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第三章:目印
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「あ……っ、お疲れ様です」
「お疲れ様です! 今日はありがとうございます!」
彼のところまで駆け寄って頭を下げると、華頂さんは恐縮したように手も頭も振った。
「とんでもない! 素晴らしい式場で、俺の方がお礼を言いたいくらいです」
「何をまたまた! 今日の主役は、新郎新婦の他に、華頂さんの花だと言っていいくらいの仕上がりでしたよ! 感動しました、俺!」
「いや、やめてください! 新郎新婦が引き立たないと意味がないんですから」
「それは言うまでもなく完璧ですよ! 今からお二人を華頂さんの花畑の中にエスコート出来るのかと思うと、俺も誇らしいです!」
事実だった。嘘でもおべんちゃらでもない。心の底からそう思って言ったのだが、彼は「いや、やめてください」と柄にもなく恐縮しっぱなしだった。
「どうしたんですか? いつもの軽口がまだ出て来てないですよ?」
そう言って、揶揄うように華頂さんに言うと、彼は恥ずかしそうに口元を押さえて照れ笑いを浮かべた。
「いやぁ、いつもと土田さんの雰囲気が違うので……、なんか俺も緊張しちゃって」
雰囲気?
言われて、俺は自分の髪を触った。
「あぁ、髪を後ろに流しているからですかね? こんなことで緊張しないでくださいよ。可愛い人だな」
俺はそう言って笑い飛ばし、「じゃ、俺ちょっとチャペルの方見てきます」と華頂さんと別れた。
別れたんだけど、チャペルに向かう最中、俺は今しがたの自分の発言に、急激な羞恥と疑問を抱いた。
俺、なんて言った? 「可愛い人だな」って言ったか? 十二歳も年の離れたおじさん相手に、「可愛い人だな」と言ってしまったのか?
その事実に顔面が発火する。
あり得ないだろ、何を言ってるんだ俺は!
廊下の角を曲がる時、俺は後ろを振り返り、華頂さんの姿を見た。
そこには、廊下の壁に凭れながらしゃがみ込み、顔面を両腕で隠している彼の姿が見えて、「なんてことを言ってしまったんだ!」とやっぱりものすごく後悔した。
後で必ず謝ろう。年上の男性に言うべきことではなかった。可愛いなんて死んでも使っちゃいけない言葉だろう。
なんであんなことを言ってしまったのか分からない。でも口を突いて出た。「可愛い」と素直に思ってしまった。それは……嘘じゃない。
「お疲れ様です! 今日はありがとうございます!」
彼のところまで駆け寄って頭を下げると、華頂さんは恐縮したように手も頭も振った。
「とんでもない! 素晴らしい式場で、俺の方がお礼を言いたいくらいです」
「何をまたまた! 今日の主役は、新郎新婦の他に、華頂さんの花だと言っていいくらいの仕上がりでしたよ! 感動しました、俺!」
「いや、やめてください! 新郎新婦が引き立たないと意味がないんですから」
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事実だった。嘘でもおべんちゃらでもない。心の底からそう思って言ったのだが、彼は「いや、やめてください」と柄にもなく恐縮しっぱなしだった。
「どうしたんですか? いつもの軽口がまだ出て来てないですよ?」
そう言って、揶揄うように華頂さんに言うと、彼は恥ずかしそうに口元を押さえて照れ笑いを浮かべた。
「いやぁ、いつもと土田さんの雰囲気が違うので……、なんか俺も緊張しちゃって」
雰囲気?
言われて、俺は自分の髪を触った。
「あぁ、髪を後ろに流しているからですかね? こんなことで緊張しないでくださいよ。可愛い人だな」
俺はそう言って笑い飛ばし、「じゃ、俺ちょっとチャペルの方見てきます」と華頂さんと別れた。
別れたんだけど、チャペルに向かう最中、俺は今しがたの自分の発言に、急激な羞恥と疑問を抱いた。
俺、なんて言った? 「可愛い人だな」って言ったか? 十二歳も年の離れたおじさん相手に、「可愛い人だな」と言ってしまったのか?
その事実に顔面が発火する。
あり得ないだろ、何を言ってるんだ俺は!
廊下の角を曲がる時、俺は後ろを振り返り、華頂さんの姿を見た。
そこには、廊下の壁に凭れながらしゃがみ込み、顔面を両腕で隠している彼の姿が見えて、「なんてことを言ってしまったんだ!」とやっぱりものすごく後悔した。
後で必ず謝ろう。年上の男性に言うべきことではなかった。可愛いなんて死んでも使っちゃいけない言葉だろう。
なんであんなことを言ってしまったのか分からない。でも口を突いて出た。「可愛い」と素直に思ってしまった。それは……嘘じゃない。
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