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第十六章:別れ話
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「そうなんだろ!? 雪村さんのために……、一緒に居るために……パーティーを抜けようとしたんだろ?」
それはとんだ勘違いだ。
「違うよ!」
弾かれたように、僕は声を張り上げて否定した。
「何言ってるんだよ、西くん! 雪村さんは関係ない! これは僕が……っ、単純に僕が望んだ “自由” だ!」
半信半疑の瞳が睨むように僕を見つめる。
「信じて! 本当に違う! だって僕は……っ、僕が好きなのは……、好き……なのは」
そこまで言って、急に西くんの名前を出すのが怖くなった。
また、「だったらなんで」とか「今更何言ってるんだ」とか、「二番目の分際で」って言われるんじゃないかって思った。そんな事絶対言われたりしないのに、もしかして言われるかもしれないって思ったら、勝手に体が硬直した。
これは西くんが信用できないわけじゃない。
自分に自信がないからだ。もう僕は “ディッシュ” じゃないのに、体と心に染みついているこの劣等感は、そう簡単に消えてはくれない。
消えるわけはない。
「……なんだよ。言えよ。誰が好きなんだよ。……神谷か?」
捨てるように言葉を投げつけられる。
神谷……くん。
……ううん、違う。
そりゃ神谷くんと恋人同士になれたらいいなって思った時期もあった。雪村さんが恋人だったら完璧だなって思った瞬間もあった。全部を全部、否定はしない。
でも、全然違うよ。なんでわかんないかな?
ふるふると首を振ったけど、西くんは全然信用してないって顔で、やけくそとも取れる言葉を吐き捨てた。
「例えばお前を二番目じゃなくて本命にしてたら、お前は俺を頼ったのか?」
いや……余計に……頼らなかったよ。何があっても、絶対に──。
うんともすんとも言えない僕に、西くんは唇をかみしめるようにして顔を背かせると、「二番目は俺の方だったわけだ」と落とすように言葉を漏らした。
「自業……自得だな。くそつまんねぇ結末だ」
それだけ言うと、乱暴にトイレのドアへ手を掛けるから、今度は僕がそれを掴んで止めた。
「違う。二番目なんかじゃ……ない」
悔しそうな西くんの声。瞳。言葉。
好きだと伝えることなんか、二番目の恋人をしている時に何度だって言ったのに。何度だって伝えたのに。
なのになんで、自分に “自由” が与えられた瞬間、これがこんなに恐怖に変わるんだろう。今までと同じように、……だけど同じじゃないんだと分かるように、ちゃんと「好き」だと言うだけだ。
好きなのは、西くんだけなんだと。
「僕は、キミを……守りたかった。誰より一番……大切だから、巻き込みたくなかった。僕が唯一 “幸せ” で居られる西くんの隣を……、誰にも壊されたくなかったんだよ」
込み上げてくる涙は、西くんの顔を少しずつ滲ませていく。
「一番でも、二番でも、三番でも四番でも、何番目だって……僕にとって西くんの隣は、ずっと一番だよ。だから、彼氏辞めるなんて言わないで……っ! 僕は西くんがいい。西くんが好きだから……っ、この世で一番好きだから、だから、一番じゃなくていいから……、もう一度……僕を愛して欲しい……っ」
決壊した涙は幾筋も幾筋も頬を伝って、ポタポタと顎の先から落ちていった。
「僕が好きなのは……西くんただ一人だけだよ」
それはとんだ勘違いだ。
「違うよ!」
弾かれたように、僕は声を張り上げて否定した。
「何言ってるんだよ、西くん! 雪村さんは関係ない! これは僕が……っ、単純に僕が望んだ “自由” だ!」
半信半疑の瞳が睨むように僕を見つめる。
「信じて! 本当に違う! だって僕は……っ、僕が好きなのは……、好き……なのは」
そこまで言って、急に西くんの名前を出すのが怖くなった。
また、「だったらなんで」とか「今更何言ってるんだ」とか、「二番目の分際で」って言われるんじゃないかって思った。そんな事絶対言われたりしないのに、もしかして言われるかもしれないって思ったら、勝手に体が硬直した。
これは西くんが信用できないわけじゃない。
自分に自信がないからだ。もう僕は “ディッシュ” じゃないのに、体と心に染みついているこの劣等感は、そう簡単に消えてはくれない。
消えるわけはない。
「……なんだよ。言えよ。誰が好きなんだよ。……神谷か?」
捨てるように言葉を投げつけられる。
神谷……くん。
……ううん、違う。
そりゃ神谷くんと恋人同士になれたらいいなって思った時期もあった。雪村さんが恋人だったら完璧だなって思った瞬間もあった。全部を全部、否定はしない。
でも、全然違うよ。なんでわかんないかな?
ふるふると首を振ったけど、西くんは全然信用してないって顔で、やけくそとも取れる言葉を吐き捨てた。
「例えばお前を二番目じゃなくて本命にしてたら、お前は俺を頼ったのか?」
いや……余計に……頼らなかったよ。何があっても、絶対に──。
うんともすんとも言えない僕に、西くんは唇をかみしめるようにして顔を背かせると、「二番目は俺の方だったわけだ」と落とすように言葉を漏らした。
「自業……自得だな。くそつまんねぇ結末だ」
それだけ言うと、乱暴にトイレのドアへ手を掛けるから、今度は僕がそれを掴んで止めた。
「違う。二番目なんかじゃ……ない」
悔しそうな西くんの声。瞳。言葉。
好きだと伝えることなんか、二番目の恋人をしている時に何度だって言ったのに。何度だって伝えたのに。
なのになんで、自分に “自由” が与えられた瞬間、これがこんなに恐怖に変わるんだろう。今までと同じように、……だけど同じじゃないんだと分かるように、ちゃんと「好き」だと言うだけだ。
好きなのは、西くんだけなんだと。
「僕は、キミを……守りたかった。誰より一番……大切だから、巻き込みたくなかった。僕が唯一 “幸せ” で居られる西くんの隣を……、誰にも壊されたくなかったんだよ」
込み上げてくる涙は、西くんの顔を少しずつ滲ませていく。
「一番でも、二番でも、三番でも四番でも、何番目だって……僕にとって西くんの隣は、ずっと一番だよ。だから、彼氏辞めるなんて言わないで……っ! 僕は西くんがいい。西くんが好きだから……っ、この世で一番好きだから、だから、一番じゃなくていいから……、もう一度……僕を愛して欲しい……っ」
決壊した涙は幾筋も幾筋も頬を伝って、ポタポタと顎の先から落ちていった。
「僕が好きなのは……西くんただ一人だけだよ」
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