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第二十章:別れの覚悟

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 そんなわけない。ありえない。人の心だけは、簡単に手に入れられないんだよ。僕はそれを七年も前から知ってる。どれだけ尽くしても、どれだけ努力しても、どれだけ我慢しても、この両手で人わし掴んだ掴んだことなんて、ただの一度もないんだから。

 それを分かっているから頷くことは出来ない。
 雷哉が居ても居なくても一緒なんだ。

「いいえ、いいです。もう……これ以上」

 僕の都合で誰かが退所に追いやられるなんて嫌だから。

 菊池先輩は、飲み込んだ僕の言葉を理解しているような瞳で頷くとそっと僕に手を重ねて来た。

「三木。過去は消えない。後悔だって先には立たない。だけど、未来は選べるんだ」

 柔らかく微笑んだ先輩は、西くんとよく似ているストレートヘアをさらりと揺らしてそう言った。

「もちろん、その都度選んだ未来は、その都度過去になるし、失敗も後悔もあるだろうけどさ、その時に選らんだはずの未来は、きっといつだって希望の光があったんじゃないのかなって、俺は思うよ」

 希望の……光。

 言われて一番に思い浮かんだのは、やっぱり雪村さんだった。彼こそが僕を救い出してくれる唯一の突破口だと、あの時確かにそう信じていた。それは確かに、『希望の光』だったよ。

 雪村さんを思い出す僕を、まるで見抜いているように菊池先輩は続けた。

「結果はどうであれ、誰だって手を伸ばしたはずだよ。だってそこには、光があったんだ。そうだろ?」

 ダメだと頭の片隅では分かっていたのに、僕は雪村さんという光に手を伸ばした。それをそんな風に肯定されるなんて思ってもみなかった。

「ユキは特殊だよ。あんな奴、他に知らない」

 菊池さんですらそう思うのか。
 あんなに綺麗な人、この先一生かけて出会えるかどうか分からない。僕もそれを強く思うんだ。

「だから三木」

 ぐっと重なっている手を握り込まれ、僕は自然と菊池先輩へ視線を向けた。

「光の無い未来を選ぶ必要なんてないんだ。光を選んだからこそ、三木を苦しめ続けたパーティーは消滅したし、一番欲しかった自由だって手に入れられたんだろ? それが例えどんな形で在るにしろ、それは確かに “事実” としてあるじゃないか」

 そう言った菊池先輩の言葉は、その後ずっと僕の中をぐるぐると巡り巡った。

 先輩に抱かれながら考えた。
 僕は今、どこに「光」を見ているのだろうか、と。

 欲しい未来と、見えている光は、果たして同じ方向だろうか、と。

 僕の身体の中を行き来している菊池先輩は、二度目の射精時、僕を抱きしめながら言ってくれた。


 『俺を選べよ』と──。





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