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第十七章:大凶くじ
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テレビ局の中庭で見た泣き顔の雪村さんが、ふと脳裏を過った。
あれは壊れる寸前だったのかもしれない。あんなにカメラの前では完璧だったのに、彼氏に寄り掛かる雪村さんはあまりに頼りなかったから。
でも、だからこそ恋人の存在が雪村さんを支えるんじゃないの?
単純にそうだと思ったけど、雪村さんの瞳は「今が正解の在り方」なのだと言っているようだった。
「それで……、そんなんで……雪村さんはいいんですか?」
「大丈夫だ。一緒に居たら、いつまで経っても俺は甘やかされるし、俺もいつまで経ってもそのぬるま湯の中に居続けるから」
雪村涼の品質を保つために、別れたってこと?
「あの事件は全然関係ない。単純に、俺もあいつも、互いに依存しすぎてただけなんだよ」
そこまで言うと、雪村さんは携帯で時間を確認すると「そろそろ行くか」と非常階段を出た。
「で。お前はこれからどうやって西を落とすんだ? ずっと二番目のつもりか?」
そう……なんだよね。
たぶん、何もしなけりゃ一生そのままな気がする。でもどうすれば一番になれるっていうのさ。僕は女の子にはなれないし、西くんにとって “自慢の恋人” になんかどうやってもなれないもん。僕にはこれからずっとディッシュだった過去が付きまとうんだから。
「分かりません」
「でも現状に満足するなよ」
決して厳しい声色ではなかったけど、その言葉は目が覚めるようだった。
思わず見上げた雪村さんの横顔。それに気付いた彼も僕も見つめ、「奪いに行け」って小さな声で僕の弱腰を押し上げようとしてくれた。
だけど──。
「西のお相手は誰か分かってんのか?」
たったそれだけの言葉で、僕の腰はさっさと引けてしまった。
相手は、男かもしれない。
女かもしれないけど、どちらにしたって『大本命』だ。僕と一緒にいる時には彼女の事、思い出さないって言ってたくせに、結局思い出して、僕からのキスマークを拒否しちゃうんだからさ。
なんで西くん、あんなにモテるんだよ。
どこで出会うんだよ。どうやったらそんなに人がよりついてくるんだよ。僕だけじゃダメなの? やっぱり僕がディッシュだったからいけないの? 永井くんを愛して、色んな男と寝て、雪村さんを巻き込んで、菊池先輩に寄り掛かったからいけないの?
でもたぶん違う。なにかもっと……根本的なものが。
「……先輩、僕」
どうすればいいか分からない。
どうすれば西くんの本命になれるか分からない。今までの彼女を一人も知らないんだ。好きな女性の系統すら知らないんだよ。
「たぶんもう……ダメです。西くん大本命の相手、見つけちゃったみたいで」
自分の声があまりに弱々しくて情けなく感じた。泣くなって自分に言い聞かせるけど、「やめろ」と僕のキスマークを拒否した西くんの声が……冷たくて。
「僕……振られるかもしれません」
一緒に暮らさないかって言って貰ったのに。あの時断らなきゃ良かった。掃除夫扱いでもいいから、転がり込めば良かった。そしたら少しは違っていたのかな? 僕以外の恋人を作るのを、もう少し先延ばしにしてくれていたのかな?
じわりと滲み出る涙を慌てて指先で拭った時、廊下の前方から菊池さんの声が響いた。
「見ぃ~ちゃった」
あれは壊れる寸前だったのかもしれない。あんなにカメラの前では完璧だったのに、彼氏に寄り掛かる雪村さんはあまりに頼りなかったから。
でも、だからこそ恋人の存在が雪村さんを支えるんじゃないの?
単純にそうだと思ったけど、雪村さんの瞳は「今が正解の在り方」なのだと言っているようだった。
「それで……、そんなんで……雪村さんはいいんですか?」
「大丈夫だ。一緒に居たら、いつまで経っても俺は甘やかされるし、俺もいつまで経ってもそのぬるま湯の中に居続けるから」
雪村涼の品質を保つために、別れたってこと?
「あの事件は全然関係ない。単純に、俺もあいつも、互いに依存しすぎてただけなんだよ」
そこまで言うと、雪村さんは携帯で時間を確認すると「そろそろ行くか」と非常階段を出た。
「で。お前はこれからどうやって西を落とすんだ? ずっと二番目のつもりか?」
そう……なんだよね。
たぶん、何もしなけりゃ一生そのままな気がする。でもどうすれば一番になれるっていうのさ。僕は女の子にはなれないし、西くんにとって “自慢の恋人” になんかどうやってもなれないもん。僕にはこれからずっとディッシュだった過去が付きまとうんだから。
「分かりません」
「でも現状に満足するなよ」
決して厳しい声色ではなかったけど、その言葉は目が覚めるようだった。
思わず見上げた雪村さんの横顔。それに気付いた彼も僕も見つめ、「奪いに行け」って小さな声で僕の弱腰を押し上げようとしてくれた。
だけど──。
「西のお相手は誰か分かってんのか?」
たったそれだけの言葉で、僕の腰はさっさと引けてしまった。
相手は、男かもしれない。
女かもしれないけど、どちらにしたって『大本命』だ。僕と一緒にいる時には彼女の事、思い出さないって言ってたくせに、結局思い出して、僕からのキスマークを拒否しちゃうんだからさ。
なんで西くん、あんなにモテるんだよ。
どこで出会うんだよ。どうやったらそんなに人がよりついてくるんだよ。僕だけじゃダメなの? やっぱり僕がディッシュだったからいけないの? 永井くんを愛して、色んな男と寝て、雪村さんを巻き込んで、菊池先輩に寄り掛かったからいけないの?
でもたぶん違う。なにかもっと……根本的なものが。
「……先輩、僕」
どうすればいいか分からない。
どうすれば西くんの本命になれるか分からない。今までの彼女を一人も知らないんだ。好きな女性の系統すら知らないんだよ。
「たぶんもう……ダメです。西くん大本命の相手、見つけちゃったみたいで」
自分の声があまりに弱々しくて情けなく感じた。泣くなって自分に言い聞かせるけど、「やめろ」と僕のキスマークを拒否した西くんの声が……冷たくて。
「僕……振られるかもしれません」
一緒に暮らさないかって言って貰ったのに。あの時断らなきゃ良かった。掃除夫扱いでもいいから、転がり込めば良かった。そしたら少しは違っていたのかな? 僕以外の恋人を作るのを、もう少し先延ばしにしてくれていたのかな?
じわりと滲み出る涙を慌てて指先で拭った時、廊下の前方から菊池さんの声が響いた。
「見ぃ~ちゃった」
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