二番目の恋人 ~僕の恋はいつだって一番になれない~

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第十四章:失 恋

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「せんぱぃ」
「ん? なぁに?」

 にっこりと微笑む菊池先輩は、泣きそうな僕を見て少し困ったように眉を下げた。

「雪村さんは……どうなってますか? 大丈夫なんでしょうか」

 尋ねる僕に目を丸める菊池先輩は、「今日会ったんじゃないの?」と逆に聞いて来た。まぁ、会ったんだけどさ。

「とても完璧な仮面でした。……でも」

 泣いていたんだよ。中庭で恋人と言い争い、涙を流して寄り掛かった。絶対に心の中はボロボロなんだ。

「……そうだね。今日のミュージックライン見てたよ。ユキは、確かに完璧だったね。恐ろしいほどに “雪村涼” だった。ちょっとばかし、鳥肌が立ったくらいだよ」

 声のトーンを押さえてそう言う菊池先輩は、酒の入ったグラスを傾けながら、一口飲む寸前で、やっぱりグラスをテーブルに置いた。

「でもごめんね。俺は今のユキの状態を把握できてないんだ。今は全部を佐久間に任せてる。情報操作もうまくいかなかった。事が事だから、とてもじゃないけど隠蔽作業も情報操作も追いつかなくて、あっという間に事務所に広まってる。ごめんね、三木」

 あぁ、やっぱりそうなんだ。

 菊池先輩の言葉に僕はどこか納得してしまった。そりゃそうだ。事務所内に広まらない方が可笑しい。

「じゃあ、うちのメンバーも全部を知ってしまっているんでしょうか」

 きっとそうなんだろうと思った。だけどそれに関して、菊池先輩は首を傾げた。

「どうだろうか。ユキのグループは失敗したという報告を受けてる。まぁ、人数もいるし仕方ないのかもしれないけど。でも、codeからの報告はまだ受けてないよ」

 そう言われて、成功失敗の報告共有もちゃんと初期パーティー内でされているのだと知ったと同時に、とんでもないことに気付いた。

「報告がないということは、僕らを見張っている人が近くに居るってことですか?」

 一瞬、菊池先輩はぴたりと動きを止めると、ゆっくり僕へ視線を向けた。

「……思ってるより賢いよね、三木って」

 不敵に微笑み、そして言葉を続ける。

「千葉さんだよ。キミんとこのジャーマネ」

 今度こそ酒を一口飲んだ菊池先輩はヘラヘラと口元を緩ませ、グラスを持つ手で僕を指さした。

「一時期、寝ていたことがある」

 いきなりのカミングアウト。かなり驚いた。だってあの人家庭持ちだ。ノンケじゃないの? 第一、パーティーの依頼を受けない人が、なんでうちのマネージャーなんかと!?

「ルックスに似合わずすっごくデカ〇ラで気持ち良かったんだけど、奥さんの前で “菊池くん” なんて僕の名前呼んじゃったみたいでね。ふふふっ、バカだよね」

 そう言い、思い出し笑いに肩を揺らすと、「で、おしまい」とグラスをテーブルに戻した。

「俺達はそれから一度も寝てないけど、でもキミの監視をしてもらうように頼んでいたんだ。その代償に俺がこの体を売ってた」

 とんっと自分の胸に手を当てる菊池先輩。

 僕を監視するため……に体を、売る?

 信じられない言葉だった。
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