二番目の恋人 ～僕の恋はいつだって一番になれない～

おまけ

おまけのお話

　初めて好きになったのは、男だった。
　いや、これが恋かどうかは、その時の彼にはまだ分からなかった。
　だけど、決して恋人同士にはなれず、絶対に愛してもらうことが叶わないのだと分かった瞬間、これが「恋」だと気付いた。

　この子は小さくて、ふわふわの髪が可愛くて、大きくて印象的な瞳は、意志の強そうな “男の子” の目をしていた。

　初めて見たのはレッスンスタジオ。Bランクのレッスン後に行われるAクラスのレッスン。
　その子は、Bクラスだったけど、Aクラスの研修生たちがやってくるのを待っているようだった。

　あんな子、Aクラスに居たかな？というのが、最初の印象。同時に、可愛いな、とも。

　アイドル事務所なだけあってさすがだな、とぼんやり思っていたけど、彼が突然ぴょこんと立ち上がり、人懐っこくてとびきり可愛い笑顔で駆け出すから、なんだと目で追い、すぐに気付いた。

　あぁ、あの子は……永井が好きなのか、と。

　飛びつくように永井にタックルして、何かをおねだりするように彼を見上げて笑う。
　永井もそれに微笑みながら、優しく頭を撫で、少し腰をかがめて耳元で何かを囁く。それにくすぐったそうに笑うその子は、すごくすごく嬉しそうにはにかんで、一瞬何かを我慢したようだけど、やっぱり我慢できないっとばかりに永井にしがみついた。

　そんな可愛いスキンシップに、永井が声を出して笑う。その声だけが西の耳にこびり付き、「あぁ、なんか腹立つ」と思った。

　その子はその後、Aクラスのレッスンが終わるのを待っていたようで、永井とともにスタジオを出て行った。
　だけどそこには、その子が持って帰るのを忘れた飲み残しのコーラが残っていた。西の手は、勝手にコーラへと伸びていた。


＊　＊　＊　＊　＊

　隣で眠る颯太。
　あの頃は黒髪。今は金髪。だけど、見た目の可愛さは何も変わらない。人懐こくて、とびきり可愛い笑顔も、くすむことなく変わっていない。

「最初から好きだった。叶わない恋だと思ってた」

　あの時飲んだコーラの味は、初恋と、失恋の味。

　欲しくて欲しくて、喉から手が出るほど欲しいと思った。あの笑顔を近くで見たいと思った。永井に飛びついて甘えたそれを、そのままそっくり自分にもしてほしいと思った。嬉しそうにはにかんで、自分のレッスンが終わるのを待っていて欲しいとも思った。

　だけどそれは全部、永井だけの特権だった。

「颯太。あの日渡せなかったから、起きたら渡すよ」

　雷哉と別れたのは、姉のパソコンが壊れたからじゃない。
　颯太に似合いそうな服を見つけたから。どうしても買ってやりたかったから。ありがとうと可愛いく笑ってくれる顔を、今すぐ見たいと思ったからだ。

「俺はいつだってお前のことしか考えてねぇよ」

　それは情けないくらいに、四六時中。

　だから──。

「起きたら、また笑ってくれ。……俺だけに」




＜完＞