フラワーコード ~過去から未来へ。キミと僕を繋ぐのは約束のフラワーコード~

2wei

文字の大きさ
上 下
8 / 61
第一章:記憶

しおりを挟む
「土田さん」

 突然名前を呼ばれ、ぱっと頭を上げた。

「チャペル終わりました。でも次に行く前に少し外を拝見させて貰ってもよろしいですか?」

 俺より頭半分背の高い華頂さんを見上げ、俺は営業スマイルで頷いた。

「もちろんです。外と言うのは、ウエディングベルのあるガーデンのことですよね。どうぞ、ご案内いたします」

 チャペルを出て、すぐ隣の階段を上がる。
 ここにももちろん花を特別に飾り付けることが出来るが、ここの装飾はうちの式場でお願いしたいと火口さん達より、言われている。
 ウエディングベルガーデンは、ガーデンというだけあって、季節の花を花壇に直植えして育てている。今は三月。アザレア、ガーベラ、キンセンカ……、色とりどりの花が綺麗に咲いてくれている。

「綺麗だな。空気もいい。花も綺麗だ」
「先生。ここは依頼されてないんじゃないでしたか?」

 一番若そうな森井さんが心配そうにそう尋ねると、華頂さんはにっこり笑って頷いた。

「うん、頼まれてないよ。だけど、全部をちゃんと知っておかなきゃね。どういうところで特別な晴れの日を過ごされるのか。じゃなきゃ、いい物は出来ないでしょ。山本さんと火口さんのことを一番に考えないとね」

 そう言うと、ウエディングベルの下まで駆け出し、華頂さんは叫んだ。

「いいなぁ! 最高だなぁ! ロケーションも言うことなしだ! みんなもおいでよ! 庭の手入れが完璧だぞ!」

 地上を見下ろし、敷地内の花壇や低木、植木などを皆でお喋りしながら褒めちぎってくれる。俺が手入れしているわけじゃないけど、なんだか少し誇らしく思える。
 でも……。
 ちらりと腕時計を確認する。時間内にすべて終わるだろうか。俺だってそんなに暇ではないのだ。一時間もしないうちに、別のご夫妻との打ち合わせが入っている。そのための資料だってまだプリントアウト出来ていない。最悪、披露宴会場へ案内するだけ案内して、後は放置だな。帰る時に声だけ掛けてもらうようにしようか。

「すみません、土田さん、お待たせしました。とても素晴らしい式場ですね。俺も結婚する時はこちらの式場をお借りしようかな」

 そんなことを言って無邪気に笑うから、後ろに控えている女性たちがぎょっと目を見開く。

「先生! ご結婚されるんですか!?」
「いつの間に彼女を!?」

 おやまぁ。
 思わず目を丸くする俺に、華頂さんはクスクス笑い、満更でもない顔をしながら「うるさいな、ほっといてくれ」と肩を竦めると、俺の両肩を掴んで回れ右させた。

「じゃあ、次の案内を頼むよ、土田さん」

 そう言って、掴んだ肩を離して叩こうとした華頂さんなんだろうけど、触れられた部分が急にカッと強烈な熱を持ったように感じられて、その瞬間、華頂さんも驚いたように俺から手を離した。

 熱は、彼も感じたようだった。

 驚いて二人で顔を見合わせ、俺は肩を、彼は自分の手の平を触ったけど、炎のような熱はもうどちらにも残っていないようだった。

「え……っ、今」
「静電気かな」

 華頂さんは首を傾げてそう呟くと、「びっくりしたね」と笑って俺の背中にそっと手を添えた。

「じゃ、行こう」

 背中に添えられた手は、もう熱くはなかった。
 果たして本当に静電気だったのだろうか。燃えるような熱さだった。電気のような痛みでは……なかったのだけど。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

両性具有な祝福者と魔王の息子~壊れた二人~

琴葉悠
BL
俺の名前はニュクス。 少しばかり人と違う、男と女のを持っている。 両性具有って昔の言葉があるがそれだ。 そして今は「魔の子」と呼ばれている。 おかげで色んな連中に追われていたんだが、最近追われず、隠れ家のような住居で家族と暮らしていたんだが――…… 俺の元に厄介な事が舞い込んできた「魔王の息子の花嫁」になれってな!! ふざけんじゃねぇよ!! 俺は男でも女でもねぇし、恋愛対象どっちでもねーんだよ!! え? じゃなきゃ自分達が殺される? 知るか!! とっとと滅べ!! そう対処していたのに――やってきたんだ、魔王が。 これは俺達が壊れていく過程の物語――

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

処理中です...