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第四章:愛
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「ねぇ、華頂さん。明日はお仕事ですか?」
尋ねると、彼は頷いた。
『えぇ、その予定ですけど、……土田さんはお休みなんですか?』
最後、ちょっぴり嬉しそうな声を出す。相変わらず分かりやすい人だと思う。問われ、俺は意地悪に嘘を吐いた。
「いえ、俺も仕事です」
そう言うと、明らかにしょんぼりした彼の姿が目に浮かんで、笑ってしまいそうになる。
『そう……ですか。まぁ、でもそうか。六月は式場って忙しそうですもんね』
「そうなんですよ。おかげさまで」
華頂さんは、「だったらいつが休みですか」と切り出そうかどうしようか迷っているような間を空け、「あの……」と勇気を振り絞るように切り出すから、俺はそれを遮って質問を繰り出した。
「明日はどんなお仕事をされるんですか?」
『え……? あ、明日ですか? えぇと』
華頂さんは、出鼻をくじかれたと言わんばかりに口ごもり、「何だったかな」と言いながら、明日の仕事を思い出す。
『まぁ、店内の仕事ですかね。ギフト用のフラワーボックス作ったり、ネット注文の商品揃えたり、まぁ、諸々。色々仕事はありますけど』
「へぇ。あ、そういえば。俺、弟と一緒に暮らしてるんですけど、華頂さんがこの前くださった百合の壁掛けリースを熱心に見てましたよ」
聞きたい情報は聞き出せた。
あとは適当に話を流して切るだけだ。
明日、華頂さんは店にいる。どこにも行かない。確実に会える。それだけ分かれば十分だ。
店に向かう前にプレゼントを準備しなきゃいけないな。
『あ、受け取ってもらえたんですね、あれ』
適当に振った話に彼が声を弾ませるから、お礼をまだ言っていないことに気付いて慌てふためく。
「あ! そうだ! はい、受け取りました! 綺麗なお花をありがとうございます!」
『いやいや、とんでもない。大きいし、邪魔かなとは思ったのですが、土田さんには何故かあの百合がいいような気がして』
「なんででしょうか?」
問う俺に、華頂さんも「何でだろう」と首を捻り、二人で笑い合った。
だけど、ピンクや赤の花を貰うよりは、白と緑の方がそれらしいのかもしれない。
「すごく綺麗ですね、百合。純白で、純真無垢で……」
そこまで言って、記憶の奥がチリっと焼けるような気がした。この百合が、大切な事のように思えたのだ。
突然黙る俺だったけど、華頂さんは気にせず頷いた。
『えぇ。百合にも色々と色がありますけど、やっぱり白が一番きれいですね。俺にはとても似合わないけど、土田さんには、似合うような気がしま……』
「いや違う」
彼の言葉を遮るように、俺は敬語すら忘れてそれを否定した。
『え?』
「百合はたぶん……貴方です」
ベランダから、キッチンのドアに掛かっている百合を見つめ、俺は言い切った。
尋ねると、彼は頷いた。
『えぇ、その予定ですけど、……土田さんはお休みなんですか?』
最後、ちょっぴり嬉しそうな声を出す。相変わらず分かりやすい人だと思う。問われ、俺は意地悪に嘘を吐いた。
「いえ、俺も仕事です」
そう言うと、明らかにしょんぼりした彼の姿が目に浮かんで、笑ってしまいそうになる。
『そう……ですか。まぁ、でもそうか。六月は式場って忙しそうですもんね』
「そうなんですよ。おかげさまで」
華頂さんは、「だったらいつが休みですか」と切り出そうかどうしようか迷っているような間を空け、「あの……」と勇気を振り絞るように切り出すから、俺はそれを遮って質問を繰り出した。
「明日はどんなお仕事をされるんですか?」
『え……? あ、明日ですか? えぇと』
華頂さんは、出鼻をくじかれたと言わんばかりに口ごもり、「何だったかな」と言いながら、明日の仕事を思い出す。
『まぁ、店内の仕事ですかね。ギフト用のフラワーボックス作ったり、ネット注文の商品揃えたり、まぁ、諸々。色々仕事はありますけど』
「へぇ。あ、そういえば。俺、弟と一緒に暮らしてるんですけど、華頂さんがこの前くださった百合の壁掛けリースを熱心に見てましたよ」
聞きたい情報は聞き出せた。
あとは適当に話を流して切るだけだ。
明日、華頂さんは店にいる。どこにも行かない。確実に会える。それだけ分かれば十分だ。
店に向かう前にプレゼントを準備しなきゃいけないな。
『あ、受け取ってもらえたんですね、あれ』
適当に振った話に彼が声を弾ませるから、お礼をまだ言っていないことに気付いて慌てふためく。
「あ! そうだ! はい、受け取りました! 綺麗なお花をありがとうございます!」
『いやいや、とんでもない。大きいし、邪魔かなとは思ったのですが、土田さんには何故かあの百合がいいような気がして』
「なんででしょうか?」
問う俺に、華頂さんも「何でだろう」と首を捻り、二人で笑い合った。
だけど、ピンクや赤の花を貰うよりは、白と緑の方がそれらしいのかもしれない。
「すごく綺麗ですね、百合。純白で、純真無垢で……」
そこまで言って、記憶の奥がチリっと焼けるような気がした。この百合が、大切な事のように思えたのだ。
突然黙る俺だったけど、華頂さんは気にせず頷いた。
『えぇ。百合にも色々と色がありますけど、やっぱり白が一番きれいですね。俺にはとても似合わないけど、土田さんには、似合うような気がしま……』
「いや違う」
彼の言葉を遮るように、俺は敬語すら忘れてそれを否定した。
『え?』
「百合はたぶん……貴方です」
ベランダから、キッチンのドアに掛かっている百合を見つめ、俺は言い切った。
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