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第四章:愛
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二日前の華頂さんを思い出す。
俺に携帯の番号を聞こうとして、完全に玉砕してたもんな。可笑しい人だ、本当に。
俺は自然と笑みを零し、携帯で彼の店の位置を検索した。
HPを開いて、マップと営業時間を確認する。ついでに色々見ていると、フラワーアレンジメントの体験ができるというページに行きついた。
「事前予約……が要るのか。そりゃそうか」
でも俺の名前で予約を入れたらサプライズにもならないしな。
フラワーアレンジには、ルームプレートやフォトフレームを始め、リースや花かご、ハーバリウムの体験なんかもあった。もちろん寄せ植えや生け花教室なんかもあって、かなり幅が広い。
「手広くやってるんだな。予約なしでも出来るヤツないのかな」
楽しそうに花かごやハーバリウムを作っている女性たちの写真が載せられている。詳しく調べていくと、曜日や時間、日によって教室内容が決められているようで、明日、六月二十八日の体験教室は「お花のリース」か「花かご」のいずれかだった。
リースはどうやらドライフラワーのみで、花かごは生花かブリザーブドフラワーかを選べるようになっている。
「へぇ……可愛いな」
どうせなら作ってみたいと思う。いずれも参加費用は六千円。高いのか安いのかすらよくは分からないけど、会いにいくだけ会いに行って手ぶらで帰るのも気が引ける。それこそ、他の従業員たちに「何をしに来たんだ」と言われそうだ。
現在。夜の十時。もちろん、華頂風月はもう閉店済みだ。それでもHPの予約は、明日の予約が出来そうな雰囲気を漂わせている。
「……こんなギリギリに申し込んでも大丈夫なのか?」
ダメもとで予約ボタンを押すと、案の定「受付は終了しております」の文字。
「やっぱ、無理じゃん」
舌打ちして携帯を放り投げる。
当日、店で何かを買って帰ればいいか。
そう思ったのだが、そういえば、依頼があれば華頂さんは出張もするんだということを思い出した。ベランダのペチュニアを持って来てくれた日がまさにそうだった。
「明日……、そもそも店にいるんだろうか」
やっぱりサプライズで店に行くにはリスクがある。会えないのなら意味がない。
「電話……しよう……か」
俺は携帯と、華頂さんの名刺を握りしめ、ベランダへと出た。万が一弟が風呂から出て来ても、ベランダに出ていれば仕事の電話だと思って邪魔はしないだろう。
携帯と名刺と睨めっこする俺の頬を、梅雨の湿った夜風が撫でてゆく。
自分でもビックリするくらい緊張している。相手は三十七歳のただのおじさんだ。緊張することなんて一つもない。
なのに、心臓はドキドキと跳ね上がり、明日、やっぱりサプライズで会いに行く方が断然楽なんじゃないかと思ってしまう。そっちの方がずっと緊張しないような気がする。
契約者の新郎新婦にはためらいもなく電話するくせに、なんで相手が華頂さんだと緊張してしまうんだよ。好きな人でもあるまいし。
ベランダの柵に凭れながら大きなため息を吐く。
「そうだよ……。好きだったのはいつかの過去で、今じゃない。俺は男なんて好きじゃないし、間違ってもおっさんなんて……、完全に論外だろ」
そもそもここに表記されている携帯番号が、彼のプライベート携帯とも限らないんだ。電話して、繋がらなくて、結局明日店に出向く。このオチで間違いない。緊張して損したと思うのが関の山さ。
だから、思いきれよ、俺。
俺に携帯の番号を聞こうとして、完全に玉砕してたもんな。可笑しい人だ、本当に。
俺は自然と笑みを零し、携帯で彼の店の位置を検索した。
HPを開いて、マップと営業時間を確認する。ついでに色々見ていると、フラワーアレンジメントの体験ができるというページに行きついた。
「事前予約……が要るのか。そりゃそうか」
でも俺の名前で予約を入れたらサプライズにもならないしな。
フラワーアレンジには、ルームプレートやフォトフレームを始め、リースや花かご、ハーバリウムの体験なんかもあった。もちろん寄せ植えや生け花教室なんかもあって、かなり幅が広い。
「手広くやってるんだな。予約なしでも出来るヤツないのかな」
楽しそうに花かごやハーバリウムを作っている女性たちの写真が載せられている。詳しく調べていくと、曜日や時間、日によって教室内容が決められているようで、明日、六月二十八日の体験教室は「お花のリース」か「花かご」のいずれかだった。
リースはどうやらドライフラワーのみで、花かごは生花かブリザーブドフラワーかを選べるようになっている。
「へぇ……可愛いな」
どうせなら作ってみたいと思う。いずれも参加費用は六千円。高いのか安いのかすらよくは分からないけど、会いにいくだけ会いに行って手ぶらで帰るのも気が引ける。それこそ、他の従業員たちに「何をしに来たんだ」と言われそうだ。
現在。夜の十時。もちろん、華頂風月はもう閉店済みだ。それでもHPの予約は、明日の予約が出来そうな雰囲気を漂わせている。
「……こんなギリギリに申し込んでも大丈夫なのか?」
ダメもとで予約ボタンを押すと、案の定「受付は終了しております」の文字。
「やっぱ、無理じゃん」
舌打ちして携帯を放り投げる。
当日、店で何かを買って帰ればいいか。
そう思ったのだが、そういえば、依頼があれば華頂さんは出張もするんだということを思い出した。ベランダのペチュニアを持って来てくれた日がまさにそうだった。
「明日……、そもそも店にいるんだろうか」
やっぱりサプライズで店に行くにはリスクがある。会えないのなら意味がない。
「電話……しよう……か」
俺は携帯と、華頂さんの名刺を握りしめ、ベランダへと出た。万が一弟が風呂から出て来ても、ベランダに出ていれば仕事の電話だと思って邪魔はしないだろう。
携帯と名刺と睨めっこする俺の頬を、梅雨の湿った夜風が撫でてゆく。
自分でもビックリするくらい緊張している。相手は三十七歳のただのおじさんだ。緊張することなんて一つもない。
なのに、心臓はドキドキと跳ね上がり、明日、やっぱりサプライズで会いに行く方が断然楽なんじゃないかと思ってしまう。そっちの方がずっと緊張しないような気がする。
契約者の新郎新婦にはためらいもなく電話するくせに、なんで相手が華頂さんだと緊張してしまうんだよ。好きな人でもあるまいし。
ベランダの柵に凭れながら大きなため息を吐く。
「そうだよ……。好きだったのはいつかの過去で、今じゃない。俺は男なんて好きじゃないし、間違ってもおっさんなんて……、完全に論外だろ」
そもそもここに表記されている携帯番号が、彼のプライベート携帯とも限らないんだ。電話して、繋がらなくて、結局明日店に出向く。このオチで間違いない。緊張して損したと思うのが関の山さ。
だから、思いきれよ、俺。
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