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第四章:愛

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 階段を上がってくる二つの足音。

 必要な道具を持って現れた華頂さんの後ろからは、シートにくるんだ花を抱えて持ってくる真田さんが顔を出した。

「真田さん!」
「こんにちは、土田さん! 雨の中、わざわざご来店いただいてありがとうございます!」

 彼はにこやかに笑って、テーブルの上に花を広げた。立ち上がって挨拶する俺に、「座って座って」と言う彼は、飲み物を持ってくると言ってくれるので、冷たいお茶をお願いした。
 その後はお茶を持って現れた小野崎さんとも挨拶をして、彼女が一階に下りると、華頂さんは漸く「先生」の顔を止めて俺を見た。

「土田さんは、時間……ゆっくり出来るんですか?」

 少し甘えたような声に聞こえる。
 なんだかそれはくすぐったくて、少しばかり可愛くて、俺の心をじんわりと満たしていく。

「えぇ。夜中の一時までに帰れば問題ないです」

 そんな冗談のような言葉に、華頂さんはコロコロと笑った。

「あははっ! その時間には何があるんですか?」
「雨が降っていたら、弟を迎えに行かなきゃいけないので」
「なるほど?」

 首を傾げながら、華頂さんはまたクスクスと笑い、無邪気な瞳を俺に向けた。

「晴れていたら、朝まで俺と一緒に居てくれるんですか?」

 一緒に居れたらいいけど……。

「それは無理ですねぇ。明日は出勤なので」
「はは! 休みだったら良かったのに」

 そう言って楽しそうに笑うと、リースの土台を俺の前に置いた。

「じゃあ、作っていきましょう。これがボンドです。キャップをひっくり返して穴を開けてもらっていいですか?」

 ドライフラワーはたくさんの種類が用意されていて、茎を短く切ってはボンドを付けて土台に差し込む。それを隙間なく埋めていく作業となった。簡単な作業に聞こえるが、バランスを見ながらだから、これが案外難しい。花の向きだってあるのだ。この花は外に向けた方がいいかなとか、茎を短く切り過ぎたかなとか、思っているより拘りポイントは多い。

 そんな俺の前の席で、華頂さんは、大小さまざまな箱に、綺麗な花を美しく敷き詰めてゆく。俺と違って、その手に一切の迷いはない。それに、それだけじゃなく、ワイヤーにビーズを通したり、リボンを作って挿し込んだりと、かなり細かい作業を手際よく行っている。

「そういう小物……も、手作りなんですね」
「買うより安くつくので。まぁ、買う時もあるんですけど」

 華頂さんはワイヤーに通したビーズをくるくると二回転させ、捻じって止めると、それを一気に五つくらい作り、俺へと渡してくれた。

「良かったらリースに使ってください。可愛いですよ、それがあるだけで」
「えっ、オプション料金取りますか?」
「取りませんよ!」

 笑い合い、俺はそれを有難く頂戴する。最後に差し込む方がいいとアドバイスされたので、横によけておいた。
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