上 下
57 / 61
第四章:愛

15

しおりを挟む
 階段を上がってくる二つの足音。

 必要な道具を持って現れた華頂さんの後ろからは、シートにくるんだ花を抱えて持ってくる真田さんが顔を出した。

「真田さん!」
「こんにちは、土田さん! 雨の中、わざわざご来店いただいてありがとうございます!」

 彼はにこやかに笑って、テーブルの上に花を広げた。立ち上がって挨拶する俺に、「座って座って」と言う彼は、飲み物を持ってくると言ってくれるので、冷たいお茶をお願いした。
 その後はお茶を持って現れた小野崎さんとも挨拶をして、彼女が一階に下りると、華頂さんは漸く「先生」の顔を止めて俺を見た。

「土田さんは、時間……ゆっくり出来るんですか?」

 少し甘えたような声に聞こえる。
 なんだかそれはくすぐったくて、少しばかり可愛くて、俺の心をじんわりと満たしていく。

「えぇ。夜中の一時までに帰れば問題ないです」

 そんな冗談のような言葉に、華頂さんはコロコロと笑った。

「あははっ! その時間には何があるんですか?」
「雨が降っていたら、弟を迎えに行かなきゃいけないので」
「なるほど?」

 首を傾げながら、華頂さんはまたクスクスと笑い、無邪気な瞳を俺に向けた。

「晴れていたら、朝まで俺と一緒に居てくれるんですか?」

 一緒に居れたらいいけど……。

「それは無理ですねぇ。明日は出勤なので」
「はは! 休みだったら良かったのに」

 そう言って楽しそうに笑うと、リースの土台を俺の前に置いた。

「じゃあ、作っていきましょう。これがボンドです。キャップをひっくり返して穴を開けてもらっていいですか?」

 ドライフラワーはたくさんの種類が用意されていて、茎を短く切ってはボンドを付けて土台に差し込む。それを隙間なく埋めていく作業となった。簡単な作業に聞こえるが、バランスを見ながらだから、これが案外難しい。花の向きだってあるのだ。この花は外に向けた方がいいかなとか、茎を短く切り過ぎたかなとか、思っているより拘りポイントは多い。

 そんな俺の前の席で、華頂さんは、大小さまざまな箱に、綺麗な花を美しく敷き詰めてゆく。俺と違って、その手に一切の迷いはない。それに、それだけじゃなく、ワイヤーにビーズを通したり、リボンを作って挿し込んだりと、かなり細かい作業を手際よく行っている。

「そういう小物……も、手作りなんですね」
「買うより安くつくので。まぁ、買う時もあるんですけど」

 華頂さんはワイヤーに通したビーズをくるくると二回転させ、捻じって止めると、それを一気に五つくらい作り、俺へと渡してくれた。

「良かったらリースに使ってください。可愛いですよ、それがあるだけで」
「えっ、オプション料金取りますか?」
「取りませんよ!」

 笑い合い、俺はそれを有難く頂戴する。最後に差し込む方がいいとアドバイスされたので、横によけておいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

国王の嫁って意外と面倒ですね。

榎本 ぬこ
BL
 一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。  愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。  他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

処理中です...