上 下
184 / 198
第二十一章:ヒカリ

しおりを挟む
「殴って気が済んだか? 殴れば颯太が手に入るか? 俺が颯太を一番にすると思うか? それとも颯太を諦めるとでも思ったのか!?」
「西ぃぃ!!」

 腹の底から響くような声で唸った菊池先輩は再び西くんの服を掴みあげた。

「やめてください!」

 今度こそ間に入って止めた。だけど「どけ!」と思い切り西くんに突き飛ばされて、僕は尻餅をついた。

「お前なんかに渡すわけねぇだろうが! 半年そこそこの男が、我が物顔で颯太に愛なんか囁いてんじゃねぇよ!」
「時間なんて関係ないだろ! さぞ昔から自分のもんだと主張したいようだが、だったら偉そうに二番目だのなんだの言うなよ! 本気で好きなら一番にしてやれよ!」
「なんでお前にそんなこと言われなきゃなんねんだよ! 俺の勝手だし、俺らの勝手だろうが!」
「三木が何度泣いてると思ってるんだ!」
「泣くなら泣けばいい! 俺は別にそれが悪いことだなんて一つも思ってねぇよ!」
「はぁぁぁっ!?」

 わぁ……ダメだ。何か分かんないけど西くんが劣勢すぎる!
 色々気になる発言が多すぎて僕も西くんの考えてることがさっぱり分からないけど、このままじゃ論破されちゃう!

「にににっ、西くん! 落ち着いて! 売り言葉に買い言葉が過ぎるよ! もっと冷静になって!」
「俺は冷静だ!」

 絶対に嘘じゃん!

「泣かせてんだよ! 俺はわざと颯太を二番目にしてるし、わざと颯太を泣かせてんだよ!」



 ……え?



 そればっかりは、僕もびっくりした。
 菊池先輩もいつにも増して深く眉間に皺を掘りまくる。

 わざと泣かせてる? ……何のために?

 あまりの衝撃に、言葉もなかった。

 何を考えてるのか分からない人だってずっと思ってた。そこがミステリアスで面白いとも思ってた。けど、今ほどこの意味不明の発言に怒りと悲しみを感じたことはない。

 どういうことだよ。
 弄ぶにも限度があるんじゃない?

「なにそれ? どういう……意味?」

 愕然としてしまった僕に、はっとしてこちらを見た西くんだったけど、咄嗟に謝ることも言い訳することもなく、ぐっと顔を顰め、視線を菊池先輩へと戻した。

 だけど、先輩は僕の顔を見つめながら、掴んでいる西くんの胸倉をぐんっと一度だけ揺らした。

「謝れ」

 でも西くんは何も言わなかった。
 その沈黙は耳に痛いくらいで、僕は……西くんに少しも愛されていなかったのかなって、今になって初めて痛感した。
 なんてマヌケなんだろう。僕はわざと泣かされていたんだ。だから無視されていたし、だから二番目なんだ。

 悔しいとか、悲しいって感情は確かにあるのに、何故か涙は出なかった。
 と言われたからかもしれない。体が勝手に『泣くもんか』って思ってるのかな。

 言葉もない僕に、菊池先輩はやっぱり優しかった。

「謝れって言ってるんだ!!」

 そう言って西くんを怒ってくれるから。
 だけど、西くんはどこまでいっても西くんだった。

「謝んねぇよ!」

 叫んだ菊池先輩に間髪入れずに言い放った西くんは、掴み合っている服を振り解くように菊池先輩を突き飛ばした。

「泣けばいいんだよ! 泣いて泣いて泣いてっ、泣き尽くせばいい!」

 最低の男だ。

 なんのために? 僕は何のために泣けばいいの? なんでそうまでして西くんのために泣かなきゃいけないんだよ。なんでそんなこと……言われなきゃいけないんだよ……っ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件

水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて── ※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。 ※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。 ※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。 その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。 呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!? 果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……! 男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?) ~~~~ 主人公総攻めのBLです。 一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。 ※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。

処理中です...