二番目の恋人 ~僕の恋はいつだって一番になれない~

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第二十章:別れの覚悟

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 そっと視線を菊池先輩へと上げ、ゆるゆると首を振る。

「まだです。……けど」

 けど、その時期は近い。とても近い。そんな風に感じるんだよ。
 二人きりで会えば、別れ話を切り出されるかもしれない。もう別れてくれって、頭を下げられるかもしれない。

 そんなのいやだ。

「僕……、怖いです。西くんに捨てられたら……僕……」

 どうすればいいか分からない。だって僕らはこれからもずっとcodeで居続けるんだ。『大丈夫、思い出を沢山作って未練を残さないように』なんて……そんなの無理だろ。

 現実を見せつけられて、初めて知る。

 そしてまた思い出す。「殴ってほしかった」と言った雪村さんの言葉を。
 あの日、冷静さを欠いていた雪村さんは僕を抱いた。だけどそれと同時に「現実」を知ったんだ。

 フォークを持つ手は小さく震え、カタカタとわずかに音を立てた。
 雪村さんは現実を知って、完全に取り乱した。僕はそれを目の当たりにしている。
 あの時雪村さんがどんな気持ちだったのか、どんなに辛かったのか、どんなに腹立たしくて、どんなに苦しかったか。今なら……手に取るように分かるよ。

 “何も知らない” ということが、どれだけ平和で、どれだけマヌケなのか。そして何故あの時、僕をもう一度抱いたのか。それですら理解出来てしまう。

 こんなことってないよな。雪村さんがどれだけ凄い人なのか、改めて思い知らされる。何度でも何度でもあの人は僕の想像を超えていく。そして何度でも何度でも、僕はずっと救われっぱなしだ。

 僕はバカだ。
 僕はバカでマヌケで……何も出来ない。雪村さんのように強くはなれない。爪を噛みながら、この悔しさに立ち尽くすだけだ。
 だってそれ以上、どうしたらいいって言うんだ。僕には雪村さんと同じ「優しさ」なんて持ってない。真似すらできない。

 ただただ雷哉が憎い。雷哉さえいなければ、そう思ってしまうよ。あの髪型も、あの無邪気さも、あの笑顔も、全部……全部、憎らしい……っ!

「西も分かりやすい男だな」

 捨てるようにそう言った菊池先輩は窓台にケーキのお皿を乗せると、「捨てられたりしないさ」と何の根拠もない言葉を僕に寄越した。

 スパークリングワインはグラスの中で小さな気泡を浮き上がらせ、パチパチと弾けてゆく。そのグラス越し。菊池先輩は僕を見つめた。そしてその強い瞳のまま、血も涙もない言葉を簡単に口にする。

「それとも、俺が瀬戸を消してやろうか?」

 そう……、この人はこういう人だ。それはどこか永井くんの狂気に似ている。

 パーティーは解散された。それでも初期パーティーは、尚も権力を握っているのか。ここで僕がお願いしますと頭を下げれば、雷哉は消えるの? 事務所を辞めることになるの?

 ごめん、心底消えて欲しいと思う。もう二度と僕の前に姿を見せないで欲しい。


 だけど──、そんな事で西くんの心は僕だけに向いてくれるだろうか?


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