶は、二人いつもバラバラだけど、それでも花冠は俺達には特別なものなんだ。

 彼は、花冠に見立てたリースを頭に乗せたまま、目の前の俺に体を倒して凭れてくる。それを支えるようにぎゅっと抱きしめた。

「土田……さん」
「うん、……華頂さん。今日ですよね」

 そう言う俺に彼は一瞬首を捻ったけど、聞こえるか聞こえないかの小さな声で続けた。

「お誕生日、おめでとうございます」

 彼はリースを両手に握りしめたまま、俺の腕の中で泣いた。
 なんで知ってるんだと言いながら、こんなのダメだって泣きながら文句を言って、相変わらずよく喋って──。
 けど最後、どこまで本気か分からない様子で、こう言ったんだ。

「惚れちゃうだろ……こんなの」

 と。

 それならそれでいいだろ、と思ったこと……、まだこの時は伝えられなかった。覚悟が少し足りなかったから。

「当たり前じゃないですか。だって俺、かっこいいですもん」

 そんな軽口を叩いて体を離し、俺達は吹き出して笑った。



 これは、はるか昔から続く、俺達の約束の物語だ。
 思い出せる記憶は断片的で途切れ途切れだけど、それでも花が導いてくれる。あの頃二人でたくさん編んだシロツメクサの花冠が、勿忘草が、「愛する人はこの人なのだ」と教えてくれるんだ。




「ねぇ、エド。将来は、私をお嫁さんにしてくれる?」
「もちろんだよ。その時は、僕がキミに花を結うよ。世界一綺麗な花冠を作ってあげる。受け取ってくれるかい?」

 世界で一番きれいな女性は、俺にしがみついて可愛くおねだりするんだ。

「絶対よ、エド! 約束なんだから!」



― あぁ、約束だよ。必ず贈るから ―









【完】
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