二番目の恋人 ~僕の恋はいつだって一番になれない~

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第十四章:失 恋

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「事が落ち着けば、そういうことになるね。俺達は力を持たなくなる。その力は全部まとめてボスに返却、かな?」

 別になくてもいいものなんだって言っているような笑顔で、簡単にそう言い切った。

「あ、だけど。佐久間はそうはいかないけどね。これから先もずっと佐《あ》久《い》間《つ》はボスの影武者だ。あいつが『パーティーを解散させる』と言い出したからさ。その責任をあいつはこれから先も影武者という形で取り続けなきゃならない」

 影……武者。

 いや、誰も影武者だなんて気付かないだろう。絶対に分からない。佐久間さんは今までもずっとパーティーのてっぺんだと言われていたんだから。

 永井くんは知っているんだろうか。ボスの正体を、どこまで暴いていたんだろう。

「ボス……って、一体……」

 誰なんですか。
 そう聞きかけて、はっと口を噤んだ。
 そんな僕を見て、菊池先輩はやんわりと頷いた。

「うん。知らない方がいい。恐ろしい人だからね」

 恐ろしい人?

 言われて、じゃあ神谷くんではないのか、と思った。神谷くんには微塵の恐ろしさもないから。けど、じゃあ誰だと顔に書いてしまったのだろう僕に、また菊池先輩は笑った。

「あはは。う~そ。半分だけね」

 半分? 半分ってなんだよ。

「知らなくていいし、知ってしまっても知らないふりをした方がいい。 “知らない” ことで、君はいつまででもボスの加護の元に居られる。キミは奇跡なんだ。じゃなきゃ、今君は息すらしていないかもしれないんだから」

 半分嘘で、半分本当。

 じゃあ、ボスは……目の前の人……。菊池……先輩ってこと?


 ごくりと喉が鳴ってしまった。
 だとしたら、粗相があっちゃいけない。怒らせちゃいけない。彼の言うことをすべて守らなきゃいけない。

「お利口だね、三木は。さぁ、ご飯を食べよう? 美味しいよ?」

 食事がまともに喉を通るとは思えなかったけど、逆らうことが急に恐ろしく思えた。
 無理に食べて、無理に笑顔を作った。

 誘われるまま菊池先輩の家に行き、一晩中抱かれた。なんて可愛いんだと、何度もキスをされ、キミみたいな子、初めてだって言いながら飽きるほど僕の身体を愛してくれた。

 そして聞くんだ。

「ねぇ、キミの好きな人って誰なの?」

 と──。
 答えるべきかどうか、迷った。逆らえば、この首を絞められるのかもしれない、と。
 だけど、答えるより先に菊池先輩は僕の耳に優しく囁いた。

「俺のものになりなよ。俺がキミを幸せにしてあげる。だからもう泣かなくていい」

 この人がボスだったのなら……、逆らえないだろ。

「……はい」

 身に余る……光栄です……。


 思い出されたのは、数時間前に怒りをあらわにした西くんの姿。


『俺、お前の彼氏やめるわ』


 乱暴に蹴り飛ばされた椅子の音が耳の奥にこだまして、涙は……幾筋も……とめどなく……流れて落ちた。


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