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第三章:目印
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はぁぁぁぁぁっ!?
冗談はやめてくれ!
「それは、何の願望を夢に見てるんですか!?」
「ちょちょ、やめてくださいっ! そういう風にだけは弄らないでください!」
「弄ってるわけじゃないですよ! どういう……っ、なに、俺に可愛いって言って欲しいんですか!?」
「やめて! 恥ずかしいから、そんな大きな声で言わないで、お願い!」
華頂さんは真っ赤になりながら俺に手を擦り合わせて、「俺も分かんないの。恥ずかしいの。でもだからこそ!」と言って俺のスーツに縋りついた。
「真相を知りたいんですっ! 何か俺の、トラウマとか、記憶の手掛かりになるかもしれないから! 貴方が何かを持っているような気がするんです!」
「俺ぇ!? 俺、絶対無関係ですって!」
「それならそれでいいんです! だから、おっさんの余生に付き合うと思って、たまにちょっとだけ会ってやってくれませんか!?」
「なんっだ、それ!」
俺は縋りつく華頂さんの手から慌てて逃げた。けど、離れた彼の手を初めてしっかりと見て、ぎょっとした。
「え……、華頂さん……それ」
左手薬指の付け根。
俺と、まったく同じ位置に、ほくろがあったのだ。
お互いの手を並べ、位置も大きさもほぼ変わらないそのほくろに、二人とも言葉を失った。
「……なんで俺と同じ位置にほくろ付け足してんですか。……気持ち悪いですよ、華頂さん」
「ちょ待って! これ、俺がマジックで書いたとでも思ってるの!? やだ! めっちゃストーカーだと思われてるじゃん!」
「ストーカーでしょ!?」
「違う、違う! これ、学生の時に突然出来たほくろ! 不可抗力!」
「そうやって嘘つかない!」
「嘘じゃないって~!」
十二歳も年下の俺に押され気味のおじさんは、ひーんと嘘泣きして、その後、諦めたように項垂れた。
「まぁ……でもそうですよね。気味悪いですよね。ごめんなさい……諦めます」
彼は自分の手の平を見つめ、「もう少しで思い出せそうだったんだけど」と呟き、俺に静かに背を向けた。
「ほんとにすみませんでした。今日は……いや、この三ヶ月、本当に楽しかったです。ありがとうございました。また……どこかでお会い出来たら……」
そこまで言ったけど、彼はそれ以上何も言わず……、いや、何も言えず、項垂れて、「サヨナラ」と言って式場を後にした。
その背中はあまりに頼りなくて、俺より背が高くてがたいもいいのに、すごく小さく見えて、「先生」「先生」と従業員たちに慕われて囲まれている姿すらも、消えそうだと思った。
「記憶……」
冗談はやめてくれ!
「それは、何の願望を夢に見てるんですか!?」
「ちょちょ、やめてくださいっ! そういう風にだけは弄らないでください!」
「弄ってるわけじゃないですよ! どういう……っ、なに、俺に可愛いって言って欲しいんですか!?」
「やめて! 恥ずかしいから、そんな大きな声で言わないで、お願い!」
華頂さんは真っ赤になりながら俺に手を擦り合わせて、「俺も分かんないの。恥ずかしいの。でもだからこそ!」と言って俺のスーツに縋りついた。
「真相を知りたいんですっ! 何か俺の、トラウマとか、記憶の手掛かりになるかもしれないから! 貴方が何かを持っているような気がするんです!」
「俺ぇ!? 俺、絶対無関係ですって!」
「それならそれでいいんです! だから、おっさんの余生に付き合うと思って、たまにちょっとだけ会ってやってくれませんか!?」
「なんっだ、それ!」
俺は縋りつく華頂さんの手から慌てて逃げた。けど、離れた彼の手を初めてしっかりと見て、ぎょっとした。
「え……、華頂さん……それ」
左手薬指の付け根。
俺と、まったく同じ位置に、ほくろがあったのだ。
お互いの手を並べ、位置も大きさもほぼ変わらないそのほくろに、二人とも言葉を失った。
「……なんで俺と同じ位置にほくろ付け足してんですか。……気持ち悪いですよ、華頂さん」
「ちょ待って! これ、俺がマジックで書いたとでも思ってるの!? やだ! めっちゃストーカーだと思われてるじゃん!」
「ストーカーでしょ!?」
「違う、違う! これ、学生の時に突然出来たほくろ! 不可抗力!」
「そうやって嘘つかない!」
「嘘じゃないって~!」
十二歳も年下の俺に押され気味のおじさんは、ひーんと嘘泣きして、その後、諦めたように項垂れた。
「まぁ……でもそうですよね。気味悪いですよね。ごめんなさい……諦めます」
彼は自分の手の平を見つめ、「もう少しで思い出せそうだったんだけど」と呟き、俺に静かに背を向けた。
「ほんとにすみませんでした。今日は……いや、この三ヶ月、本当に楽しかったです。ありがとうございました。また……どこかでお会い出来たら……」
そこまで言ったけど、彼はそれ以上何も言わず……、いや、何も言えず、項垂れて、「サヨナラ」と言って式場を後にした。
その背中はあまりに頼りなくて、俺より背が高くてがたいもいいのに、すごく小さく見えて、「先生」「先生」と従業員たちに慕われて囲まれている姿すらも、消えそうだと思った。
「記憶……」
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