フラワーコード ~過去から未来へ。キミと僕を繋ぐのは約束のフラワーコード~

2wei

文字の大きさ
上 下
41 / 61
第三章:目印

10

しおりを挟む
 夜。
 「そういえばこれ、華頂さんから渡されてたの」と言って赤穂先輩から渡されたのは、チャペルで使用した百合の壁かけブーケだった。

「……綺麗だ」

 俺はそれをリビングのドアへと引っ掛ける。
 急に見慣れた部屋が華やいだ気がして、思わず笑顔が零れた。

 弟は今日、バイトで遅くなると言っていた。言わずもがな夕ご飯はない。かと言って作る体力も残っていない。帰りに買ってきたコンビニ弁当を温め、寝てしまいそうなのを堪えて風呂に入った。明日も朝が早い。
 弟の帰りを待たず、俺は猫田さんと一緒に布団に入った。

 華頂さんに電話をしなきゃと思いながらも、ベッドの中に居ては名刺入れを取りに行く気力など湧くはずもない。猫田さんだって、取ってきてはくれないのだ。また明日以降だと思いながら、うとうとする意識の中、もう一度、勿忘草の花言葉を調べた。

 検索結果を見たのか見てないのか……、俺はすとんと夢に落ち、懐かしい風景の中に立っていた。

「見たことある気がするな」

 温かい風が吹いている、草原。
 少し離れた所には、可愛らしい家が建ち並び、ここが日本ではないことにすぐに気付いた。

「どこだろう、ここは。とてものどかだ」

 俺は民家に背を向け、風の吹く方向へと歩き出す。そして、土手の向こうに川が流れているのを見つけた。
 澄んだ川の水。浅瀬には魚が泳いているのが見てとれる。すごい透明度だ。

「綺麗だ……。バーベキューとかしたくなるな」

 そんな風に思いながら俺は土手を下りて、どうしてこんなに懐かしい気分になるのだろうと思った。

 パノラマの風景を見渡し、目の前をモンキチョウが通り過ぎると、俺はそれを目で追った。そして気付いた。少し離れたところに、少年と少女がお喋りしていることに。

 隣には誰も座っていない車椅子があり、どちらかが足を悪くしているのが伺えた。

 男の子は分厚い本を開いていて、女の子はその手に青い花を持っていた。

「ねぇ、早く見つけて! このお花の名前を知りたいの!」
「待ってよ。調べてるから。見つけるまでリリーは魚でも捕まえていて」
「いやよ! お魚はエドが手伝ってくれないと捕まえられないってずっと言ってるでしょ?」
「無茶苦茶言わないでよ。僕、捕まえたことないのに」
「そんなことないわ! いつもたくさん捕まえさせてくれるじゃない!」

 男の子は、彼女の言葉に肩を竦め、本をパラリと捲った。そして。

「あ! これじゃないか!? 見て、リリー!」

 二人は本を覗きこみ、彼女の持っている花と写真を見比べ、楽しそうにわっと声を上げた。

勿忘草forget-me-not!」
「これ、勿忘草forget-me-notっていうのか!」

 そう言ってはしゃぎ、「こんなに可愛いなら、忘れることはないわ!」と女の子は立ち上がってくるくると舞うように回った。

「本当だね! 絶対に忘れたりはしないね!」
「この青は、今エドが着ているベストの色にそっくりね! エドは青がよく似合うから、私、この花を家に飾るわ! おばあちゃまもきっと喜ぶはず! エドもおばさまに摘んで帰るでしょう? 待っていて! たくさん摘んでくるわ!」
「ははっ! はしゃぎすぎて川にはまっちゃいけないよ、リリー」
「大丈夫よ! 待っていて! すぐに戻るから!」

 楽しそうに笑う二人を見つめ、俺はそっと足の悪い男の子の後ろへと歩み寄る。
 どうやら、俺の姿は彼らには見えていないらしい。

 本には、開花時期や育て方などが載っており、花言葉もちゃんと載せられていた。

「青の勿忘草は…… “真実の愛”」

 俺が見ていた部分とまったく同じところを読み上げた少年は、群生している勿忘草の元へ走ってゆく女の子を見つめ、恥ずかしそうに笑った。

「うん……。そうかも、しれない。僕はリリーを愛してる……。いつか……、いつか」

 そう言って彼は照れを隠すように本を閉じて、天を仰いだ。

「いつかあの花で、プロポーズを」

 彼の代わりに、俺が続きの言葉を口にした。

 その瞬間、天を仰いだ少年と目が合った気がして俺は夢から目が覚めた。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ダブルスの相棒がまるで漫画の褐色キャラ

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
ソフトテニス部でダブルスを組む薬師寺くんは、漫画やアニメに出てきそうな褐色イケメン。 顧問は「パートナーは夫婦。まず仲良くなれ」と言うけど、夫婦みたいな事をすればいいの?

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

処理中です...