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第四章:愛
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寒くもないのに、指は少し震えて番号を打ち込んだ。
弟が風呂から上がってくるまでにさっさと電話を終わらせたい。万が一電話に出てくれたとしても、明日店にいるかどうかだけ聞いて、さっさと切ろう。
大きく息を吸い込み、呼び出しボタンを押した。
耳に響くコール音。
一回、二回、……五回、六回。
呼び出し音は続き、限界かと思った八回目。
『はい』
簡単な返事で電話に出た男性の声が耳に滑り込んで来た。
「あ……っ」
まさか本当に出るとは思っていなかった。これだけコール音が続けば、仕事用の携帯だと思ったところだったのに……っ!
「あ、あの……っ」
慌てて言葉を紡ぐ。
「こちらの携帯番号は華頂茜さんの番号で、よろしいでしょうか?」
緊張して声が上ずる。携帯の向こうの男性は、俺の質問から、一拍も二拍も置いてから、控えめに「はい」と返事した。もうその時点で、名乗らなくてもこの電話が俺だと言うことに気付いていると、なんとなく分かった。
それでも名乗らないわけにもいかない。「俺だよ、俺俺」なんてどこかの詐欺集団みたいに気軽に話し出せるほど、俺達の関係はそこまで親密でもないから。
ふうっと呼吸を整えて、俺は口を開いた。
「連絡が遅くなってすみません。土田です」
そう名乗ると、華頂さんは電話の向こうですぅっと大きく息を吸い込み、結局また、小さな声で「はい」と返事した。
「ちょ……っと、そういう……そういう緊張してますっていう態度を、あからさまに取らないでくださいよ! 俺にも伝染しちゃうでしょう!?」
あえて俺から軽口を繰り出したけど、華頂さんは電話の向こうで、「ごめんなさい」と謝罪して、ずずっと鼻を啜った。
待て待て。待てよ。
「え、泣いてますか?」
『泣いて……ません』
「いや、泣いてますよね!?」
『泣いてないです』
そんな震えた声で否定されたって説得力ないだろ!
「何、泣いてんすか……まじで」
いい年した男がさ……。こんなことで泣くなよ。
俺はその場にずずっとしゃがみ込んで頭を抱え込んだ。
まさか、電話しただけで泣かれるとは思っていない。俺からの電話はそんなに「特別なもの」なのだろうか。
『だって……、約束したのに、全然電話来ないし……、俺からは連絡の取りようがないから……、嘘つかれたのかな、って。さっき、ムカついて携帯クッションの下に埋めた所だったんで』
いや、だから電話出るの遅かったのかよ!
「あのね。そういう女の子みたいな事しないでくださいよ。嘘なんかつきませんから、約束したでしょう?」
『だってもうすぐ約束から三日目に突入しようとしてんですよ!? 待ってる俺が可哀想でしょうが!』
いきなりキレた。
いや、でも調子が戻ってきたということだろう。
「まだ二日目です。クッションに埋めるのが早すぎますよ」
『だって俺はずっと待ってたの!』
「やっぱり女子だったんですか?」
『女子って言わないで! 待たせてゴメンくらい言って!』
「言いましたよ、さっき!」
『もう一回、言って!』
なんだ、この我儘オヤジは!
弟が風呂から上がってくるまでにさっさと電話を終わらせたい。万が一電話に出てくれたとしても、明日店にいるかどうかだけ聞いて、さっさと切ろう。
大きく息を吸い込み、呼び出しボタンを押した。
耳に響くコール音。
一回、二回、……五回、六回。
呼び出し音は続き、限界かと思った八回目。
『はい』
簡単な返事で電話に出た男性の声が耳に滑り込んで来た。
「あ……っ」
まさか本当に出るとは思っていなかった。これだけコール音が続けば、仕事用の携帯だと思ったところだったのに……っ!
「あ、あの……っ」
慌てて言葉を紡ぐ。
「こちらの携帯番号は華頂茜さんの番号で、よろしいでしょうか?」
緊張して声が上ずる。携帯の向こうの男性は、俺の質問から、一拍も二拍も置いてから、控えめに「はい」と返事した。もうその時点で、名乗らなくてもこの電話が俺だと言うことに気付いていると、なんとなく分かった。
それでも名乗らないわけにもいかない。「俺だよ、俺俺」なんてどこかの詐欺集団みたいに気軽に話し出せるほど、俺達の関係はそこまで親密でもないから。
ふうっと呼吸を整えて、俺は口を開いた。
「連絡が遅くなってすみません。土田です」
そう名乗ると、華頂さんは電話の向こうですぅっと大きく息を吸い込み、結局また、小さな声で「はい」と返事した。
「ちょ……っと、そういう……そういう緊張してますっていう態度を、あからさまに取らないでくださいよ! 俺にも伝染しちゃうでしょう!?」
あえて俺から軽口を繰り出したけど、華頂さんは電話の向こうで、「ごめんなさい」と謝罪して、ずずっと鼻を啜った。
待て待て。待てよ。
「え、泣いてますか?」
『泣いて……ません』
「いや、泣いてますよね!?」
『泣いてないです』
そんな震えた声で否定されたって説得力ないだろ!
「何、泣いてんすか……まじで」
いい年した男がさ……。こんなことで泣くなよ。
俺はその場にずずっとしゃがみ込んで頭を抱え込んだ。
まさか、電話しただけで泣かれるとは思っていない。俺からの電話はそんなに「特別なもの」なのだろうか。
『だって……、約束したのに、全然電話来ないし……、俺からは連絡の取りようがないから……、嘘つかれたのかな、って。さっき、ムカついて携帯クッションの下に埋めた所だったんで』
いや、だから電話出るの遅かったのかよ!
「あのね。そういう女の子みたいな事しないでくださいよ。嘘なんかつきませんから、約束したでしょう?」
『だってもうすぐ約束から三日目に突入しようとしてんですよ!? 待ってる俺が可哀想でしょうが!』
いきなりキレた。
いや、でも調子が戻ってきたということだろう。
「まだ二日目です。クッションに埋めるのが早すぎますよ」
『だって俺はずっと待ってたの!』
「やっぱり女子だったんですか?」
『女子って言わないで! 待たせてゴメンくらい言って!』
「言いましたよ、さっき!」
『もう一回、言って!』
なんだ、この我儘オヤジは!
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