フラワーコード ~過去から未来へ。キミと僕を繋ぐのは約束のフラワーコード~

2wei

文字の大きさ
上 下
59 / 61
第四章:愛

17

しおりを挟む
「だって俺、結婚式に強い憧れを抱いてますから」

 きょとん、と自分から音が鳴った気がした。

「え? 人を愛せないのに、ですか?」
「ふふっ、それとこれとは別ですよ。愛せなくったって、結婚式はいいもんだな、くらい思いますよ」
「へぇ……意外ですね」

 失敬な、と笑いながら、華頂さんは漸く手を動かして作業を再開させる。

「一度結婚した時、絶対に良い式にしようと張り切りました。妻のブーケは俺が作ったし、花冠も俺が準備しました」

 花……かんむり。

 本人は、何の気なしにそう言ったのだろう。事実だし、隠す事でもないし、彼は花師なのだから当然だ。
 けど、俺にはその言葉が妙に引っ掛かった。でも、この違和感の原因を探ろうとする俺にかまうことなく、彼は話を続ける。

「式場の花は俺が全部プロデュースして、ドレスにも花を装飾して、世界で一番可愛い女にしてやろうって、俺もこれでかなり頑張ったんですよ」

 それの方が意外でしょうと言わんばかりに俺を見て笑う。
 世界一可愛い……女に、か。

「でもね、全然楽しくなかったんです。昔から結婚式への憧れが強くて、自分が花屋に生まれ育ったことを嬉しく思っていたのに、いざ自分の結婚式ってなったら、微塵も楽しくなかった。こんなもんか、と割り切るしかなくてすごく残念だった。それで、俺は結婚式にどんな夢を持っていたんだろうって、分からなくなっちゃったんですよね」

 そう言って、また手元を動かし始める。
 俺も、花を切ってはつけて、切ってはつけて、華頂さんの話を聞いた。花冠の違和感は思い出せないままだ。

「けど、それでも結婚式の依頼が来るたびにワクワクするんですよ。式場の下見なんて楽しすぎて、いつも必要のない場所まで見学させてもらったりします」

 そう言われれば、ベルガーデンを見たいと言ったな。依頼者のためにと言いながらも、私情も挟んでいたわけか。

「自分で結婚式を挙げたって楽しくないともう分かっているのに、いいないいなって思ってしまう。それは俺が、元々女だったからなんでしょうかね」

 苦笑いを零す彼を一瞥し、俺は頷いた。

「そうかもしれないですね。華頂さんはタキシードではなく、ウエディングドレスを着たかったんじゃないですか?」

 揶揄って言ったつもりはない。
 けど、華頂さんは大笑いした。それは面白い、と。

「お色直しで俺がドレスを着て、嫁がタキシードを着たら良かったんですかね? あぁ、確かにそれなら少しは楽しかったかもしれないな!」

 声を出して楽しそうに笑う華頂さんに、心底ムッとしたことは内緒だ。
 笑い話にしたかったわけじゃない。冗談じゃなく、俺は真剣にそうだと思ったんだよ。

 俺は笑う彼を無視して最後の仕上げにビーズのアクセントを差し込むと、がたりと席を立った。

「あ、お手洗いですか?」

 聞かれたけどそれも無視して、俺は仕上がったばかりのリースを手に持ち、華頂さんの隣に立った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

両性具有な祝福者と魔王の息子~壊れた二人~

琴葉悠
BL
俺の名前はニュクス。 少しばかり人と違う、男と女のを持っている。 両性具有って昔の言葉があるがそれだ。 そして今は「魔の子」と呼ばれている。 おかげで色んな連中に追われていたんだが、最近追われず、隠れ家のような住居で家族と暮らしていたんだが――…… 俺の元に厄介な事が舞い込んできた「魔王の息子の花嫁」になれってな!! ふざけんじゃねぇよ!! 俺は男でも女でもねぇし、恋愛対象どっちでもねーんだよ!! え? じゃなきゃ自分達が殺される? 知るか!! とっとと滅べ!! そう対処していたのに――やってきたんだ、魔王が。 これは俺達が壊れていく過程の物語――

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

処理中です...