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第一章:記憶
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そんな俺に、彼はクスクス可笑しそうに笑うと、「お手洗い、ありがとうございます」と先輩達に頭を下げた。二人は「いえいえ~」と営業スマイルを振りまいてまだこの場に居座ろうとするから、ぐるんっと彼女たちを振り返った。
「先輩、もう戻ってください。大丈夫ですので」
「あらやだ、土田。怒ったら可愛いお顔が台無しよ?」
「台無しになるほど可愛くないんで大丈夫です。さぁ、戻って! ハウス!」
二人は「ハウスだって~」と楽しそうに笑いながら事務所へと戻っていく。あれで一応、めちゃくちゃ仕事ができる二人だから、世の中可笑しなもんだと思う。
「明るくて面白い先輩方ですね」
「姦しいだけですよ。真田さんも女性ばかりの職場でしょうから、分かりますでしょ?」
「はは! まぁ、僕の場合は、先生が全部相手をしてくれるので、そこまで苦労はしていませんよ」
そう言って披露宴会場でコーヒーを飲んで休憩している四人に目配せする。
「華頂さんは確かに、女性の扱いがお上手そうですね」
モテそう、という言葉を飲み込んでそう言った。すると真田さんは「分かりますか?」と楽しそうに笑い出す。
「えぇ、なんとなく。そんな気がします」
「はは。でもあれで一応バツが一つ付いてるみたいなんですけどね」
「え? そうなんですか?」
驚いて真田さんを見上げると、彼は真っ直ぐ華頂さんを見つめながら言った。
「あの人は人から愛されるけど、人を愛さない人なんですよ」
なんて言葉だ。そんなことあるか? そんな風には……思えないのだけど。
女性スタッフ達とコーヒーを飲みながら楽しそうにお喋りしている華頂さんは、俺の目にはとても「愛がない」ようには見えなかった。もっと親密になればそれを実感できるのだろうか。
とはいえ、それを知ろうとは思えない。実感できる機会が訪れるとも思えない。
ふ~ん、と聞き流すのが最良だろう。
無言でやり過ごすことを決めた俺に、真田さんは言葉を続けた。
「だから、結婚式をここで挙げようなんて、まず無いですよ」
女性スタッフ達だけじゃなく、あの発言は男性の真田さんまでをも驚かせた言葉だったようだ。
だけど、彼はそれを言った後で慌てて首を振る。
「いや、こちらの式場がどうとか、そういうことではなく!」
「ふふ、大丈夫ですよ。分かっています」
結婚なんてワードが彼から出てきたことがありえないのだろう。
そこまで会話を進めたが、華頂さんが俺に気付いて頭を下げてくれたから、真田さんと一緒に披露宴会場へ入ることにした。
「先輩、もう戻ってください。大丈夫ですので」
「あらやだ、土田。怒ったら可愛いお顔が台無しよ?」
「台無しになるほど可愛くないんで大丈夫です。さぁ、戻って! ハウス!」
二人は「ハウスだって~」と楽しそうに笑いながら事務所へと戻っていく。あれで一応、めちゃくちゃ仕事ができる二人だから、世の中可笑しなもんだと思う。
「明るくて面白い先輩方ですね」
「姦しいだけですよ。真田さんも女性ばかりの職場でしょうから、分かりますでしょ?」
「はは! まぁ、僕の場合は、先生が全部相手をしてくれるので、そこまで苦労はしていませんよ」
そう言って披露宴会場でコーヒーを飲んで休憩している四人に目配せする。
「華頂さんは確かに、女性の扱いがお上手そうですね」
モテそう、という言葉を飲み込んでそう言った。すると真田さんは「分かりますか?」と楽しそうに笑い出す。
「えぇ、なんとなく。そんな気がします」
「はは。でもあれで一応バツが一つ付いてるみたいなんですけどね」
「え? そうなんですか?」
驚いて真田さんを見上げると、彼は真っ直ぐ華頂さんを見つめながら言った。
「あの人は人から愛されるけど、人を愛さない人なんですよ」
なんて言葉だ。そんなことあるか? そんな風には……思えないのだけど。
女性スタッフ達とコーヒーを飲みながら楽しそうにお喋りしている華頂さんは、俺の目にはとても「愛がない」ようには見えなかった。もっと親密になればそれを実感できるのだろうか。
とはいえ、それを知ろうとは思えない。実感できる機会が訪れるとも思えない。
ふ~ん、と聞き流すのが最良だろう。
無言でやり過ごすことを決めた俺に、真田さんは言葉を続けた。
「だから、結婚式をここで挙げようなんて、まず無いですよ」
女性スタッフ達だけじゃなく、あの発言は男性の真田さんまでをも驚かせた言葉だったようだ。
だけど、彼はそれを言った後で慌てて首を振る。
「いや、こちらの式場がどうとか、そういうことではなく!」
「ふふ、大丈夫ですよ。分かっています」
結婚なんてワードが彼から出てきたことがありえないのだろう。
そこまで会話を進めたが、華頂さんが俺に気付いて頭を下げてくれたから、真田さんと一緒に披露宴会場へ入ることにした。
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