フラワーコード ~過去から未来へ。キミと僕を繋ぐのは約束のフラワーコード~

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第三章:目印

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 思い出せそうと彼は言った。
 何を思い出そうとしているのか、何が思い出せそうなのか、俺にはまるで見当もつかないけど、それを思い出したら、逆にもう……俺は必要なくなるだろ?

 そう思って、俺はその使い捨て感が嫌だったのかと自分に問うた。でも、別にそういうわけでもない。だとしたら何が嫌だった? 彼が男だからか? 年上の普通のおじさんだからか?
 そう自分に問いかけ、「そりゃそうだろ」と思った。どうせ好意を寄せられるのなら若くて綺麗な女性がいい。電話番号を交換するなら、あんな普通のおじさんじゃなくて……、綺麗で、若くて、可愛い女性。

 そう思った俺だけど、彼らが車に乗り込みエンジンをかけた瞬間、式場の花壇横にシロツメクサが咲いているのを見て、大切なことを思い出した。

 気付いたら俺はシロツメクサを一本引きちぎり、動き出す車を全速力で追いかけて、ばんばんとその扉を叩いていた。

「華頂さんっ! 華頂さん!」

 このまま彼を帰しちゃいけないと思った。彼が年上だろうが、男だろうが、おじさんだろうが、これは……「約束」なのだ。

「華頂さん、待ってっ!」

 いきなり駆け出して車を叩く俺に、先輩達も驚いて、もちろん、車に乗り込んでいる華頂風月の従業員たちもギョッとして窓の外の俺を見た。

「華頂さんっ!」

 車は急ブレーキで停止し、華頂さんは驚いて窓を開けようとしたけど、俺はそれより早く車のドアを開け、華頂さんを車から強引に下ろした。

「ど、どうしたんですか」

 つんのめりながら車から降りて来た華頂さんは目を白黒させながら俺を見下ろした。そんな彼の手をぎゅっと両手で掴むと、彼ははっとしたように黙り、俺の瞳をじっと見つめた。

「茜……っ!」

 突然、下の名前で呼ばれたと思っただろうか。車に乗っている従業員たちも驚いた様子で俺を見た。でも違う、名前を呼んだわけじゃない。

「貴方の名前は茜……っ! そうですよね!」
「……はい」
「だとしたら、俺が、……俺が思い出さなきゃいけないんです! 俺が全部忘れてる! きっとそうなんですっ! こんなにも『思い出して』と言っているのに……っ!」

 華頂さんの瞳が見開かれ、でも、俺の口は勝手に叫んでいた。

「俺ばっかり……、忘れないでくれと貴方に訴えて、俺は何も思い出そうとしてない! それでも、勿忘草は……青! 俺は青の勿忘草が好きです!」

 正直、口にしていて何の話か分からなかった。でも、繋いだ手の先の華頂さんの目には見る見るうちの涙が溜まっていく。

「……俺も、青が好きです。昔から……勿忘草は “青” 。綺麗で、可愛くて……、一番大好き」



 そう言って、涙を堪えながら微笑んだ華頂さんの声は、とても四十近い男の出すような声とは思えなかった。それくらい、細くて頼りない声だった。でもその声を……、俺は初めて『聞いたことがある』と思ったんだ。

「約束します。必ず思い出します。俺はきっと貴方を知っています! 姿かたちが変わっても、俺は絶対に……、今世が無理なら、来世でも、来来世でも、頑張って思い出します! だから……、だからっ、貴方は俺を覚えていてください!」

 堰を切ったように流れ出した華頂さんの涙はシロツメクサを握りしめる俺の手の甲に零れて落ちた。

「……っちだ、さん……っ」
「人を愛せないなんて言わないでください。一人は寂しい。貴方はよく喋って、よく笑って、人に愛される人だから、思い出して……っ! 人を好きになることを! 怖くなんかないっ。そうだったでしょう!?」

 嗚咽が漏れるほど泣き出す華頂さんは俺の手を強く強く握り返し、頼りなく頷いた。
 この人の今までの生きざまなんて知らない。見たことも聞いたこともない。それでも、そう言い切った俺に、彼は何度も何度も頷いて、このまま泣き崩れて座り込んでしまうんじゃないかと思うほどだった。
 だから、彼が立っていられる力を失ってしまう前に引き寄せ抱きしめた。



「大丈夫……っ! 俺が貴方の結婚式をプロデュースします! 必ず! 今日よりも立派でいい式にします! だから、人を好きになってくださいっ!」

 華頂さんは、俺の腕の中で子供の様にわんわんと声を上げて泣いた。それは、どこかで聞いたことがあるような泣き方で、「俺はやっぱりこの人を知っている」と思った。

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