二番目の恋人 ~僕の恋はいつだって一番になれない~

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第十六章:別れ話

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 ドンっと西くんを押し退け、個室のドアに手を掛けた。だけど、その手を咄嗟に掴まれ、僕は乱暴に便座に座らされた。

「おい、聞け颯太」
「聞かない! どいてよ! 西くんと話すことなんてもうない!」
「颯太!」

 掴まれた手をギリっと握り込まれる。

「痛《つ》……っ、放して! なんで僕だけこんなに言われなきゃいけないんだよ! もういやだ、こんな世界! 自分を変えたいのに……っ、それすら許してもらえない! 自由すらも望めない! もう十分だ! codeもアイドルも辞める! こんな事務所……っ、辞める! それが皆の望む僕の “けじめ” なんだろ! だったら今すぐ辞めてきてやる! どけ!」
「颯太っ!」
「邪魔だ、退けったら!!」

 西くんを力の限り押し退け、個室を勢いよく飛び出した。

 何が責任だ。なにがcodeに迷惑を掛けたくないだ。この現状を受け入れて時間が経つのをただじっと待っている今の方がずっとずっと “簡単” だ! 耐えて耐えて耐えて我慢して、自分を変えないまま周りが変わるのを待ってるだけなんて、そっちの方が楽じゃないかよ!

 この世界に救いなんかない! 自分で探しに行かなきゃ「自由」なんてない!

 僕に、「死ぬな」って言ってくれた雪村さんだけが僕の光で、僕の道しるべだ。死にたいなんて思えない世界を、自分で探しに行かなきゃいけない。ここじゃ無理だ……っ! 嫌でも毎日死にたくなる。信じていた西くんでさえも……っ。

 バタバタと出口へ走ったが、扉を開く寸前、しつこい西くんに再び掴まった。
 トイレから出ることすら叶わず、痛いほど壁に体を叩き付けられる。

「痛いっ、何するんだよ!」
「違う、聞けっ! そういうことじゃない!」
「どういうことだって僕には同じだよ! バカみたいに腰を振ってるように見えたんだろ!? だったらそれでいい! 否定なんかこれっぽっちもしない! “僕はバカみたいに腰を振ってました”! これで満足なんだろッ!?」
「颯太ッ!!!!」

 僕の手首を掴んだまま、どんっと壁を殴った西くんは、「違う」と顔を歪めて首を振った。

 何が……違うんだよ。

「そうじゃない。そういうことじゃ……ない」

 力なく、呟くように否定した西くんは、目を細めて僕を見た。

「地獄とか……バカとか……、なんでそんな事言うんだよ。俺と居た時間、全部……地獄だって、つまんねぇ時間だって……そう思ってたのかよ」

 最後、わずかに震えた声。

「お前が……、お前の様子がおかしいことに、俺が気付かないとでも思ったか? ずっと思いつめた顔しやがって……、言えよ! ずっとそばに居たのに、言えるチャンスなんていくらでもあったのに、なんで何も言わなかったんだよ? ……なんで、……なんで雪村さんに縋ったんだよ。なんであの人と寝て、あの人を頼ったんだよ! なんで俺はお前のピンチに駆けつけてもやれないんだよ!」

 初めて見るかもしれない。本気で悔しそうな、西くんの……顔。

 いや……違う、初めてじゃない。見たことがある。初めて西くんと喋った時。上手くダンスが出来なくて……そうだ、西くん、悔しそうに天井を仰いだ。

 当然、あの時の表情と今とじゃ、全然比べ物にならないけど、もしかしてあの時言っていたの “あの人” って……。

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