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第二十一章:ヒカリ

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 この恋は誰も幸せになんかしなかった。
 誰も救われず誰も報われず、たくさんの人を巻き込んで、たくさんの人を傷つけた。西くんにしてみれば、一世一代の大恋愛のつもりだってなかったろうにさ。酷い目に遭わせてしまったと思う。

 でもこれで終わるよ。
 もう大丈夫。これで全部終わる。往生際悪く、「嫌だ」なんて、口が裂けても言わないって誓うよ。最後くらい、素直に西くんの別れの言葉を受け入れてみせるから。

 ベッドを下り、髪をセットして、コンタクトを入れた。何か羽織るものを探しにクローゼットを開け、いつかに西くんが買ってくれたブルゾンをハンガーから取った。

「雷哉はカーデだったな」

 秋色の可愛いカーディガンだった。
 それを思い出しながら、僕は黒いブルゾンを羽織って姿見で確認する。
 僕は何故か、黒をチョイスされることが多かった。何か理由でもあったのだろうか。単純に僕が汚れていたから? だから黒で隠していたのだろうか。
 だとしたらそれはきっと……西くんの優しさだ。

 分かり辛いけど、きっとそうだよね。

 西くんからの電話を終えてから十五分。
 連絡はまだ来ない。
 道が混んでいるのだろうかと思いながら、窓の外を眺めていると、ふとマンションの真下に少しの人だかりが出来ていることに気付いた。何だろうと思って窓を開けて覗き見る。どうやら喧嘩のようだった。

 トレンチコートの男性と、綺麗めのジャケットを羽織っている男性がお互いの胸倉を掴み合っている。まだ二十時にもなってないけど早くも酔っぱらっているのだろうか。

「ぅわ、玄関先でやめてよ」

 迷惑な人達だなと思いながら西くんからの連絡を待つ。今到着したって連絡が入ったら、あの人だかりの中を通らなきゃいけない。ほんとにやめてほしい。

 そう思ったけど、五階のこの部屋にも届くほどの大声が、通りに大きく響き渡った。

「西っ!!」

 その声は開け放した窓からはっきりと聞こえ、そのままトレンチコートの男がマンションの壁に叩きつけられたのが見えた。

「お前、ほんといい加減にしろよ!!」

 その声の主が、菊池先輩だということも気付いた。
 そう、マンションの玄関先で取っ組み合いの喧嘩をしていたのは、西くんと菊池先輩だったんだ。

「え!? 嘘でしょ!?」

 ちょっと待って! こんな目立つ場所で喧嘩なんてしないでよ!

 僕は慌てて部屋を飛び出し、マンションの外に飛び出した。

 そこには野次馬が数人、面白がって動画や写真を撮っている。
 待て待て待て! 週刊誌が飛びつくネタじゃないか!
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