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第一章:記憶
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「彬くんが戻って来るまでに、ちょっとお手洗いお借ります。いいですか?」
小野崎さんが、華頂さんと俺に確認してくるから、俺達は同時に頷いた。すると他の女性二人も「私も」と言って、三人は荷物を入り口のベンチにまとめて置くと楽しそうにお喋りしながらトイレへ向かった。
「まさか、こんなに降るとは思ってなかったなぁ」
華頂さんは開け放たれている式場のドアから空を見上げ、そのすぐあとに足元へ視線を落とし、そっと扉を閉めた。
「床が濡れてしまいますね。閉めておきましょう」
「あ、お気遣いありがとうございます」
そういう細かいところにちゃんと気が付く人なんだな。
俺はそれに少し驚き、大きな好感を抱いた。
とても小さいことなんだけど、“気が付く”というのは大きなことで、こういう仕事をしているとそういう些細なことが大きな失敗に繋がったりもするんだ。だから、華頂さんの「気が付く」とか「気遣う」という行為に、必要以上の安心感を抱いた。「あぁ、この人とならいい式が作れる」と。
ざーっと外から聞こえる強い雨音。
いつの間に雨が降り出したのか、いつの間にこれだけの雨足の強さになったのか。
けど、その音を聞いて、何故か心にポツンと浮かんだ言葉。
「また降りましたね」
俺の心の声を、まるで代弁するような声が真隣から聞こえ、俺は驚いて華頂さんを見上げた。
すると、彼も驚いたように俺を振り返り、一瞬可笑しな沈黙が俺たちの間に下りた。
「……あ、いや……、あれ? なんでそんなこと言ったんだろう。いや、あの……違うんです。俺、結構大事な時に雨に降られることが多くて」
「えっ、俺……っ、僕もです!」
ビックリして言葉を返すと、華頂さんも目を丸め、その後で楽しそうに笑った。
「土田さんも雨男なんだ! 二人揃ったから雨が降ってしまったんですかね?」
「あはは! かもしれないですね」
そう言って頷くと、華頂さんは笑顔のまま、もう一度見えなくなった雨を見つめるようにドアへ視線を送った。
「今日は降るとは思わなかったな。でもだったら……、俺にとって今回の仕事は何か意味があるのかもしれない」
そう言った声はえらく真剣で、「大事にこなそう」と言った彼の声が、耳にこびり付いた。
雨が降ることを「特別な事」として捉えている彼の考えに、少し驚いたというのもある。でも、「大事な時に雨が降る」のは俺も同じだった。それを特別な事として捉えてはいなかったけど、ココに面接に来た時も雨が降っていた。初めて自分一人で担当した新郎新婦さんの式当日も、雨だった。大学の受験日も雨が降っていたし、就職のための引っ越した日も雨だった。ことある毎に雨に降られて……、でも、なんでだろうか。あまり嫌いじゃないんだ、雨って。
「僕も、大事に取り組みます。成功させましょう、必ず」
頭半個分。華頂さんは俺を見下ろし、優しく微笑んだ。
「えぇ。忘れられない日に、我々で特別な花を添えましょう」
上手く掛けたなと思いながら、俺はしっかりと頷いた。
小野崎さんが、華頂さんと俺に確認してくるから、俺達は同時に頷いた。すると他の女性二人も「私も」と言って、三人は荷物を入り口のベンチにまとめて置くと楽しそうにお喋りしながらトイレへ向かった。
「まさか、こんなに降るとは思ってなかったなぁ」
華頂さんは開け放たれている式場のドアから空を見上げ、そのすぐあとに足元へ視線を落とし、そっと扉を閉めた。
「床が濡れてしまいますね。閉めておきましょう」
「あ、お気遣いありがとうございます」
そういう細かいところにちゃんと気が付く人なんだな。
俺はそれに少し驚き、大きな好感を抱いた。
とても小さいことなんだけど、“気が付く”というのは大きなことで、こういう仕事をしているとそういう些細なことが大きな失敗に繋がったりもするんだ。だから、華頂さんの「気が付く」とか「気遣う」という行為に、必要以上の安心感を抱いた。「あぁ、この人とならいい式が作れる」と。
ざーっと外から聞こえる強い雨音。
いつの間に雨が降り出したのか、いつの間にこれだけの雨足の強さになったのか。
けど、その音を聞いて、何故か心にポツンと浮かんだ言葉。
「また降りましたね」
俺の心の声を、まるで代弁するような声が真隣から聞こえ、俺は驚いて華頂さんを見上げた。
すると、彼も驚いたように俺を振り返り、一瞬可笑しな沈黙が俺たちの間に下りた。
「……あ、いや……、あれ? なんでそんなこと言ったんだろう。いや、あの……違うんです。俺、結構大事な時に雨に降られることが多くて」
「えっ、俺……っ、僕もです!」
ビックリして言葉を返すと、華頂さんも目を丸め、その後で楽しそうに笑った。
「土田さんも雨男なんだ! 二人揃ったから雨が降ってしまったんですかね?」
「あはは! かもしれないですね」
そう言って頷くと、華頂さんは笑顔のまま、もう一度見えなくなった雨を見つめるようにドアへ視線を送った。
「今日は降るとは思わなかったな。でもだったら……、俺にとって今回の仕事は何か意味があるのかもしれない」
そう言った声はえらく真剣で、「大事にこなそう」と言った彼の声が、耳にこびり付いた。
雨が降ることを「特別な事」として捉えている彼の考えに、少し驚いたというのもある。でも、「大事な時に雨が降る」のは俺も同じだった。それを特別な事として捉えてはいなかったけど、ココに面接に来た時も雨が降っていた。初めて自分一人で担当した新郎新婦さんの式当日も、雨だった。大学の受験日も雨が降っていたし、就職のための引っ越した日も雨だった。ことある毎に雨に降られて……、でも、なんでだろうか。あまり嫌いじゃないんだ、雨って。
「僕も、大事に取り組みます。成功させましょう、必ず」
頭半個分。華頂さんは俺を見下ろし、優しく微笑んだ。
「えぇ。忘れられない日に、我々で特別な花を添えましょう」
上手く掛けたなと思いながら、俺はしっかりと頷いた。
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