フラワーコード ~過去から未来へ。キミと僕を繋ぐのは約束のフラワーコード~

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第三章:目印

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「じゃ、撤収作業始めるよ!」

 赤穂先輩の掛け声で、俺達は再び式場の中へと戻った。受付、チャペル、披露宴会場。各控室。すべてのスタッフが明日の挙式の為のリセット作業に追われる。もちろん、華頂風月の皆さんも慣れた様子で撤収作業をしていく。華頂さんとのんびり会話している時間など全くない。
 それでも、撤収作業がほぼ終わり、明日の準備にスタッフたちが取り掛かり始めた頃、華頂さん達一行はトランポカーに荷物を積み込みながら、今日使用した花を従業員たちにお裾分けし始めてくれた。
 先輩達は我先にと花を貰いに走る。確かにあれは価値のある花だと思う。俺は今日使用したリネンを大量に抱え、クリーニングに出すための籠へと運ぶ。明日使うテーブルクロスは、今日とは打って変わってシックなワインレッドのものを使用する。ホールスタッフのチーフに明日のクロスの指示を出していると、ふと背後で何かが動いた気がして振り返った。

 すると、そこには俺の肩から垂れ引き摺っていたリネンを掴んで持ち上げてくれている華頂さんが立っていた。

「あ、お疲れ様です! ごめんなさい。引き摺ってましたか」

 彼は笑顔でリネンを俺の腕の中に収めてくれると、「そんな大量に持たなくても」と笑った。

「女性スタッフが多いんでね。力仕事は男がしないダメなんですよ」

 笑いながら俺はバック通路に入って、使用済みのリネン籠にそれを押し込む。

「華頂さんはもう撤収完了ですか? 今日はありがとうございます。お疲れ様でした!」

 俺は撤収を開始してから初めて立ち止まり、華頂さんへ深々頭を下げた。

「とてもいい式でした」

 きっとどこかから式を見ていたのだろう。華頂さんは優しい笑顔でそう言ってくれて、俺は自然と笑顔が零れた。

「ありがとうございます。今日の式は、間違いなく華頂さんの演出あってのものでした。ご尽力いただき本当にありがとうございます。こんな最高の一日を、華頂さんと過ごせたこと誇りに思います。一緒にお仕事出来て楽しかったです。すごく勉強にもなりました! ありがとうございました!」

 本当にそうだと思う。自分の言葉に酷く納得しながら、握手を求めて手を差し出すと、彼は恥ずかしそうに笑いながら俺の手を握り返してくれた。

「俺もです。感動しました。今まで様々な経験をして、色んな仕事、色んな依頼、大きな大会……。本当にたくさん花に関する仕事をこなしてきたつもりですけど、今日ほど “お金で買えない価値ある一日” だと思ったことはないです。この仕事をさせて貰えて良かったです。貴方と一緒に仕事が出来て、本当に良かったです」

 そんな風に言って瞳を潤ませる華頂さんに、いい年したおじさんでも仕事の達成感に感動して泣くことがあるのかと素直に驚いた。経験値が高いからと言って、達成感が薄れるなんてことは、もしかしてないのかもしれない。
 華頂さんの潤んだ瞳は、俺にそう思わせてくれた。

 握り合う手。
 俺はそれに手を添え、本当にいい仕事相手だったと思った。

「私もです。またいつか一緒にお仕事でき……っ」
「あの!」

 しかし俺の言葉の最中。遮るように声を上げた華頂さんは、俺の手を握りしめ、もう片方の手で更にしっかりと握り込んで来た。そして──。

「“またいつか” しか……っ、無理ですか!?」
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