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第四章:愛
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「紅夜、明日は大学か?」
「当然。んで、その後バイト行くから、明日また遅くなる。飯要らないからね」
「そうか。雨が降ったら迎えに行ってやるからな」
「やりぃ! 兄ちゃん、超好き!」
「はは」
弟は大学に友達がたくさんいるから、休日の過ごし方も自由度が高い。でも俺は仕事でこっちに来たから、あまり友達が居ない。休日はほとんど雑誌やネットを読み漁り、仕事に役立ちそうなことを猛勉強するだけだ。
でも……明日は、華頂さんに会いに、店へ行ってみようかと思う。
驚くだろうか。笑って出迎えてくれるだろうか。……泣き出したりして。
そんな風に思ったら、可笑しくて口元が緩む。
ねぇ、華頂さん。俺は少し思い出せたよ。貴方が可憐で可愛い女性だったこと。コロコロとよく笑い、軽やかに踊って、花が大好きな女の子だったことをさ。
貴方は俺のことが大好きだと全身で教えてくれる、分かりやすい女性だったんだ。そのくせ、それが俺にバレていないと思っているのか、事ある毎に恥ずかしがって、もじもじしていた。とても可愛かったよ。
俺は、そんな彼女が好きでたまらなかった。毎日毎日「可愛い」と思っていた。
いつだったか、「可愛い」という言葉を、忘れてはいけないと思ったことがある。「可愛い」はきっと、彼女にとっても一番の褒め言葉だったのだろう。いつだって俺からその言葉を聞きたかったに違いない。俺はそれを知っていて、きっと少し意地悪をしていた。違うかな。
全部俺の勝手な想像。真実は分からない。覚えていない。だけど、なんとなくそんな気がするから、そうだってことにしておく。
分からないことを分からないままでもいいとキミはそう言うから、だったら俺は、分からないことを自由に想像してみることにするよ。たまにはいいだろう? キミならきっとそれを楽しんでくれる気がするんだ。適当な事を言う俺に、またあの可愛い笑顔を見せてさ。
会いたいと思う。
相手は十二歳も年上のおじさんだけど、俺今、すごく華頂さんに会いたいよ。
「当然。んで、その後バイト行くから、明日また遅くなる。飯要らないからね」
「そうか。雨が降ったら迎えに行ってやるからな」
「やりぃ! 兄ちゃん、超好き!」
「はは」
弟は大学に友達がたくさんいるから、休日の過ごし方も自由度が高い。でも俺は仕事でこっちに来たから、あまり友達が居ない。休日はほとんど雑誌やネットを読み漁り、仕事に役立ちそうなことを猛勉強するだけだ。
でも……明日は、華頂さんに会いに、店へ行ってみようかと思う。
驚くだろうか。笑って出迎えてくれるだろうか。……泣き出したりして。
そんな風に思ったら、可笑しくて口元が緩む。
ねぇ、華頂さん。俺は少し思い出せたよ。貴方が可憐で可愛い女性だったこと。コロコロとよく笑い、軽やかに踊って、花が大好きな女の子だったことをさ。
貴方は俺のことが大好きだと全身で教えてくれる、分かりやすい女性だったんだ。そのくせ、それが俺にバレていないと思っているのか、事ある毎に恥ずかしがって、もじもじしていた。とても可愛かったよ。
俺は、そんな彼女が好きでたまらなかった。毎日毎日「可愛い」と思っていた。
いつだったか、「可愛い」という言葉を、忘れてはいけないと思ったことがある。「可愛い」はきっと、彼女にとっても一番の褒め言葉だったのだろう。いつだって俺からその言葉を聞きたかったに違いない。俺はそれを知っていて、きっと少し意地悪をしていた。違うかな。
全部俺の勝手な想像。真実は分からない。覚えていない。だけど、なんとなくそんな気がするから、そうだってことにしておく。
分からないことを分からないままでもいいとキミはそう言うから、だったら俺は、分からないことを自由に想像してみることにするよ。たまにはいいだろう? キミならきっとそれを楽しんでくれる気がするんだ。適当な事を言う俺に、またあの可愛い笑顔を見せてさ。
会いたいと思う。
相手は十二歳も年上のおじさんだけど、俺今、すごく華頂さんに会いたいよ。
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