143 / 198
第十七章:大凶くじ
8
しおりを挟む
この大凶過ぎる黒猫に、僕だけ気が気じゃない。だけど、深呼吸して気持ちを整えていると、雪村さんの大きな手がポンっと優しく僕の頭を撫でた。
これを、菊池先輩も天道さんも阿部さんも見ていたのだろうけど、三人とも見て見ぬふりをして「揃ったチームから座ってくださーい」という志村さんの指示に従い、三人はまとまって腰を下ろした。
隣に立つ雪村さんは穏やかな笑顔を僕に見せ、そっとその場に腰を下ろした。
優しくて大きな手。僕の事、少しくらい恨んだっていいのに、その手から伝わる温もりには優しさしかなかった。尚も僕のことを心配しているかのように、大きくて愛情深い温もりを感じた。
お人好しとかいうレベルじゃない。聖人だよ、ほんと。出家でもするつもりかってくらい、慈悲深くて寛大だ。
こんな人だから、佐久間さんが……初期パーティーが、全身全霊をかけて守ろうとするんだ。本当にすごい人。人間力が、桁違いだよ。
僕も先輩に続いてそっと腰を下ろす。隣。懐かしい先輩の匂い。変わってない。雪村涼は “怖い人” のはずなのに、彼の纏う空気は、近づけば近づくほど、泣きたくなるほど優しいんだ。
半径1メートル以内は危険区域って言われていたけど、それって彼の纏う空気があまりに優しすぎるからなのかもしれないな。 “怖い人” が “怖い人じゃなくなる” から……。
「ちゅうも~~く!」
SYNC BEATの志村さんが声を張り上げると、ざわついていた部屋は一気に静まり返った。
「歌う順番はこの通り。導線も記入してるんで、ダンスレクチャーが終わるまでに必ず確認しておくようにしてください! 各グループ持ち時間は約2分。定位置で歌うグループと、移動しながら歌うグループがあるんで、それはレクチャーの際に聞いてください。で、いずれのグループも最後はメインステージに集結してもらって、お馴染みのJump aroundで締めます。以上! 分かった人ー!」
はーい、と野太い返事が返される。
事務所の歌、「Jump around」。要するに社歌だ。誰の歌ってわけじゃなくて、事務所全員の歌。入所したら、まずこの歌を覚えて、この歌のダンスを覚えることから始まる。
ちなみにこの曲はグループ毎にリミックスが作られており、デビュー時のカップリング曲となる。オリジナルのダンスはマストだけど、各グループ、ダンスの振りが微妙に違っていたりもする。マニアなファンはこのJump aroundのリミックスを全部揃えるっていう楽しみ方をしてるみたい。
一曲目を任されるのは、dazzling darlingチーム。西くんが配属されたグループだ。ダンスレクチャーが始まり、後のメンバーはそれぞれのグループに分かれたまま談話を始めた。それはもちろん、うちのグループも。
初期メンバーの三人はさすがに仲が良く、チキンラーメンがどうだとか、サッポロ一番は絶対に味噌だとか塩だとか、くだらない話に花を咲かせる。雪村さんに至っては、UFOのソースをコタツ布団にぶちまけたことがあるとか言い出すから、僕以外がわっと声を上げて笑い、即席麺について四人は大いに盛り上がっていた。
これを、菊池先輩も天道さんも阿部さんも見ていたのだろうけど、三人とも見て見ぬふりをして「揃ったチームから座ってくださーい」という志村さんの指示に従い、三人はまとまって腰を下ろした。
隣に立つ雪村さんは穏やかな笑顔を僕に見せ、そっとその場に腰を下ろした。
優しくて大きな手。僕の事、少しくらい恨んだっていいのに、その手から伝わる温もりには優しさしかなかった。尚も僕のことを心配しているかのように、大きくて愛情深い温もりを感じた。
お人好しとかいうレベルじゃない。聖人だよ、ほんと。出家でもするつもりかってくらい、慈悲深くて寛大だ。
こんな人だから、佐久間さんが……初期パーティーが、全身全霊をかけて守ろうとするんだ。本当にすごい人。人間力が、桁違いだよ。
僕も先輩に続いてそっと腰を下ろす。隣。懐かしい先輩の匂い。変わってない。雪村涼は “怖い人” のはずなのに、彼の纏う空気は、近づけば近づくほど、泣きたくなるほど優しいんだ。
半径1メートル以内は危険区域って言われていたけど、それって彼の纏う空気があまりに優しすぎるからなのかもしれないな。 “怖い人” が “怖い人じゃなくなる” から……。
「ちゅうも~~く!」
SYNC BEATの志村さんが声を張り上げると、ざわついていた部屋は一気に静まり返った。
「歌う順番はこの通り。導線も記入してるんで、ダンスレクチャーが終わるまでに必ず確認しておくようにしてください! 各グループ持ち時間は約2分。定位置で歌うグループと、移動しながら歌うグループがあるんで、それはレクチャーの際に聞いてください。で、いずれのグループも最後はメインステージに集結してもらって、お馴染みのJump aroundで締めます。以上! 分かった人ー!」
はーい、と野太い返事が返される。
事務所の歌、「Jump around」。要するに社歌だ。誰の歌ってわけじゃなくて、事務所全員の歌。入所したら、まずこの歌を覚えて、この歌のダンスを覚えることから始まる。
ちなみにこの曲はグループ毎にリミックスが作られており、デビュー時のカップリング曲となる。オリジナルのダンスはマストだけど、各グループ、ダンスの振りが微妙に違っていたりもする。マニアなファンはこのJump aroundのリミックスを全部揃えるっていう楽しみ方をしてるみたい。
一曲目を任されるのは、dazzling darlingチーム。西くんが配属されたグループだ。ダンスレクチャーが始まり、後のメンバーはそれぞれのグループに分かれたまま談話を始めた。それはもちろん、うちのグループも。
初期メンバーの三人はさすがに仲が良く、チキンラーメンがどうだとか、サッポロ一番は絶対に味噌だとか塩だとか、くだらない話に花を咲かせる。雪村さんに至っては、UFOのソースをコタツ布団にぶちまけたことがあるとか言い出すから、僕以外がわっと声を上げて笑い、即席麺について四人は大いに盛り上がっていた。
10
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説




いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる