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第四章:愛
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そう思ったんだけど、俺の口元は笑ってた。面白い人だ、って。仕方ない人だ、って。
……可愛い人だな、ってさ。
「わかりましたよ。……ごめんね、待たせちゃって」
これで満足してくれるかと思った。
なのに、電話先の彼は急にだんまりになり、不安になるくらいの静寂に包まれた。
……あれ? 電波障害か?
「華頂さん?」
呼ぶけど返事はなく、あまりに静かだから、俺は携帯を耳から離して電波を確認した。
……いや、電波四本立ってますけど?
「あの、もしもし、華頂さ……」
『……う……わぁ……』
もう一度彼の名前を呼んで応答を呼びかけようとしたら、ために溜めまくった彼の「うわぁ」が飛び出し、きょとんとした。
『や……っばい。土田さんの “ごめんね、待たせちゃって” は、ぞくぞくするなぁ』
「……っ! やめてください、気持ち悪いな!」
『えっ、気持ち悪いとか言わないで下さいよ!』
「気持ち悪いですよ! あなた自分の性別と年齢分かって言ってんですか!」
『うわっ! そういうこと言う! 俺、年齢の割には清潔感あると思ってますけどね!?』
「清潔感とかの問題じゃないんですよ!」
華頂さんは俺との軽快なやり取りに最後は楽しそうに笑った。やっと笑ってくれた。まぁでも……、こんなことで笑わせたくもないんだけど。
案の定──。
『ごめんね、土田さん。俺がもっと若くて綺麗な女性だったら良かったんだけど』
ほら……、笑うけどそういうこと言うだろ。
「……別に、そういうつもりで華頂さんに電話しているわけではないので」
『まぁ、そうなんだろうけど。でも嫌でしょ、こんなおじさん』
「いや……、別に。嫌とかそういうのは、無いですよ」
華頂さん面白いし、と付け加えると、彼は電話の向こうで優しく笑った。
『優しいね、土田さんは。ありがとう。今、いくつなんでしたっけ?』
以前にも聞かれた気がするけど、もう一度答える。
「この前、二十六歳になりました」
『あ、お誕生日だったんですか?』
「はい、十七日に」
隠すこともなく言うと、彼はマジックでカレンダーに丸印を付けた。
そんな気がした。
『十七か……。丁度十日前ですね。覚えておきます。お誕生日おめでとうございます』
お祝いの言葉に、俺は電話の向こうの華頂さんへペコリと頭を下げる。見えもしないのに。
「ありがとうございます」
今カレンダーに丸つけたでしょ、と言おうか言うまいか迷ったけど、やめておいた。そんなことを言ってしまえば、「どこから見ているんだ、このストーカーめ」と濡れ衣を着せられそうだ。
『じゃあ、今度会った時、お祝いしなきゃですね』
「あ、やっぱりご飯行くんですか?」
『え、ダメですか?』
ガチだな、この人。
「奢ってくれるんですか?」
『もちろんですよ。食べたいもの決めておいてください』
「そこは断っていいトコロですよ、華頂さん」
『いやでも、お祝いなので』
そうか、この食事は誕生祝いに変わったのか。別に、そんなもの祝ってもらわなくてもいいんだけどな。
そう思って、ふと思い出す。
待てよ? 明日って二十八日か? 華頂さん誕生日だ。
火口さんから渡された資料の内容を思い出す。俺と十一日違いだったんだ。たしか、そのはず。
明日は……じゃあ、やっぱり会いに行こう。
……可愛い人だな、ってさ。
「わかりましたよ。……ごめんね、待たせちゃって」
これで満足してくれるかと思った。
なのに、電話先の彼は急にだんまりになり、不安になるくらいの静寂に包まれた。
……あれ? 電波障害か?
「華頂さん?」
呼ぶけど返事はなく、あまりに静かだから、俺は携帯を耳から離して電波を確認した。
……いや、電波四本立ってますけど?
「あの、もしもし、華頂さ……」
『……う……わぁ……』
もう一度彼の名前を呼んで応答を呼びかけようとしたら、ために溜めまくった彼の「うわぁ」が飛び出し、きょとんとした。
『や……っばい。土田さんの “ごめんね、待たせちゃって” は、ぞくぞくするなぁ』
「……っ! やめてください、気持ち悪いな!」
『えっ、気持ち悪いとか言わないで下さいよ!』
「気持ち悪いですよ! あなた自分の性別と年齢分かって言ってんですか!」
『うわっ! そういうこと言う! 俺、年齢の割には清潔感あると思ってますけどね!?』
「清潔感とかの問題じゃないんですよ!」
華頂さんは俺との軽快なやり取りに最後は楽しそうに笑った。やっと笑ってくれた。まぁでも……、こんなことで笑わせたくもないんだけど。
案の定──。
『ごめんね、土田さん。俺がもっと若くて綺麗な女性だったら良かったんだけど』
ほら……、笑うけどそういうこと言うだろ。
「……別に、そういうつもりで華頂さんに電話しているわけではないので」
『まぁ、そうなんだろうけど。でも嫌でしょ、こんなおじさん』
「いや……、別に。嫌とかそういうのは、無いですよ」
華頂さん面白いし、と付け加えると、彼は電話の向こうで優しく笑った。
『優しいね、土田さんは。ありがとう。今、いくつなんでしたっけ?』
以前にも聞かれた気がするけど、もう一度答える。
「この前、二十六歳になりました」
『あ、お誕生日だったんですか?』
「はい、十七日に」
隠すこともなく言うと、彼はマジックでカレンダーに丸印を付けた。
そんな気がした。
『十七か……。丁度十日前ですね。覚えておきます。お誕生日おめでとうございます』
お祝いの言葉に、俺は電話の向こうの華頂さんへペコリと頭を下げる。見えもしないのに。
「ありがとうございます」
今カレンダーに丸つけたでしょ、と言おうか言うまいか迷ったけど、やめておいた。そんなことを言ってしまえば、「どこから見ているんだ、このストーカーめ」と濡れ衣を着せられそうだ。
『じゃあ、今度会った時、お祝いしなきゃですね』
「あ、やっぱりご飯行くんですか?」
『え、ダメですか?』
ガチだな、この人。
「奢ってくれるんですか?」
『もちろんですよ。食べたいもの決めておいてください』
「そこは断っていいトコロですよ、華頂さん」
『いやでも、お祝いなので』
そうか、この食事は誕生祝いに変わったのか。別に、そんなもの祝ってもらわなくてもいいんだけどな。
そう思って、ふと思い出す。
待てよ? 明日って二十八日か? 華頂さん誕生日だ。
火口さんから渡された資料の内容を思い出す。俺と十一日違いだったんだ。たしか、そのはず。
明日は……じゃあ、やっぱり会いに行こう。
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