二番目の恋人 ~僕の恋はいつだって一番になれない~

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第十六章:別れ話

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 でも今はそんな欲さえもかけない。けどその気持ちが分かるからこそ、菊池先輩の目を見つめ続けられない。だって僕は、同じだけ貴方を愛すことが……出来ないから。

 愛されないことがどれだけ悲しいことか、どれだけ虚しいことか、どれだけ情けないことかを知っているから。

「ご……、ごめ……なさ……っ」
「謝らないでよ」

 最後まで言えないまま、言葉を遮られ、菊池先輩は席を立った。そして──。

「キミがまた泣かされるようなら、今度こそ本気で奪いに行くから」

 こんな僕を……まだ愛してくれる菊池先輩に涙は堰を切って、店を出ていくベルの音を背中で聞いた。

 優しい人……、菊池先輩。もっともっともっと早く出会っていれば、きっとこんな事にはならなかったのに。
 なんで菊池先輩じゃなくて、西くんなんかを好きになっちゃったんだろう。どれだけ考えたって、やっぱり可笑しいと思う。どこをとっても、西くんより菊池先輩の方がいい男だから。

 それでも、僕には西くんが一番……カッコよくて優しくて、愛しくて、そばに居たい人。

「おい、いつまで待たせるつもりだ、てめぇ」

 ゴツンとごつめの本で頭をどつかれた。
 感傷に浸っているのに、邪魔してくる無神経な男は、言わずもがな西克己だ。

「……ごめんなさい」
「やっぱりさっきの菊池さんだったんじゃん。話終わったならさっさと戻って来い。俺を炎天下の車の中に閉じ込めて殺そうとでもしてんのか?」
「……いいえ。とんでもないです」
「お前が付いてきてくれって言ったんだろうが。せめて終わったんならメール一本入れるくらいの配慮はしろよ。気が利かねぇ野郎だな、この薄ノロマ」
「……すみませんでした……」
「自分で別れ話しておきながら嬉しそうに泣いてんじゃねぇよ」

 最後そう言って、僕にハンドタオルを差し出してくれた西くんは「行くぞ」と汗一つかいていない涼しげな顔で踵を返した。

 車の中で待っていなかったのは歴然だ。たぶん、道路を挟んで向こう側にある書店で時間を潰していたのだろう。このカフェも、その本屋も全面ガラス張りだから。

 渡されたタオルで涙を拭い、僕も席を立った。
 だけどふと、タオルから西くんの匂いがしなかったと気付いた。もう一度匂いを嗅いだが、疑うほどに、完全無臭。

 前を歩く西くんは、やっぱり僕の大好きな西くんだと思い知らされた気がした。僕が泣いてるのを……きっと本屋から見てたんだね。だから隣のコンビニでこれを購入したの? なんて……なんて不器用で、なんてナチュラルにいい男なんだろう。

 キミのそういうところが大好きなんだよ。
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