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第二十一章:ヒカリ
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「殴って気が済んだか? 殴れば颯太が手に入るか? 俺が颯太を一番にすると思うか? それとも颯太を諦めるとでも思ったのか!?」
「西ぃぃ!!」
腹の底から響くような声で唸った菊池先輩は再び西くんの服を掴みあげた。
「やめてください!」
今度こそ間に入って止めた。だけど「どけ!」と思い切り西くんに突き飛ばされて、僕は尻餅をついた。
「お前なんかに渡すわけねぇだろうが! 半年そこそこの男が、我が物顔で颯太に愛なんか囁いてんじゃねぇよ!」
「時間なんて関係ないだろ! さぞ昔から自分のもんだと主張したいようだが、だったら偉そうに二番目だのなんだの言うなよ! 本気で好きなら一番にしてやれよ!」
「なんでお前にそんなこと言われなきゃなんねんだよ! 俺の勝手だし、俺らの勝手だろうが!」
「三木が何度泣いてると思ってるんだ!」
「泣くなら泣けばいい! 俺は別にそれが悪いことだなんて一つも思ってねぇよ!」
「はぁぁぁっ!?」
わぁ……ダメだ。何か分かんないけど西くんが劣勢すぎる!
色々気になる発言が多すぎて僕も西くんの考えてることがさっぱり分からないけど、このままじゃ論破されちゃう!
「にににっ、西くん! 落ち着いて! 売り言葉に買い言葉が過ぎるよ! もっと冷静になって!」
「俺は冷静だ!」
絶対に嘘じゃん!
「泣かせてんだよ! 俺はわざと颯太を二番目にしてるし、わざと颯太を泣かせてんだよ!」
……え?
そればっかりは、僕もびっくりした。
菊池先輩もいつにも増して深く眉間に皺を掘りまくる。
わざと泣かせてる? ……何のために?
あまりの衝撃に、言葉もなかった。
何を考えてるのか分からない人だってずっと思ってた。そこがミステリアスで面白いとも思ってた。けど、今ほどこの意味不明の発言に怒りと悲しみを感じたことはない。
どういうことだよ。
弄ぶにも限度があるんじゃない?
「なにそれ? どういう……意味?」
愕然としてしまった僕に、はっとしてこちらを見た西くんだったけど、咄嗟に謝ることも言い訳することもなく、ぐっと顔を顰め、視線を菊池先輩へと戻した。
だけど、先輩は僕の顔を見つめながら、掴んでいる西くんの胸倉をぐんっと一度だけ揺らした。
「謝れ」
でも西くんは何も言わなかった。
その沈黙は耳に痛いくらいで、僕は……西くんに少しも愛されていなかったのかなって、今になって初めて痛感した。
なんてマヌケなんだろう。僕はわざと泣かされていたんだ。だから無視されていたし、だから二番目なんだ。
悔しいとか、悲しいって感情は確かにあるのに、何故か涙は出なかった。
わざと泣かせていると言われたからかもしれない。体が勝手に『泣くもんか』って思ってるのかな。
言葉もない僕に、菊池先輩はやっぱり優しかった。
「謝れって言ってるんだ!!」
そう言って西くんを怒ってくれるから。
だけど、西くんはどこまでいっても西くんだった。
「謝んねぇよ!」
叫んだ菊池先輩に間髪入れずに言い放った西くんは、掴み合っている服を振り解くように菊池先輩を突き飛ばした。
「泣けばいいんだよ! 泣いて泣いて泣いてっ、泣き尽くせばいい!」
最低の男だ。
なんのために? 僕は何のために泣けばいいの? なんでそうまでして西くんのために泣かなきゃいけないんだよ。なんでそんなこと……言われなきゃいけないんだよ……っ。
「西ぃぃ!!」
腹の底から響くような声で唸った菊池先輩は再び西くんの服を掴みあげた。
「やめてください!」
今度こそ間に入って止めた。だけど「どけ!」と思い切り西くんに突き飛ばされて、僕は尻餅をついた。
「お前なんかに渡すわけねぇだろうが! 半年そこそこの男が、我が物顔で颯太に愛なんか囁いてんじゃねぇよ!」
「時間なんて関係ないだろ! さぞ昔から自分のもんだと主張したいようだが、だったら偉そうに二番目だのなんだの言うなよ! 本気で好きなら一番にしてやれよ!」
「なんでお前にそんなこと言われなきゃなんねんだよ! 俺の勝手だし、俺らの勝手だろうが!」
「三木が何度泣いてると思ってるんだ!」
「泣くなら泣けばいい! 俺は別にそれが悪いことだなんて一つも思ってねぇよ!」
「はぁぁぁっ!?」
わぁ……ダメだ。何か分かんないけど西くんが劣勢すぎる!
色々気になる発言が多すぎて僕も西くんの考えてることがさっぱり分からないけど、このままじゃ論破されちゃう!
「にににっ、西くん! 落ち着いて! 売り言葉に買い言葉が過ぎるよ! もっと冷静になって!」
「俺は冷静だ!」
絶対に嘘じゃん!
「泣かせてんだよ! 俺はわざと颯太を二番目にしてるし、わざと颯太を泣かせてんだよ!」
……え?
そればっかりは、僕もびっくりした。
菊池先輩もいつにも増して深く眉間に皺を掘りまくる。
わざと泣かせてる? ……何のために?
あまりの衝撃に、言葉もなかった。
何を考えてるのか分からない人だってずっと思ってた。そこがミステリアスで面白いとも思ってた。けど、今ほどこの意味不明の発言に怒りと悲しみを感じたことはない。
どういうことだよ。
弄ぶにも限度があるんじゃない?
「なにそれ? どういう……意味?」
愕然としてしまった僕に、はっとしてこちらを見た西くんだったけど、咄嗟に謝ることも言い訳することもなく、ぐっと顔を顰め、視線を菊池先輩へと戻した。
だけど、先輩は僕の顔を見つめながら、掴んでいる西くんの胸倉をぐんっと一度だけ揺らした。
「謝れ」
でも西くんは何も言わなかった。
その沈黙は耳に痛いくらいで、僕は……西くんに少しも愛されていなかったのかなって、今になって初めて痛感した。
なんてマヌケなんだろう。僕はわざと泣かされていたんだ。だから無視されていたし、だから二番目なんだ。
悔しいとか、悲しいって感情は確かにあるのに、何故か涙は出なかった。
わざと泣かせていると言われたからかもしれない。体が勝手に『泣くもんか』って思ってるのかな。
言葉もない僕に、菊池先輩はやっぱり優しかった。
「謝れって言ってるんだ!!」
そう言って西くんを怒ってくれるから。
だけど、西くんはどこまでいっても西くんだった。
「謝んねぇよ!」
叫んだ菊池先輩に間髪入れずに言い放った西くんは、掴み合っている服を振り解くように菊池先輩を突き飛ばした。
「泣けばいいんだよ! 泣いて泣いて泣いてっ、泣き尽くせばいい!」
最低の男だ。
なんのために? 僕は何のために泣けばいいの? なんでそうまでして西くんのために泣かなきゃいけないんだよ。なんでそんなこと……言われなきゃいけないんだよ……っ。
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