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第四章:愛
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「華頂さんは、夢でシロツメクサを編む、と言ってましたね」
「えぇ……、もう何十年と編み続けていますよ。どういう意味があるのか分からないのですが、一生編み続けるのかと思うとぞっとしますよね。でも、編んでる時はそれだけが安らぎなんですよ」
安らぎ……か。
川のほとりに居たあの子供たちは、もしかして花を編んだりして遊んでいたのだろうか。そうしている時間が、彼女にとっては安らぎで、悲しいことも寂しいことも、辛いこともやるせないことも、それらすべてを忘れられる時間だったのかもしれない。
「俺は……きっと死にました。貴方を置いて」
リースに花を挿し込みながら俺はぽつりと言った。
「死因は分かりません。知りたくもありません。だけど、俺はきっと貴方に絶望を見せたのでしょう。一人にさせた。寂しい思いをさせた。約束だってきっと……果たせなかったのでしょう」
目の前の彼は完全に作業する手を止め、無心に作業する俺の頭をじっと見つめた。
「シロツメクサの花言葉は“約束”です。その約束が果たされるまで、きっと貴方はそれを編み続ける。きっと……、ずっと」
俺が思い出さなきゃいけない。一体、どんな約束をしたのか。何を果たさなければいけないのか。それはまだ……分からないけど。
「もしかすると、貴方が人を上手く愛せないのは、俺のせいかもしれませんね。一人にしてしまったから。先に死んでしまったから。人を愛して悲しい思いをするなら、愛すことを忘れてしまえばいいのだと」
花の茎をチョキンと切り落とし、目の前の華頂さんへ視線を送る。
「けど、俺は後悔してませんよ。あの時貴方に「行け」と言った事を、俺は泣きながらも、寂しいと思いながらも後悔なんてしていないはずです。だって、貴方には生きていて欲しいと思うから。今の俺でも、そうしたと思うから」
何の話をしているのか、きっと彼は分かっていない。それでも、共鳴している魂がきっと揺さぶられていて、困惑したように視線を泳がせる。湧き上がってくるのだろう感情の原因を、探るように。
「詳しい内容は言わないようにします。きっと言ってしまえば、貴方も壊れてしまう。思い出せば、気が狂ってしまうと思うから」
俺はきっとあの場で死んでいる。どうやって死んだのか、どういう状況だったのかは分からないけど、お互いそれは思い出しちゃいけないことなんだ。
「でも華頂さんはスゴイですよね。たぶん、俺よりずっと多くを覚えている。記憶に残しているかどうかじゃなくて、魂に刻み込んでるっていうのかな。だからこそ、お花の仕事をしてるんでしょうし、人を上手く愛せないなんてことにもなってるんでしょう。そう思うと俺なんか全然ダメですね」
苦笑だって漏れるさ。
「花なんて、今まで全然触れて来なかったし、ぱっとしない学生時代を過ごして、興味のなかった結婚式場に就職して。……まぁ、今は楽しくて仕方ないですけどね、この仕事が」
そう言う俺に、彼は優しく微笑むと、「だったら」と言葉を返した。
「だったら、土田さんだってちゃんと覚えてるんですよ」
「え?」
「えぇ……、もう何十年と編み続けていますよ。どういう意味があるのか分からないのですが、一生編み続けるのかと思うとぞっとしますよね。でも、編んでる時はそれだけが安らぎなんですよ」
安らぎ……か。
川のほとりに居たあの子供たちは、もしかして花を編んだりして遊んでいたのだろうか。そうしている時間が、彼女にとっては安らぎで、悲しいことも寂しいことも、辛いこともやるせないことも、それらすべてを忘れられる時間だったのかもしれない。
「俺は……きっと死にました。貴方を置いて」
リースに花を挿し込みながら俺はぽつりと言った。
「死因は分かりません。知りたくもありません。だけど、俺はきっと貴方に絶望を見せたのでしょう。一人にさせた。寂しい思いをさせた。約束だってきっと……果たせなかったのでしょう」
目の前の彼は完全に作業する手を止め、無心に作業する俺の頭をじっと見つめた。
「シロツメクサの花言葉は“約束”です。その約束が果たされるまで、きっと貴方はそれを編み続ける。きっと……、ずっと」
俺が思い出さなきゃいけない。一体、どんな約束をしたのか。何を果たさなければいけないのか。それはまだ……分からないけど。
「もしかすると、貴方が人を上手く愛せないのは、俺のせいかもしれませんね。一人にしてしまったから。先に死んでしまったから。人を愛して悲しい思いをするなら、愛すことを忘れてしまえばいいのだと」
花の茎をチョキンと切り落とし、目の前の華頂さんへ視線を送る。
「けど、俺は後悔してませんよ。あの時貴方に「行け」と言った事を、俺は泣きながらも、寂しいと思いながらも後悔なんてしていないはずです。だって、貴方には生きていて欲しいと思うから。今の俺でも、そうしたと思うから」
何の話をしているのか、きっと彼は分かっていない。それでも、共鳴している魂がきっと揺さぶられていて、困惑したように視線を泳がせる。湧き上がってくるのだろう感情の原因を、探るように。
「詳しい内容は言わないようにします。きっと言ってしまえば、貴方も壊れてしまう。思い出せば、気が狂ってしまうと思うから」
俺はきっとあの場で死んでいる。どうやって死んだのか、どういう状況だったのかは分からないけど、お互いそれは思い出しちゃいけないことなんだ。
「でも華頂さんはスゴイですよね。たぶん、俺よりずっと多くを覚えている。記憶に残しているかどうかじゃなくて、魂に刻み込んでるっていうのかな。だからこそ、お花の仕事をしてるんでしょうし、人を上手く愛せないなんてことにもなってるんでしょう。そう思うと俺なんか全然ダメですね」
苦笑だって漏れるさ。
「花なんて、今まで全然触れて来なかったし、ぱっとしない学生時代を過ごして、興味のなかった結婚式場に就職して。……まぁ、今は楽しくて仕方ないですけどね、この仕事が」
そう言う俺に、彼は優しく微笑むと、「だったら」と言葉を返した。
「だったら、土田さんだってちゃんと覚えてるんですよ」
「え?」
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