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第二章:約束
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「みっちょん、ネイル可愛い! いつもと雰囲気違うじゃん!」
俺の隣の席でいつもの先輩二人が新しいネイルに盛り上がっている。
この二人はいつだってアゲアゲのイケイケお姉さんたちだ。
「土田も見てやって! ほら! めちゃ可愛い!」
四月だか何だか知らないけど、イースターだのうさぎだの、俺にはすこぶるどうでもいい。
「へぇ、メルヘンですね。うさぎって卵から生まれるんすか?」
「生まれるかっ!」
女子二人にツッコまれながら、そんな雰囲気を漂わせている爪に問題があるだろ、とツッコみたい気持ちを堪える。
春は本当に忙しいんだ。毎週のように挙式が執り行われ、二本立てなんてこともよくある。平日挙式だってあるくらいなんだからな。
それでも毎月と同じようにイベントも行わなければいけないし、多忙を極める。ネイルでも可愛くして気分をぶち上げなければやってられないのだろう。
「……俺も気分ぶち上げアイテムが欲しいな」
思わず出たぼやきに、赤穂先輩が即答する。
「ネイルしちゃいなさいよ」
「冗談やめてください」
間髪入れずに拒否って俺は作成中の資料に向き直る。
「俺がネイルしてたら、契約者の人が不安に思うでしょうが」
「理由そこ~!?」
女子二人に驚かれながら、俺は事務所の開け放した窓から入ってくる温かい風に、大きく深呼吸する。
原因不明の熱を出してから、早くも一ヶ月が経過している。言わずもがな華頂さんとの関係はすでに途絶えている状態だ。各々が動いている今、連絡を取り合う必要がない。仕事だけの関係だし、山本・火口夫妻の挙式が終わればそこで終了。次、誰かが華頂さんに仕事を別注しない限り縁が復活することもない。挙式は六月。準備も抜かりなく進んでいる。華頂さんの事だから、きっと花の準備だってきっちり進んでいることだろう。そこの心配はまるでない。
そう思っていたところ──。
「こんにちは」
事務所の窓から突然声を掛けられ、全員がぱっと窓の外を見た。
するとそこには、にこやかな髭姿の華頂さんが、お茶目に手を振りながら立っていた。
「か、華頂さん!?」
俺も、先輩達も驚いて席を立ちあがる。
「どどっ、どうされましたか? 今日、アポありましたか?」
俺が忘れていたのだろうか?
焦って自分の携帯電話を探す。だけど、華頂さんはぶんぶん首を振った。
「いや、無いです無いです。近くで仕事をしていたので、ついでに寄ってみたんです」
そんなことある!?
驚く俺に、華頂さんは、手に持っているビニール袋を少しだけ掲げ、「ちょっと出て来れますか?」と俺の目を見て言った。
「お、俺ですか?」
「はい、土田さん」
両脇に立つ先輩達ではなく、俺に会いに来たということか。でもまぁ、担当は俺だし……?
「ちょっと待ってくださいね! 今行きます」
そう言って窓際から離れると、赫田部長が俺に声を掛けた。
「ついでに昼休憩も取って来い、土田」
「あ……、わ、分かりました」
俺は一緒に財布と携帯をポケットに突っ込むと、そそくさと外へ出た。
俺の隣の席でいつもの先輩二人が新しいネイルに盛り上がっている。
この二人はいつだってアゲアゲのイケイケお姉さんたちだ。
「土田も見てやって! ほら! めちゃ可愛い!」
四月だか何だか知らないけど、イースターだのうさぎだの、俺にはすこぶるどうでもいい。
「へぇ、メルヘンですね。うさぎって卵から生まれるんすか?」
「生まれるかっ!」
女子二人にツッコまれながら、そんな雰囲気を漂わせている爪に問題があるだろ、とツッコみたい気持ちを堪える。
春は本当に忙しいんだ。毎週のように挙式が執り行われ、二本立てなんてこともよくある。平日挙式だってあるくらいなんだからな。
それでも毎月と同じようにイベントも行わなければいけないし、多忙を極める。ネイルでも可愛くして気分をぶち上げなければやってられないのだろう。
「……俺も気分ぶち上げアイテムが欲しいな」
思わず出たぼやきに、赤穂先輩が即答する。
「ネイルしちゃいなさいよ」
「冗談やめてください」
間髪入れずに拒否って俺は作成中の資料に向き直る。
「俺がネイルしてたら、契約者の人が不安に思うでしょうが」
「理由そこ~!?」
女子二人に驚かれながら、俺は事務所の開け放した窓から入ってくる温かい風に、大きく深呼吸する。
原因不明の熱を出してから、早くも一ヶ月が経過している。言わずもがな華頂さんとの関係はすでに途絶えている状態だ。各々が動いている今、連絡を取り合う必要がない。仕事だけの関係だし、山本・火口夫妻の挙式が終わればそこで終了。次、誰かが華頂さんに仕事を別注しない限り縁が復活することもない。挙式は六月。準備も抜かりなく進んでいる。華頂さんの事だから、きっと花の準備だってきっちり進んでいることだろう。そこの心配はまるでない。
そう思っていたところ──。
「こんにちは」
事務所の窓から突然声を掛けられ、全員がぱっと窓の外を見た。
するとそこには、にこやかな髭姿の華頂さんが、お茶目に手を振りながら立っていた。
「か、華頂さん!?」
俺も、先輩達も驚いて席を立ちあがる。
「どどっ、どうされましたか? 今日、アポありましたか?」
俺が忘れていたのだろうか?
焦って自分の携帯電話を探す。だけど、華頂さんはぶんぶん首を振った。
「いや、無いです無いです。近くで仕事をしていたので、ついでに寄ってみたんです」
そんなことある!?
驚く俺に、華頂さんは、手に持っているビニール袋を少しだけ掲げ、「ちょっと出て来れますか?」と俺の目を見て言った。
「お、俺ですか?」
「はい、土田さん」
両脇に立つ先輩達ではなく、俺に会いに来たということか。でもまぁ、担当は俺だし……?
「ちょっと待ってくださいね! 今行きます」
そう言って窓際から離れると、赫田部長が俺に声を掛けた。
「ついでに昼休憩も取って来い、土田」
「あ……、わ、分かりました」
俺は一緒に財布と携帯をポケットに突っ込むと、そそくさと外へ出た。
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