フラワーコード ~過去から未来へ。キミと僕を繋ぐのは約束のフラワーコード~

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第二章:約束

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* * * * *

「また花冠を作るの?」
「うん! ちょっと待っていてね! 作り終わったら、いつもの川でお魚を捕まえましょう! 今日は何匹捕まえられるかなぁ?」

 可愛いその人は、いつも僕を家から連れ出して、日が暮れるまであちこち連れまわす。笑顔の似合う女性で、一人でぺちゃくちゃとお喋りするのだ。

「ねぇ、聞いて。おばあちゃまが昨日作ってくれたスープがあまりに水臭くってね、私、途中で塩を足そうかと思ったんだけど、おばあちゃまったら、「なんてまずいトマトだい!」って、ぜ~んぶ食材のせいにしちゃうのよ。おかしいでしょ」

 コロコロと笑い、たくさん喋る。手慣れた様子で作り終えるシロツメクサの花冠を笑顔で僕に見せ、「はい、どうぞ」と、頼んでもいないのに頭に載せる。

「ねぇ、リリー。これは僕じゃなくて、キミの方が似合うと思うんだ」
「やだ、エドったら。私がそれを頭に乗せていては、魚を捕まえられないじゃない! 今日はたくさん捕まえてみせるわ! 昨日はたった二匹しか捕れなかったから」
「手で捕まえようって方が間違ってると思うなぁ」
「まぁ、手で捕まえるから面白いんじゃない!」

 歩けない僕にはその楽しみ方すらわからない。
 だけど、彼女は捕まえた魚をいつも僕に手渡して触らせてくれる。そして、「一緒に捕まえたから」と魚はいつも折半だ。
 それを持って帰ると、母さんが喜ぶ。「今日は魚を焼いて食べましょう」とその日のうちに調理してくれるのだ。どれだけ少なくても、どれだけ小さくても、母はいつもそれを喜んだ。「捕まえて来てくれてありがとう」と、僕にお礼を言ってくれる。
 リリーが捕まえたんだと説明しても、「あら、一緒に捕まえたんでしょ。そう聞いているわ」と笑う。

 なんだかな、とは思うんだけど、それでも、リリーが捕まえた魚をバケツに入れるのが僕の仕事と決まっているのだ。一緒に捕まえた、とリリーが言うのなら、きっとそうなのだろう。
 夕暮れ、僕は魚の入ったバケツを膝に乗せ、車いすを押してくれる彼女と歌を歌いながら帰路につく。幼馴染の可愛い女の子は、毎日毎日僕を外に連れ出して、笑って、おしゃべりして、綺麗な声で歌を歌う。走って踊って、花を結う。川でずぶぬれになって、木にも登って、僕に出来ないことを全部やってのけてくれる。体験した気分にさせてくれる。美味しい魚も、美味しい木の実も、全部彼女が僕に与えてくれたものだ。
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