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第四章:愛
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「だって俺、結婚式に強い憧れを抱いてますから」
きょとん、と自分から音が鳴った気がした。
「え? 人を愛せないのに、ですか?」
「ふふっ、それとこれとは別ですよ。愛せなくったって、結婚式はいいもんだな、くらい思いますよ」
「へぇ……意外ですね」
失敬な、と笑いながら、華頂さんは漸く手を動かして作業を再開させる。
「一度結婚した時、絶対に良い式にしようと張り切りました。妻のブーケは俺が作ったし、花冠も俺が準備しました」
花……かんむり。
本人は、何の気なしにそう言ったのだろう。事実だし、隠す事でもないし、彼は花師なのだから当然だ。
けど、俺にはその言葉が妙に引っ掛かった。でも、この違和感の原因を探ろうとする俺にかまうことなく、彼は話を続ける。
「式場の花は俺が全部プロデュースして、ドレスにも花を装飾して、世界で一番可愛い女にしてやろうって、俺もこれでかなり頑張ったんですよ」
それの方が意外でしょうと言わんばかりに俺を見て笑う。
世界一可愛い……女に、か。
「でもね、全然楽しくなかったんです。昔から結婚式への憧れが強くて、自分が花屋に生まれ育ったことを嬉しく思っていたのに、いざ自分の結婚式ってなったら、微塵も楽しくなかった。こんなもんか、と割り切るしかなくてすごく残念だった。それで、俺は結婚式にどんな夢を持っていたんだろうって、分からなくなっちゃったんですよね」
そう言って、また手元を動かし始める。
俺も、花を切ってはつけて、切ってはつけて、華頂さんの話を聞いた。花冠の違和感は思い出せないままだ。
「けど、それでも結婚式の依頼が来るたびにワクワクするんですよ。式場の下見なんて楽しすぎて、いつも必要のない場所まで見学させてもらったりします」
そう言われれば、ベルガーデンを見たいと言ったな。依頼者のためにと言いながらも、私情も挟んでいたわけか。
「自分で結婚式を挙げたって楽しくないともう分かっているのに、いいないいなって思ってしまう。それは俺が、元々女だったからなんでしょうかね」
苦笑いを零す彼を一瞥し、俺は頷いた。
「そうかもしれないですね。華頂さんはタキシードではなく、ウエディングドレスを着たかったんじゃないですか?」
揶揄って言ったつもりはない。
けど、華頂さんは大笑いした。それは面白い、と。
「お色直しで俺がドレスを着て、嫁がタキシードを着たら良かったんですかね? あぁ、確かにそれなら少しは楽しかったかもしれないな!」
声を出して楽しそうに笑う華頂さんに、心底ムッとしたことは内緒だ。
笑い話にしたかったわけじゃない。冗談じゃなく、俺は真剣にそうだと思ったんだよ。
俺は笑う彼を無視して最後の仕上げにビーズのアクセントを差し込むと、がたりと席を立った。
「あ、お手洗いですか?」
聞かれたけどそれも無視して、俺は仕上がったばかりのリースを手に持ち、華頂さんの隣に立った。
きょとん、と自分から音が鳴った気がした。
「え? 人を愛せないのに、ですか?」
「ふふっ、それとこれとは別ですよ。愛せなくったって、結婚式はいいもんだな、くらい思いますよ」
「へぇ……意外ですね」
失敬な、と笑いながら、華頂さんは漸く手を動かして作業を再開させる。
「一度結婚した時、絶対に良い式にしようと張り切りました。妻のブーケは俺が作ったし、花冠も俺が準備しました」
花……かんむり。
本人は、何の気なしにそう言ったのだろう。事実だし、隠す事でもないし、彼は花師なのだから当然だ。
けど、俺にはその言葉が妙に引っ掛かった。でも、この違和感の原因を探ろうとする俺にかまうことなく、彼は話を続ける。
「式場の花は俺が全部プロデュースして、ドレスにも花を装飾して、世界で一番可愛い女にしてやろうって、俺もこれでかなり頑張ったんですよ」
それの方が意外でしょうと言わんばかりに俺を見て笑う。
世界一可愛い……女に、か。
「でもね、全然楽しくなかったんです。昔から結婚式への憧れが強くて、自分が花屋に生まれ育ったことを嬉しく思っていたのに、いざ自分の結婚式ってなったら、微塵も楽しくなかった。こんなもんか、と割り切るしかなくてすごく残念だった。それで、俺は結婚式にどんな夢を持っていたんだろうって、分からなくなっちゃったんですよね」
そう言って、また手元を動かし始める。
俺も、花を切ってはつけて、切ってはつけて、華頂さんの話を聞いた。花冠の違和感は思い出せないままだ。
「けど、それでも結婚式の依頼が来るたびにワクワクするんですよ。式場の下見なんて楽しすぎて、いつも必要のない場所まで見学させてもらったりします」
そう言われれば、ベルガーデンを見たいと言ったな。依頼者のためにと言いながらも、私情も挟んでいたわけか。
「自分で結婚式を挙げたって楽しくないともう分かっているのに、いいないいなって思ってしまう。それは俺が、元々女だったからなんでしょうかね」
苦笑いを零す彼を一瞥し、俺は頷いた。
「そうかもしれないですね。華頂さんはタキシードではなく、ウエディングドレスを着たかったんじゃないですか?」
揶揄って言ったつもりはない。
けど、華頂さんは大笑いした。それは面白い、と。
「お色直しで俺がドレスを着て、嫁がタキシードを着たら良かったんですかね? あぁ、確かにそれなら少しは楽しかったかもしれないな!」
声を出して楽しそうに笑う華頂さんに、心底ムッとしたことは内緒だ。
笑い話にしたかったわけじゃない。冗談じゃなく、俺は真剣にそうだと思ったんだよ。
俺は笑う彼を無視して最後の仕上げにビーズのアクセントを差し込むと、がたりと席を立った。
「あ、お手洗いですか?」
聞かれたけどそれも無視して、俺は仕上がったばかりのリースを手に持ち、華頂さんの隣に立った。
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