二番目の恋人 ~僕の恋はいつだって一番になれない~

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第十四章:失 恋

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 リーダーを挟んで向こう側。
 視線だけを西くんへと向ける。横一列。スタンドに差し込まれたマイクに置かれている手がカッコイイと思った。何度もあの手で頭を撫でてくれた。優しく手を握ってくれた。読書の好きな西くんの、本をめくる指先だって飽きずに見つめることが許された。
 このご時世、書籍はデジタル化されてるのに、西くんはいつも本屋で紙の本を買う。ネットで買いなよと言っても、西くんは立ち読みしたいんだよと言って、小難しい本を立ち読みしては購入する本を吟味していた。
 欲しけりゃ全部買えばいいのにって思うんだけど、西くんは西くんなりに好みというのがあるみたいだった。僕には難しすぎて好みもくそもなかったけどね。

 ……西くん。

 ごめんね、西くん。僕、逃げてばっかで……本当にごめん。でも、でも僕、怖いんだ。君から決定打を突き付けられるのが怖い。最低だと、失望したと、そう言われることが……怖いんだ。その言葉を聞くくらいなら、雪村さんの恋人に首を絞められて殺される方がいい。いやむしろ、その言葉を突き付けられる前にそうして欲しかったのかも……しれない。

 なのに……彼は、笑ったから。

 なんで……笑ったんだよ。なんで責めてくれないんだよ。なんで憎悪の目で見てくれないんだよ。なんで……っ、なんで殺してくれないんだよ……ッ!

 あんなのまるで許すようじゃないか。大丈夫だって、言ってるみたいじゃないか。全然大丈夫じゃないんだろ? 雪村さん今日、遅刻ギリギリだったんだろ? あれだけ普通に振舞ってるのだって全部……全部、虚勢なんでしょ!?

 自分のパートで、上手く声が出切らなかった。完全にズレた。誤魔化すようにアレンジを利かせて歌うと、続いて歌うカトゥンもそれを真似て歌ってくれた。カトゥンの歌唱力で僕のズレを完全にカバーしてくれる。すごい。
 迷惑をかけたと思うよりも先に “すごい” なんて思わせるカトゥンは本当に、歌が上手い。

 一曲歌い終わり、席に戻る最中、カトゥンに礼を言うと、「何のこと」なんて言うから、こいつ天然でフォローしてきたのかよって、これまた彼の才能に感服させられた。

「ううん。じゃあいいや。ただ……ありがとう」

 カトゥンは首を傾げながらニコニコ笑い、「どういたしまして?」って僕の頭をくしゃりと撫でた。そのまま僕の前を歩いてゲストが座るひな壇最上段へと向かう。その後ろ姿を見つめ、撫でられた頭に手を当てた。

 色んな事を思い出す。
 頭を撫でられると、色んな事、思い出すよ。

 思わず漏れ出たため息。

「克己さん」

 僕のすぐ後ろ。西くんを小さく呼び止める女性の声がして、はっと後ろを振り返った。真後ろに西くんがいたことにも驚いたけど、共演の女性シンガーがどこか嬉しそうに西くんの服の袖を摘まみ、大きな瞳で上目使いをした。

「今夜、お食事どうですか?」

 そう言って隣に座る歌手で俳優の男性に目配せする。

「今、一緒にご飯どうって話になってるんだけど」

 西くんは、舞台の仕事をすることが多い。この俳優さんとも何度か共演しているのを知っている。

「僕もご一緒していいんですか? じゃあ、ぜひ」

 こんな風に喋る西くんを知らない。
 透き通る声を低く抑え、まるで社交辞令みたいに返事する。女性シンガつままれているいる西くんの服の袖。華奢で細い指。嬉しそうに笑う女性。うっすらと微笑む西くんは、袖をつかむ女性の手にそっと手を添えると、「また後で」とその手を引き離した。
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