フラワーコード ~過去から未来へ。キミと僕を繋ぐのは約束のフラワーコード~

2wei

文字の大きさ
上 下
13 / 61
第一章:記憶

11

しおりを挟む
「彬くんが戻って来るまでに、ちょっとお手洗いお借ります。いいですか?」

 小野崎さんが、華頂さんと俺に確認してくるから、俺達は同時に頷いた。すると他の女性二人も「私も」と言って、三人は荷物を入り口のベンチにまとめて置くと楽しそうにお喋りしながらトイレへ向かった。

「まさか、こんなに降るとは思ってなかったなぁ」

 華頂さんは開け放たれている式場のドアから空を見上げ、そのすぐあとに足元へ視線を落とし、そっと扉を閉めた。

「床が濡れてしまいますね。閉めておきましょう」
「あ、お気遣いありがとうございます」

 そういう細かいところにちゃんと気が付く人なんだな。

 俺はそれに少し驚き、大きな好感を抱いた。

 とても小さいことなんだけど、“気が付く”というのは大きなことで、こういう仕事をしているとそういう些細なことが大きな失敗に繋がったりもするんだ。だから、華頂さんの「気が付く」とか「気遣う」という行為に、必要以上の安心感を抱いた。「あぁ、この人とならいい式が作れる」と。

 ざーっと外から聞こえる強い雨音。
 いつの間に雨が降り出したのか、いつの間にこれだけの雨足の強さになったのか。

 けど、その音を聞いて、何故か心にポツンと浮かんだ言葉。

「また降りましたね」

 俺の心の声を、まるで代弁するような声が真隣から聞こえ、俺は驚いて華頂さんを見上げた。
 すると、彼も驚いたように俺を振り返り、一瞬可笑しな沈黙が俺たちの間に下りた。

「……あ、いや……、あれ? なんでそんなこと言ったんだろう。いや、あの……違うんです。俺、結構大事な時に雨に降られることが多くて」
「えっ、俺……っ、僕もです!」

 ビックリして言葉を返すと、華頂さんも目を丸め、その後で楽しそうに笑った。

「土田さんも雨男なんだ! 二人揃ったから雨が降ってしまったんですかね?」
「あはは! かもしれないですね」

 そう言って頷くと、華頂さんは笑顔のまま、もう一度見えなくなった雨を見つめるようにドアへ視線を送った。

「今日は降るとは思わなかったな。でもだったら……、俺にとって今回の仕事は何か意味があるのかもしれない」

 そう言った声はえらく真剣で、「大事にこなそう」と言った彼の声が、耳にこびり付いた。






 雨が降ることを「特別な事」として捉えている彼の考えに、少し驚いたというのもある。でも、「大事な時に雨が降る」のは俺も同じだった。それを特別な事として捉えてはいなかったけど、ココに面接に来た時も雨が降っていた。初めて自分一人で担当した新郎新婦さんの式当日も、雨だった。大学の受験日も雨が降っていたし、就職のための引っ越した日も雨だった。ことある毎に雨に降られて……、でも、なんでだろうか。あまり嫌いじゃないんだ、雨って。

「僕も、大事に取り組みます。成功させましょう、必ず」

 頭半個分。華頂さんは俺を見下ろし、優しく微笑んだ。

「えぇ。忘れられない日に、我々で特別な花を添えましょう」

 上手く掛けたなと思いながら、俺はしっかりと頷いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

両性具有な祝福者と魔王の息子~壊れた二人~

琴葉悠
BL
俺の名前はニュクス。 少しばかり人と違う、男と女のを持っている。 両性具有って昔の言葉があるがそれだ。 そして今は「魔の子」と呼ばれている。 おかげで色んな連中に追われていたんだが、最近追われず、隠れ家のような住居で家族と暮らしていたんだが――…… 俺の元に厄介な事が舞い込んできた「魔王の息子の花嫁」になれってな!! ふざけんじゃねぇよ!! 俺は男でも女でもねぇし、恋愛対象どっちでもねーんだよ!! え? じゃなきゃ自分達が殺される? 知るか!! とっとと滅べ!! そう対処していたのに――やってきたんだ、魔王が。 これは俺達が壊れていく過程の物語――

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

処理中です...